花火
「眞由美さんと付き合い始めたんだって?」
小さな村だ、外出すればかなりの高確率で知り合いと遭遇する。
その用事が買い物ともなれば、なおさらだ。
不意に麻美と出会ってしまった。
どう切り出すか考えていると。
その話題を振って来たのは、意外にも麻美からだった。
「ん・・・そうだよ。」
「おめでとう。」
「ありがと。」
別にいつもと変わらない、ごくごく自然に、そして穏やかに会話できている。
(ああ・・・そっか。)
このときなんとなく麻美の気持ちがわかった。
たとえ恋人が出来たとしても、これまでの二人の時間と距離が無くなるわけではないんだ。
恋愛以外の場所でも、男女で良い人間関係を築く事は出来る。
親友としてのこの距離は失われない。
何も不安になることは無かったんだ。
この前は、少しだけ不安で心が弱くなっただけだろう。
(僕は、良い友人に恵まれたんだな。)
その日の夜。
「夏休みの宿題やって。」
眞由美は切羽詰っていた。
どうやら、一切宿題に手をつけていないらしい。
「何で前もってやっとかないかな。」
「あ、優等生的発言。
嫌味だな〜、こんなんやる気にならないって。
・・・そういえばあんたって頭良いの?」
「そこそこじゃないかな?
大学でも天文やりたいから、高校もある程度の進学校目指してるし。」
「この近くには良いとこ無いじゃん、どうすんの?」
「一人暮らしかな。」
「ふーん。」
眞由美は少し考える仕草をした。
「だったら桐海目指さない?」
県立桐海高校はここから車で二時間程のところにある進学校で、県で二番目の学力の学校だ。
そういえば麻美も桐海を受験しようか考えているらしいが、親元を離れることを考えると悩んでいると言っていたな。
「意外だな。
受けようとは思っていたけれど、眞由美受かるのか?」
「あはは、無理だって。
近くの女子高行くからさ、その方が良いと思って。」
「ん?眞由美も一人暮らしするのか?」
「違うよ。それに私、前にあの辺住んでたし詳しいよ。」
「って、また引越しするのか?
転校してきたばっかりだろ、どこ勤めてんだよ眞由美の親父さん。」
眞由美は少しだけ首をかしげ。
「秘密だよ。」
と答えた。
僕はそれが妙に引っかかっていた。
でも、心地よい今を無くす事の方が嫌なので黙っていた。
「あはは、そんな顔しないのすぐに分かるよ。」
そう言って、ピョンと後ろから抱き付いてきた。
「眞由美って、くっ付くの好きだよね。」
実際、二人でいるとすぐに抱きついたり、腕を組んだりしてくる。
「嫌なの?」
「ううん、嬉しいよ。」
ニパッとお日様みたいな笑顔が返ってくる。
そのまま頬にキスしてきた。
「口にはしないの?」
二人が正面から見詰め合ったとき。
ドーン
大きな音に驚き振り返ると、花火が上がっていた。
僕達の村の夏祭りはもう少し先だし、隣町で花火があるとは聞いていない。
花火の大きさから見ても、かなり離れているようだ。
「綺麗、ここからだとかなり遠くまで見渡せるんだね。」
「確かに綺麗だけど、少し迫力が無いな。
遠すぎだろ。」
「いいんだよ、二人っきりなんだし。
ロマンチックじゃない。」
「そうだな。」
二人で花火を見ていた。
肩から伝わる眞由美の体温に、どこか安心する。
「ねえ、こんな風に・・・肩越しにでも大切な人の存在を感じるとほっとするよね?」
眞由美も同じ気持ちだったようだ。
だから僕は立ち上がって。
「陽一?」
手を取って、そのまま胸の中に引き寄せた。
「もっと安心させてあげるよ。」
ギュッと抱きしめた。
人の温もりと、微かな鼓動を感じる。
(あ、香水の香り。)
見上げてきた眞由美の視線は、嬉しいのにちょっとすねているようだ。
「いきなりかよ〜。」
(照れてる。・・・可愛い!)
そして、どちらからともなく口付けた。
「花火・・・。この村のも中々だよ。
今度の祭り、二人で行こう。」
「うん。」
なんだか僕は、自分が思ってた以上に眞由美が好きみたいだ。
だって、次の約束がこんなにも嬉しいんだから。 |