左手の召喚・右手の投擲
遊森謡子様企画の武器っちょ企画一応参加作品です。
以下参加条件。
●短編であること
●ジャンル『ファンタジー』
●テーマ『マニアックな武器 or 武器のマニアックな使い方』
前回も参加しましたが、今回カムバックにも参加……が、激しく遅刻してしまいました。
そして全編とにかくギャグです。くだらなすぎます。でも書いちゃったので、すいませんお付き合いくださいw
「…………」
「…………」
「…………うん、取り合えず状況は分かった。だから飲んでいい?」私は手に持っていた冷えたビールの缶を目の前まで上げ相手に一応許可を取る。
「…………ですから、飲まずにお聞きください」
「…………いや、だからね? 分かったから飲ませろ。取り合えず飲ませろ」左手に力が入り、ビール――とは言っているものの、そんな贅沢は出来ない私はいつも晩酌は安い発泡酒――の缶がぺキッと鳴る。
「…………いえ、ご理解出来てないと思いますので、冷静にお聞きください」
「…………だーかーらー! 分かったって言ってるの! こんな話飲まずに聞けるか!」ついに我慢の限界、堪忍袋の緒が切れた私はビールのプルタブに指をかけ栓を開けた。
その瞬間飛び出す泡。すぐにでも飲んでやろうと思っていた私は顔面にその冷えた攻撃を喰らい、叫び声を上げる。
「あぁぁぁぁぁーーー! ビールが! ビールが! 私のビールがぁぁぁぁ!!」目に入った泡が痛くて泣いているのか、それともビールが泡となって流れ出た事が悲しくて泣いているのか……自分でも分からないまましばらく私は泣き続けた。
◆ ◆ ◆
『左手の召喚・右手の投擲』
◆ ◆ ◆
しばらく泣いて、やっと冷静になると、やっぱり私は思っていた以上に動揺してたみたいだった。
そもそもどうしてこんな状況になったのかと言うと……。
仕事から帰ってお風呂に入って、さぁ冷えたビールをぐぐっと飲むぞ~と冷蔵庫からビールを取り出し、冷蔵庫のドアを閉めた途端、そこはもう自分の家じゃなくて見知らぬホールにいた。
処断、異世界トリップ、と言われているあれだ。小説でよくある設定。良くあるお話。でも現実にあるはずないのに、私はビールを持ったまま立ち尽くしていた。
お決まりの様に白いビラビラの服を着たいかにも神官、みたいな人が私に向かって一歩前に出て頭を下げる。
その後ろにはピカピカの王冠を被った、これまたテンプレなのか超イケメンでめちゃくちゃ好みの方が控えていらっしゃって、私を食い入る様に見てる。
えーっと、この感じは、魔王を倒せって言う(勇者)タイプの召喚じゃなくて、王様の嫁になれって言う(恋愛)タイプみたいだなぁ。
そっかぁ、やはり30過ぎの恋愛に所縁のない冴えないOLへの召喚はそっちですよね。そうですよね。って事はもしかして逆ハーもありえる?
そう言えば目の前にいる神官みたいな人も若くて格好いいもんな! なんて自分で先に結論付け軽く現実逃避をしていたら、その神官みたいな人が話しかけてきた。
「言葉は分かりますか?」おお、分かるよ。便利だね。日本語の様にしか聞こえないよ。
「分かります」第一印象って大事だからね、ここは丁寧にお淑やかな感じで答えておきましょう。
「それではさっそく説明させて頂きたいのですが……宜しいですか!?」至って冷静に普通な私が不振なのか、探るような視線を飛ばされ顔を下げる。
なんだか、感じ悪い……。言葉に棘を感じて動揺する。なんか、可笑しいな?
テンプレなら諸手を挙げて歓迎されるんじゃないの? あ、でも歓迎される系は魔王討伐ストーリであって、お嫁さんストーリはヒロインは最初不遇だったりするんだよね。
という事は私もやばいのかなぁ……。って自分でヒロイン立ち位置語るの恥ずいが!
「……説明させていただいて宜しいですか!?」人が色々考えてるってのに話しかけてきて、尚且つなんか慇懃無礼な話し方。
ちょっと……手に持った冷えたビール(と言うか発泡酒)を飲みたい気分です。ってか飲んでもいいですか? いいですよね? 飲もうと思って出した瞬間からお預けって耐えられませんからね。
これから至福の時を味わおうと思っていたのに待て食らっちゃったんですもん。恨んでもいいですか? いいですよね! ってかこんな非現実的な状況飲まずには居られんわ! ってなぜかキレて冒頭に戻るわけです。
はぁ、疲れた。
「落ち着かれましたか?」散々泣いたせいか(成果?!)、さっきよりずいぶんと態度が緩和した神官らしき相手は私にハンカチを差し出しながら覗き込んで来る。
「……はい、すいません。いきなり騒いですいませんでした」常識ある社会人としては、醜態をさらした以上しっかり謝罪しておかないとまずいですよね。
「いえ、至って当然の反応だと思います。……最初はあまりにも動揺されてないようでしたので、失敗してしまったのかと思いました」どう言う意味じゃい?
「早速ですが、あなた様にはこちらにおわすヘーゼル・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・サンティシマ陛下と婚約を結んで頂き、巫女として魔王討伐の旅に同行して頂きたいのです」後ろにいたイケメンさんを省みながらそんな事を言うと、そのイケメンさんが一歩前に出てきた。
「………………………………はぁ?」
「ですから、こちらにおわすヘーゼル・パウラ・ホアン・ネポムセーノ・マリーア・デ・ロス・サンティシマ陛下と婚約を……」
「ま、まった! わかった! その良くわかんない名前はいいから! そんな所はどうでも良くて、しかも内容も説明してくれなくてもなんとなく分かったから!」馬鹿っぽく無言でうんうん頷いているイケメンさんは見ないようにしながら神官らしき相手に噛み付く。
「……はい」
「ただ、出てしまったはぁ? と言う台詞は、言われた内容が理解できなくて出た台詞じゃなくて、理解出来たがために分けわかんなくて出てしまった台詞であって…………ってどうでもいいのよ! そんなのどうでもいいよの。ちょっとあんた何言っての? 結婚して魔王討伐っておかしいでしょ。なんでダブルで王道来ちゃってんのよ! どっちか一つにしなさいよ!」
「はぁ、ただそう言われましても、王の婚姻相手として召喚した御方は、巫女としての能力を開花させ結果魔王を倒す事が出来るようになるのです。ですが、婚姻となると色々と準備があり時間もかかり大変ですので、まずは婚約と言う形を取りまして、その後神殿で信託を受けそのまま魔王討伐の旅に出て頂きます」
だめだ、会話にならない。
なんで結婚相手として召喚しておきながら魔王を倒す旅に出なきゃいけないのよ。オカシイでしょ。
普通さ、結婚相手として呼んだんなら戦う相手はそうじゃないでしょ? どっかの貴族のお嬢様達とか? 下克上を狙っちゃってる宰相とか? あるいは継母とかさぁー!
なんかお城で孤立奮闘頑張ります! 見たいのがテンプレじゃないの?
それなのにいきなり城出て魔王倒せって意味不明。しかも巫女ってなんだよ、そんなの無理だから。30過ぎた冴えないOLに巫女って! どんな羞恥プレイ?
コスプレ? あ、その手の趣味? ごめん、私性的嗜好は至ってノーマルなんだよねぇ。イケメンにこしたことはないけど、ちょっと癖が強いのは勘弁だなぁー。
「聞いてますか?!」
「はい!」って全然聞いてなかったけど返事します! もう、急に怒鳴らないでよびっくりした! あの神官っぽい人意外に怖いなー。
「……本当ですか? 話進めますよ?」その不審そうな瞳を受けながら肩を竦めつつ何度も頷く。
「つまりですね。この儀式でこちらの世界へと召喚された女性は、特別な力を使うことが出来るようになります。そしてその力で魔王を抑えることが出来る……と伝承されているのです」
「……特別な力?」
「はい。その力が唯一魔王と対峙する事が出来る……らしいのです」
「もう! なんなのよさっきからその曖昧は!」
「申し訳ございません。魔王が出てくるなどここ最近なかったようで、詳しい資料などが残っていないのです。なので………………口伝承だけでして」ってちょっと、なんで目逸らすのよ。なんでそんなに口伝承って所で淀むのよ!
つまり? きっとあれよね、大昔からの伝言ゲーム的な感じで超いい加減な話しか伝わってないって事よね。
でも、それなのに……。
「私の事よく召喚できたわね?」
「まったくです。まったくもって私達も期待してなかったものですから私もびっくりしてしまいました。最初召喚に成功したと思えず、てっきり曲者かと……」あぁ、それで最初あの態度。まぁそれはしょうがないとして……。
確実にさぁ……成功すればラッキーぐらいの気持ちで召喚しちゃったよね? ……って事は……嫌な予感しかしなんだけど、一応大事なところなので確認しておきましょう。
「……帰れるの?」私がぶっきら棒に聞いた途端、ホールの空気がピシッと固まった。あぁ、うん。確認するまでもなかったねー。そんな気はしてたけどねー。そんな風に適当に呼び出したんだったら、その後の事なんて考えてる訳なかったよねー。
ねーねーねーーーーー、
「ってアホかーーーー!!!」私はまだ持ったままだったビールを神官めがけて投げつける。殆ど溢れ出て軽くなったとはいえ、500mlのアルミ缶は見事に神官の顔面にヒットして大ダメージを食らわせる。
泡吹いて倒れている神官を指差しながら叫ばずにはいられないっすよ!
「何考えてんのあんた達! そんな大昔の適当な話を真に受けて、ちょっと召喚してみちゃう~なんて軽い気持ちで人の人生狂わせてんじゃないわよ! そもそもなに他の世界の女の子に自分達の世界の運命ゆだねちゃってんの?! お前らがシャキッとしろよ、シャキッと!」
「…………」返事がない、只の屍のようだ。ターゲット変更。
私は超イケメン王様へ向き直ると再びビールの缶を投げつけた。これまた吸い込まれるように麗しいお顔へクリーンヒット!
派手な音を立てながら後方へぶっ倒れる王様を指差し物申す。
「あんたもボケッと突っ立ってんじゃないわよ! そもそもあんたがしっかりしないといけないんでしょ? しかも一応あんたのお嫁さんとして呼んだ相手だって言うのに、なに他人に説明させて自分は偉そうに踏ん反り返ってるのよ! 大体さーーー…………って、あれ?」私は王様を指差してる右手とは違って左手を見る。
するとそこにはなぜかまた500mlのビール(じゃなくて安い発泡酒)が握られていた。しかもキンキンに冷えていて、プルタブも開いていないビール。
「え? あれ? なんで? 私冷蔵庫からは一本しか出さなかったはず。それなのに……」私は左手から視線を移動する。
神官の顔面に一本。これはプルタブも開いている缶。缶だけじゃなくてビールも顔面にうけていて……目ぇ沁みてそうだね♪
イケメン王様の顔面にまた一本。これはプルタブ開いてない。かなりの威力だったのか、顔面陥没していて……痛そうだね♪
そして私の手にもう一本。……つまり?
「……巫女様の能力が……」ザワザワざわざわ。とホールが混乱する。なんか今さ、巫女様の能力って言わなかった? 言った人いたよね!
私はその言葉が聞こえた方をキッと睨み付けると、左手に持っていたビールの缶を右手に持ち直す。そんな行動を起こした途端、「ひぃ」って言う悲鳴があちらこちらから聞こえ、蜘蛛の子を散らす様に私の視線から皆が消える。
皆が皆私の後方へ逃げたのを忌々しく思いながら、仕方なくそのまま問いかける。
「…………説明する気のある人いる?」努めて温厚そうに優しく問いかけたけど、ざわざわザワザワ。
「…………説明する気のある人いるー?」ちょっと強く問いかけて、後ろの方にワザとビールの缶を高く上げて振ってみせる。
「………………ですから、私が説明致しましょう」そんな声が聞こえたので、声が聞こえた方を振り向けば、例の神官が復活してた。
タオルで顔をゴシゴシ擦りながら私の方へ近づいてくる。
おお、中々骨のあるヤツだな。あんな攻撃を食らっても説明してくれるとは。
「どうやらあなた様の能力は召喚のようですね。あなたの世界の物を好きに召喚することが出来る」
「え! 本当ですか?」マジで?! それならラッキーじゃん! 好きに召喚出来るんだったらこっちの世界にいても苦労しないかな?
「はい。こちらの世界へ渡る時に手にしていたものを際限なく召喚できる能力です」
「………………はぁ?!」な・ん・だ・っ・て!?
「ですから、こちらの世界へ渡る際手にしていたものを永遠に召喚できる能力です」
「………………」つまり? 私は自分の体を改めて確認する。
お風呂上りでしたので、パジャマ代わりのTシャツとパイル地のショートパンツ。これ肌触りが気持ち良くって大好きなんだぁー。(って改めて見たら大勢の人の前に登場するにはちょっと恥ずかしい格好でしたね。)
そして、風呂上りにくぃーっとビールを飲もうとしていたので、左手にはビール。私の所持品はぁ……はい! 以上です!
「ってやっぱりアホかーーーー!」再びビールを神官目掛けて投げつける。
「なんっで! なんっでこんな時間帯に呼び出しちゃってくれてるのよ! そこはせめて色々な荷物持ってる時間帯にしようよ! 例えば通勤中の朝とか、帰宅途中の夜とか? したらバックも持ってて色々、いろいろ入ってるのに! 私ってばつい荷物多くなっちゃうタイプだから、ただ毎日通勤するだけでもいろいろ、イロイロ入ってるのに! なぜこんな風呂上りのビール持ってる時だけーーー?!」
「う、うぅ……申し訳ございません」顔面を強打された神官がそれでも立ち上がり謝罪するのを見て、私は何度目か分からないけどいつの間にか召喚され、左手に持っていたビールのプルタブを開ける。
するとその瞬間吹き出る泡。すぐさま飲もうと思ってた私は再び顔面にビールを食らう。
「なんでーーー!」最初に召喚された時と同じ様に顔面にビールを受けながら、私は叫ばずにはいられなかった。
「なんでなんで召喚されるビールは冷えてるけど振られた状態のしか出てこないのよーーー!」ビールが目にしみて痛いのか、こんな状態になってしまった自分が不憫で悲しいのか、はたまた素晴らしい能力を手に入れたと思ったらビール召喚(しかも振った状態で)しか出来なくて悔しいのか、良く分からないまま泣くしかなかった。
うぅ、私ってば本当にこんな武器(冷えてるが振られた状態ビール召喚能力)で魔王倒しに行かないといけないわけー?
お嫁さんタイプじゃなくって、ましてや勇者タイプでもなくって、どうやら私ってば死亡フラグで異世界トリップしちゃったみたいです。
お父さん、お母さん。こんな形でお別れする事になってしまって、親不孝な娘をお許しください。なるべく死なないように努力します。
だから遠い世界で見守ってて下さい。いつかまた帰れる日まで……お達者で……。
「ってやっぱりアホかーーーー!!!」
私は際限なく左手に現れるビールの500mlの缶をひたすら投げ続けると、ホール全ての敵を根絶やしにしたのだった。
魔王さん、出番奪っちゃってゴメンネ♪