新月の出会い
僕は月よりも星が好きだ。
だから、こんな新月の夜に眠るなんてもったいない事はしない。
確かに月も良い。
けれど空気の澄んだこんな山奥では、儚い星さえはっきり見える。
この、舞い降りる雪を連想させる程の満天の星空。
もう堪らないよね。
だから今日も望遠鏡を持って高台へと向かう。
「ん〜、いい夜風だ。」
夏の夜は心地よい。
ここいらでは、都市部のように夜まで蒸し暑いなんてことは稀だ。
清々しい夜風が吹き抜ける。
軽快に石段を登って行き、定位置に陣取った。
東の空には、北から南へと天の川が流れている。
一際輝いているのは白鳥座のデネブだ。
夢中になって望遠鏡で星を探していく。
「何が見えますか?」
「!」
いきなりの背後からの質問に驚いて振り返る。
ドサッ。
(いけね、星座早見盤落としちまった。)
「いつのまに・・・。」
「あはは、ごめんごめん。
そんなに驚かないでよ傷つくなぁ。」
「普通驚くって。」
初めて見る顔だった。
同じくらいの年だろうか。
小さな村だから、知らないはずがないのだけど・・・。
「幽霊だったら彼岸は、まだ先。」
「違うって。」
「自主的に夏休みに入って田舎にきたって?
羨まし過ぎるな、おい。」
「私の話、聞く気無いでしょ?」
「気にするな、ちょっと親睦を深めようとしただけだよ。」
「まったく〜、ちょっと驚かせた位でへそ曲げないでよ。」
二人でクスクスと笑いあった。
(いきなりで気付かなかったけれども、結構かわいいな。)
「見てみるか?」
望遠鏡を指して聞いてみた?
「いいんですか?」
「幽霊との貴重な遭遇体験の記念だ。」
「まだ、そのネタ引っ張るかなぁ。
転校生の事とか聞いてない?」
「うん、聞いてない。」
(嘘だけどね。)
全校生徒百人未満の中学校では既に様々な噂が流れていた。
(やっぱり同い年か。)
「何で。」
「知らないよ。」
納得の行かない顔で彼女は、望遠鏡を覗いた。
「あ、すごい。これは?」
すぐに表情を変えて、夢中になっている。
(単純なやつ。)
「今、見えているのは白鳥座の辺りの星雲。
いろいろ動かしてみなよ。」
「うん。」
表情が豊かでなんだか微笑ましくなる。
せっかくの星を見る時間を邪魔されたとは思わなかった。
楽しそうに星を探す彼女を見て、こんな日もいいかなとか思っていた。
「ねえ。」
急にこっちに向き直った彼女が声を掛けてきた。
「まさか壊したのか?」
「そんな事するか!まじめな話なの。」
「愛の告白か?」
睨まれた。
「ごめんなさい、黙ってます。」
「よろしい。
すごく良い星空だよね、私の住んでる所じゃ絶対見られなかった。
だから、ありがとう。
それに二人でいるんだし同じ空を見ようよ。
望遠鏡無しでも、十分だよ。」
そう言って、にっこり笑った。
僕はちょっとだけ照れくさかったけど、せっかくの申し出を断るはず無い。
「そーだな。」
少しぶっきらぼうに言ったのは見逃してほしい。
そんな事を知ってか知らずか、彼女は楽しそうに笑っていた。
二人で並んで星を見ていた。
どっちかと言えば僕が調子に乗って喋り捲ってしまった気がする。
(しょうがないよな、こんなに女子と急接近する機会なんて無かったんだから。)
一時を過ぎたところで、彼女は帰っていった。
その時に挨拶代わりにこういった。
「またね、変な幽霊さん。」
本気か冗談か図りかねる表情だった。
(確かに、そんな誤解もありそうな時間だよな。)
切り上げて帰る途中で、名前を聞いておきたかったなと少しだけ後悔した。
先生の話では確か三日後に彼女と教室で会える。
クラスは元から一つしか無い。
教室で会えたらどんな顔をするだろう?
今からちょっとだけ楽しみだ。
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