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赤い眼

作者:るうね
 飼育小屋の床に倒れているウサギを、足で小突く。ぴくり、ともしない。足にぬらりとした感触。血の感触。
 だめだ、この程度じゃ満足できない。もっと大きな獲物、狩りがいのある獲物を……。そうだ、次は人間を……。


 学校で飼っていたウサギが殺された。
 殺してやる。私は誓った。必ず犯人を殺してやる。
 学校でいじめを受け、家では虐待されている私にとって、飼育小屋でウサギと遊んでいる時が唯一の安らぎの時間だった。ウサギと遊んでいるうちは嫌なことを忘れられた。私にとって、ウサギは友達や家族、いや、それ以上の存在だった。
 ある朝、餌をあげに飼育小屋に行ってみると、中も外も赤く染まっていた。あるいは刃物で首をかき切られ、あるいは手足をばらされ。生き残っていたのは一匹だけ。他は全て無残な肉のかたまりになり果てていた。
 その日のうちに、私は行動を開始した。家から肉厚の中華包丁を持ち出し、夜中に飼育小屋のそばの茂みに身を隠して、犯人が来るのを待った。犯人は、必ずまた来る。私は確信していた。人間の残虐性について、私はよく知っている。対象を弱いとみると、ありとあらゆる手段で攻撃にかかる。クラスの連中も、両親もそうだった。ウサギ殺しの犯人も同じだ。ウサギみたいな小動物、弱い存在には、徹底して残酷になれる。そういう人間。ウサギの生き残りがいると知れば、嬉々として殺しにくるだろう。
 そうはさせない。
 私は暗闇の中、手に持った包丁を、ぎゅっと握りしめた。


 ここ一週間、飼育小屋を見張っている奴がいる。犯人を殺そうとでもいうのか。夜中になると、近くの茂みに潜んで、朝までじっとしている。馬鹿な奴だ。
 そうだ。次の獲物は、あいつにしよう。


 あれから二週間が経った。まだ犯人は現れない。ほとぼりが冷めるのを待っているのだろうか。残酷なだけでなく、小賢しい奴。
 今日もまた、私は茂みに潜んで、犯人が現れるのを待っていた。空は雲で覆われ、星も月もない。他に明かりもなく、飼育小屋の中の様子がよく分からなかった。
 私は頬のアザに手をやった。今日もまた殴られた。夜、こっそりと出かけていたことが父親にバレたのだ。別に私のことを心配して怒ったわけじゃない。要は、私を殴る口実があれば、何でもいいのだ。
 憎い。やたらと暴力を振るう父親も、それに同調する母親も、アザだらけの私をばい菌扱いするクラスの奴らも。そして、私のたった一つの安らぎの場を破壊した犯人も。
 殺す。必ず殺してやる。
 と、その時。
 キャン、という声が聞こえた。ウサギの声。だけど普通なら絶対に出さないような声。
 奴が来た。
 私は勢いよく茂みから飛び出した。もう殺させない、絶対に。
 そのままの勢いで、飼育小屋に飛び込み――突如、足に激痛が走った。為すすべなく転倒する。
 ぐさぐさ。
 全身に刺すような痛み。いや、実際に何かが刺さっている。
「う、ぎ、ああああああぁぁあぁぁあああぁぁっっっっっっ!」
 転がる、するとまた新たな激痛に襲われる。鉄条網だ。激痛に霞む思考の端で、そう理解する。床一面に鉄条網が敷かれている。
「結局さぁ」
 誰かの声。
 そちらに右目を向ける。左目は開けられない。鉄条網で潰された。
「小動物を可愛がるってのは、そいつを見下してるのと同じことなんだよな」
 声はする。だが、姿が見えない。いったい、どこに……?
「まあ、それでおおむね間違ってはいないんだけどさ。たまには、その愚かな小動物の中にも俺みたいな変り種がいたりするわけよ」
 おかしい。声は、すぐ近くで聞こえるのに、誰もいない。そう誰も。
 ――ウサギ以外は。
「人間以上の知能を持つ、いわゆる天才ってやつ? こうして人間の言葉も話せるし」
 と、ウサギが私の取り落とした包丁をつかんだ。
「武器も扱える。鉄条網の罠なんか、なかなかイカしてたろ? ……っと、さすがにこの包丁は少し重いな。やっぱ使い慣れた凶器(もの)の方がいいや」
 そう言って、ウサギは餌箱の裏から、小さなナイフを取り出した。
「安心しろよ、すぐ楽にしてやるから」
 ウサギはゆっくりこちらに近付いてくる。
「ああ、そうそう。最後に言っておかなきゃな。お前、よくここに来て、うじうじと泣き言並べ立ててたけどさぁ。正直、ウンザリだったぜ。勝手に俺たちを仲間として見てたみたいだけど、俺らにはそういう気、全くなかったから。有り体に言やぁ、迷惑千万ってやつ? いつも思ってたよ、そんならさっさと死にゃあいいのに、ってな」
 私は心のどこか、拠りどころにしていたものが壊れていく音を聞いた。
 ああ、赤い眼が揺れている。本当に楽しげに。

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