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あたためますか?
作:大島なるみ




 私の彼氏は最近アルバイトを始めた。どんなアルバイトかというと、大して珍しくもないコンビニのアルバイトだ。
 バイトの初日、こっそり様子を見に行った時、私は思わず本で顔を隠しつつ、肩を震わせ笑ってしまった。
何故なら、彼は恥ずかしさからか耳を真っ赤にして吃りながら接客に撤していたから。それは、いつもの彼の姿からは、ちょっと想像できないくらい小心者になってしまっていた気がする。
 でも今では、すっかり仕事も板についているみたいだ。

「いらっしゃいませ〜」
 特有のはにかんだ表情で、彼はお客さんを出迎えている。その対応はとても自然でそれでいてスムーズだ。
(上手くやってるじゃないの)
 私はそんな彼の邪魔をしないように、見ていた雑誌を棚に戻すと、そそくさと出入口から外に出た。
 そんな私の背後から
「ありがとうございました〜」
という、彼の声が聞こえてきた気もしたけれど……。


「な〜んで、黙って先帰っちゃうんだよ」
 空気が凍え始めた頃、私が帰り道を1人急いでいると、通り過ぎた路地の電信柱の影から、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
 振り返るとそこには案の定、彼がいた。
「あれ?アルバイトは」
「今日は6時までだったの」
 彼はそう言いながら、私のとなりに並んで歩きだす。
「来てたなら一声かけてくれたっていいじゃん。おれ、機会見て一緒に帰ろうぜって、声かけようとしてたのにさ」
「え?」
「なのに、逃げるように出ていっちゃってさ。なんか悔しかったから“ありがとうございました”って、大声でお前に言ったんだぜ。なのに反応ないし、周りのお客には変な目で見られるし、散々だったんだからな」
「……だって仕事の邪魔しちゃ悪いと思ったし。ちょっとした心遣いしただけじゃん。それなのに何よ、その悔しいからって理由、子供じゃあるまいし」
 私はそうまくしたてながら、彼の手をパシンと叩いた。
「うわっ!」
 私はその瞬間、その感触に驚いて声を張り上げてしまっていた。
「何、どしたの?その手。冷たすぎ、そういえば顔も…」
 私がそう言うと、彼はゴホンと咳払いをして、そっぽを向いてしまった。それを見た私は、寒さでほのかに赤かった頬が、さらに赤くなるのを感じた。
「……もしかして、ずっとここで待ってたの?私が来るの」
「……」
 彼が私の問い掛けに図星なことが分かると、私は心のどこかくすぐったい感覚に陥っていく。
「ばっかみたい、こんな冷たい手してまで」
 私はそう口にしてから、彼のカチカチに冷えきった手を両手で包み込んでみた。
 彼の手は想像以上に冷えきっていて、どんどん私の手から熱を奪い取っていく。
「そりゃお互い様だろ」
「は?……ひゃっ!」
 彼の言葉に首を傾げていると、急に彼は私の肩を抱き寄せてきた。
「寒かっただろ?だから一緒に帰ろうとしたのにさ」
「わ、私よりあんたの方が、冷えてるっての!」
「いいんだよ!」
 何が良いんだか分からないけど、彼はそう言ってさらに抱き締めてくる腕にギュッと力を込めてきた。
「こうしてれば、おれもあったかくなるからさ」
 そう言いながら彼は、もう何度か聞き慣れた言葉を、少しいつもとは違う声音で、私の耳元にそっと囁いてきた。


――あたためますか?
と。





End.














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