変わらない星空
雲は早い速度で流れていく。
三日前からのぐずついた天気は、ようやく落ち着きそうだった。
(夜には、晴れるかな?)
まだ、どちらとも言えない空だ。
「最近雨ばっかり。」
眞由美が同じように、空を見上げて言った。
「お前の日頃の行いが悪いからだな、きっと。
転校二日目から雨ばっかりだし。」
(睨むなよ、そんなに。)
「あたし雨って好きじゃないんだよね。」
「何で?」
「普通好きな人いないって、傘さしても服の裾は濡れるし。
靴とかも微妙。」
「俺は見慣れた景色の別の顔が見れるし、たまにならいいと思うけど?」
「大好きな星が見られなくとも?」
雨音を聞きながら反論しようとしたら、チャイムで中断された。
そして退屈な授業が始まる。
そんな眞由美の祈り(?)が通じたのか雨は昼には上がり、放課後には雲の切れ間から少し日が射してきた。
そんな午後の帰り道。
「でも、今日は行っても無駄にしかならなそうだな。」
空の半分以上は雲に覆われていた。
「そっかぁ。ま、しょうがないっか。」
分かれ道。
またね、と呟いて眞由美は自分の家へ向かっていった。
「そういえば。」
(なんで眞由美は星を見に来てるんだろう?)
確かに出会った時をきっかけにして星に興味を持ったと言えなくもないが・・・。
本当に俺に惚れたのか?
そこで、気がついた。
眞由美って家庭の事ほとんど話さないな。
唯一聞いたのは転校の理由でだ、『親の都合』と。
もしかして家族と何かあるのかもしれない。
(その為の逃げ場?)
分からないことを考えても仕方がないか。
機会があれば本人から話すだろうし、話さないのに無理に踏み込みたくない。
雨は降らなそうだが少しだけ家路を急いだのは、余計な思考のためだったろうか。
二十一時を過ぎると空は晴れ渡っていた。
(行ってみるか。)
携帯を取り出し少し迷う。
眞由美は・・・中止って言ったしな。
いつもの荷物を持って、家を出た。
アスファルトには、ところどころ水溜りが出来ていたが概ね乾き始めていた。
高台に着いてから、思い立ってポケットに手を突っ込んだ。
携帯を取り出し、電話帳から番号を探し出し電話した。
コール音が鳴る。
(俺のアドレス消されてないよな?)
不安になり始めた頃。
ピトッ
「うお?」
(なんか、首筋に、冷ッ?)
首筋に押し付けられた、冷たい何かに驚き情けない声を上げてしまった。
振り返るとそこには・・・。
ペットボトルを持った麻美が立っていた。
「ふふ、変な悲鳴を上げないの。」
「この前の朝の仕返しかよ。大体、携帯どうしたんだよ?」
ムッとして答えると、麻美はポケットから携帯を取り出した。
「オリジナルマナー、音も振動も消しといた。」
「意味不明だ。」
「振動したらばれるでしょ。」
(ということは、麻美は前からここに居たのか。)
「誘おうとしてくれたんでしょ?」
「約束だしな。」
「ありがと、転校生は今日はいないみたいね。」
「中止って言っておいたしな。わざわざ予定の変更で呼び出すのは気が引ける。」
「そっか。」
「眞由美が苦手なのか?」
「あのテンションの高さは駄目ね。」
「言えてる。」
ベンチは、どうやら乾いているようだ。
準備をしてから、二人並んで腰掛けた。
ペットボトルを差し出された、一口飲んでみると。
「紫蘇ジュース?」
「懐かしい?」
「そうだな。」
もう一口飲んでから麻美に渡す。
気にした風もなく、そのまま口をつけて飲んでいる。
少しくらいうろたえるかと思ったけれど。
(ま、こんなことは前にもあったし。)
全然意識されてないのな。
町を背にして見上げた東の空には、天の川の流れがはっきりと見える。
会話はあまり無かった。
でも、それを嫌だとは思わない。
言葉以外のもので伝わっている。
「空は・・・。」
沈黙を破ったのは麻美からだった。
「成長すると、星空を見る機会って減ってくよね。」
そっと手を握られた。
麻美を見るけれど、彼女は空から視線を戻さない。
「子供の頃見た星空。
あの日から何も変わってない。」
昔二人で出かけた日も、こんな夏の日だった。
きっかけは、何だったろうか?今は思い出せない、でも・・・。
「山羊座が地平線の近くから上ってきて、その上には鷲座があった。」
彼女は何を思い出して、・・・何を思い出そうとしているのか。
「夜が怖くて泣きそうだった私の手、こんな風に握ってくれたよね。
嬉しかったんだ。」
そして視線が合わさる。
「本当に・・・嬉しかったの。」
僕は何か言いたくて、麻美は何かを伝えたくて、もどかしくて胸が締め付けられる。
不意に視線は外され、麻美は目を閉じ呟いた。
「行きましょう、もういい時間よ。」
手を離し立ち上がった麻美の顔は晴々としていた。
「あのさ・・・。」
出掛かった言葉。
「気にしないでよ、なんとなくノスタルジーな雰囲気だったから。」
それだけだから聞かないで。
そう彼女の瞳が告げている。
だから僕もあの日と同じ。
「送るよ。」
そう言って手を取った。
胸の中に芽生えつつある感情は、まだ不安定でそれが苦しい。
でも、もしかしたら麻美は・・・。
そんな想いが胸の混乱を増加させていく。 |