教室での再会
「はじめまして、鈴木 眞由美と言います。
得意科目は美術で、嫌いな科目は英語です。
よろしくお願いします。
特に、窓際の一番後ろの君とか。」
(いきなり話を振らないでくれ。
ほら、視線を集めちまった。)
「何だ、早川とは知り合いか?」
「はい、こちらに初めて来た時にお世話になったんです。」
「そうか、では席は隣になるといい。その列は、一人廊下側にずれてくれ。」
(おいおい、俺には聞かないのかよ。)
クラスの勝手なざわつきが聞こえてくる。
あんまり付き合うとか、恋愛に疎かった僕はその理由が彼女持ちだからとか言われてしまっている。
(マジかよ、冤罪なのに追求されそうで怖いんですけど。)
そんなのを気にせずに、眞由美は澄ました顔で隣に座った。
「えへへ。名前は?」
どうやら敵わない相手のようだ。
「早川 陽一。つーか、ここまで押しが強いとは思わなかったんだけどな。」
「女は度胸だよ。あ、教科書見せてよ。」
「中学のは文科省の決めたのだから全部一緒だろ。」
「資料集とかは絶対に違うし、教科書も違うのもあるんだよ。」
確かに眞由美の教科書は何教科か違うのが混じっていた。
制服はきちんとこの学校のなのに。
「いつも、あそこに居るの?」
「あん?」
「星見てたじゃない、天文部?」
「違う違う、つーかこんな小さな学校にそんなに部活の種類ないよ。
あれは趣味、雨の日以外はたいてい行くよ。」
「毎日あんな遅くまで居て平気なの?」
「この前は特別、新月の日は月の光に邪魔されないから遅くまでいるんだ。
普段は二〜三時間くらいだよ。両親は説得を諦めた。」
「そっかあ、部活って強制的に何かは入らないといけないの?」
「いや、自由参加。
たまに大会前に運動神経良い人は、強制助っ人を一月程やらせられるぐらい。」
「ふ〜ん、じゃ私も部活は入らなくていいや。」
「協調性無いなあ。」
「天体観測研究会設立ね、たのむよ会長。」
「・・・勝手なやつ。」
「なによ、一人寂しく星を見る少年に日々の潤いを与えてあげるのに。
・・・はは〜ん、さては照れ隠しだな。素直じゃないの。」
「なっ・・。違えよ。」
(やば。)
予想以上に大きな声が出てしまった。
「仲が良いのは分かったが、授業の後にしてくれ。
それでは、この英文は早川に訳して貰おうか。」
(厄日だ。ええい、笑うな元凶。
くそ〜、早く退屈な授業が終わって夜が来ればいいのに。)
僕は一人で居ることが多かった。
同級生のテレビや漫画の話題。
面倒な人付き合い。
誰が誰を好きだとか、付き合ってるとか。
そういった話題がくだらなく感じてしまってのめり込めない。
だから、そういった輪の中から一歩引いた位置に居る。
誰とも衝突せずに、誰とも深く係わらずに。
ただ、静かに星をみていたいだけ。
何かに縛られるのは正直苦手だな。
だから、少しだけこのめぐり合わせに後悔していた。
休み時間になると、眞由美の周りに人が集まりだしたので僕は・・・逃げた。
お決まりの質問タイム。
気が強そうな印象だけど、結構戸惑ってる感じがした。
なんとなく、眞由美との距離が他のやつより近い気がして優越感に浸っていると。
「仲が良さそうだね、どこで口説いたの?」
僕も捕まってしまった。
自慢じゃないが、話術で女子に勝てる要素は一つも無い。
そもそも多勢に無勢だ。
「ちょっと話しただけだよ?
全然面識ないって。」
時間を稼ぐことに専念しよう。
明日になれば大分落ち着くだろう。
「時間は?」
休み時間の追求を振り切って、待ちに待った放課後。
帰りがけに眞由美の質問。
「何の?」
「星を見に行く時間、それと途中まで道が一緒なんだから帰るの誘いなって。」
(本気だったんだ。)
確かに今までも来たいと言った人も居たけど・・・。
すぐに飽きて帰るか、口で言ってるだけだった。
「七時ぐらいに高台、場所はもう覚えただろ?」
「分からないから、家まで迎えに来てって言ったら?」
「もちろん・・・、これ幸いとばかりに・・・ほっとく。」
パチッ
眉間にデコピンがクリーンヒットした。
「意地悪。あんた好きな子に素直になれないタイプでしょ。」
(頼むから、これ以上誤解を招く発言は控えてくれ。)
なんだかこんなやり取りが普通になってしまった。
変な出会いが尾を引いて、調子が狂ってるようだ。
(人の噂も七十五日、気にしない様にしよう。)
少しでけ綻んだ表情は、家に帰って指摘を受けるまで僕は気付かなかった。 |