『おかあちゃん、チューして』
『いいわよ』
まだ、おかあちゃんが生きていた頃
あたしはおかあちゃんに甘えてばかりいた。
おかあちゃんは、あたしのほっぺにキスをしてくれる。
それがとっても嬉しくってたまらなかった。
とーっても温かかった。
おかあちゃんが死ぬ間際、最後のキスをしてもらった。
その時のキスは、冷たかった・・・・
もし、願いが叶うなら
もう一度キスして下さい。
温かい、温かいキスを。
「なぁ、和葉」
「なに??」
「明日って・・・「おかあちゃんの命日やで!!」
和葉は、平次の言葉を遮るようにそう言った。
そして、笑顔で振り向いてこう言った。
「なぁ、平次!!一緒に来てくれへん??」
「ん??ああ、かまへん」
「じゃ、明日の9時に迎えに来てもらってええ??」
「ああ」
「ゴメンなぁ。じゃ、明日な」
平次は分かっていた。
あの元気は空元気。
本当は凄く凄く辛いんだって。
「ふぅ」
和葉はすぐに制服を脱いだ。
そして、ベッドの上にあるくまのぬいぐるみをギュッと抱きしめる。
このくまのぬいぐるみは、おかあちゃんの温もりがいっぱいつまってるんや。
4歳の頃に、おかあちゃんに買ってもらったぬいぐるみ。
だから一生大事にするって決めた。
バンッ
「和葉!!明日のことなんやけ・・・・」
「キ・・・キャアアアア!!!」
和葉は、着替えの途中でくまのぬいぐるみを抱きしめていた。
つまり・・・下着姿で。
「平次の変態!!アホ!!信じられへん!!」
「お前がはよ着替えてればこんなことにならなかったんや!!」
平次は顔を真っ赤にしながら怒鳴り散らした。
平次の頭から、さっきの和葉が離れない。
「・・・で、明日のことなんやけどって??」
「ああ、明日は靴で来てくれ」
「へ??」
「動きやすい格好で来てくれへん??」
「嫌や」
「何でや??」
「おかあちゃんと会えるから、オシャレするつもりやったんやで??」
「頼む!!どうしても和葉に見て欲しい場所があるんや」
「・・・あたしに??」
「ああ!!」
平次は子供のようなあどけない表情で笑った。
この平次の顔にあたしは惚れてしまったのかもしれない。
昔から変わらない。
優しい顔で歯を出して笑う平次の顔が大好きだった。
もちろん、今でも・・・
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「・・・おかあちゃん」
お墓の前でそうつぶやいた。
墓石にゆっくりと水をかけて、花を供える。
おかあちゃん・・・会いたかったで。
あたしは、ゆっくりその場にしゃがみこんだ。
「なぁ、おかあちゃん。今ね、あたしめっちゃ幸せやで??だってな、隣にはいつも大好きな人がいるんだ。寂しいけど、おかあちゃんのぬいぐるみもあるし・・・大丈夫やでッ・・・ッ・・・」
「和葉・・・」
「だ、だから、だ、大丈夫やで・・・ヒック・・・ヒック」
寂しくないなんて、嘘。
ただの強がりなんだ。
だって、会いたいって弱音吐いたら
おかあちゃん、心配してしまう。
「もう一度、おかあちゃんにチューして欲しかったな」
涙でぐしゃぐしゃの顔でそう言う。
和葉は涙を拭いて、立ち上がった。
そして、平次の腕をギュッと掴む。
「ほな、行こう」
「ああ」
平次は、和葉を連れて近くの森の中に入っていった。
少し暗い森の中では、気分も暗くなってしまった。
おかあちゃんはどうして死んでしまったんやろう。
「そろそろやで」
少し足が疲れてきた頃
段々と光が見えてきた。
木々から光が漏れている。
「和葉、目を閉じろ」
「うん」
あたしは、平次の腕にしがみつきながらゆっくり歩いた。
光が無いって、怖いね。
こんなにも心細いんやね。
平次が凄く凄く遠く感じる。
なぁ、平次。
さっきおかあちゃんに言った人ってな
隣にいる大好きな人ってな
平次なんやで・・・??
「着いたで!!和葉、目ぇ開けてや」
「うん」
ゆっくりと目を開けると、段々と何かが見えてきた。
黄色い・・・ひまわり??
「わぁ!!」
広大な土地に広がるたっくさんのひまわり。
隣にはひまわり、前にもひまわり。
今、ひまわりに囲まれてる。
「お前のオカンな、ひまわりが好きやったらしいで」
「おかあちゃんが・・・??」
「ああ、オカンから聞いたんや」
そういえば、
おかあちゃんの病室にはいつもひまわりがあった。
おかあちゃんは、ひまわりが好きやったんや。
「ありがとう、平次」
和葉はニッコリ笑った。
平次は頭をポリポリかきながら、和葉に聞く。
「お前の大好きな人って、誰や??」
「へ??」
「さっき、言ってたやん」
やっぱり鈍感やなぁ・・・と和葉は呆れたように笑った。
そして、息を吸い込んで
「平次やでっ!!」
やっと言えた・・・
今まで恥ずかしくって、勇気が出なかった。
けど、このひまわりたちが応援してくれてるような気がしたんだ。
「お、俺??」
「うん」
「えぇぇ!!!」
「気づくの遅すぎやで」
「そんな・・和葉が・・俺を!?」
和葉はくすくす笑いながら、空を見上げた。
寂しい時
辛い時
傍にいてくれる平次が大好きなんやで。
「・・・俺も、好きや」
平次はいつものように笑って、あたしの頬を両手で包む。
あたしはゆっくり目を閉じた。
ドキドキと高鳴る鼓動。
唇が重なった瞬間、涙が出た。
温かい・・・
寂しい時にはキスをして??
辛い時にはキスをして??
あなたの温もりを感じたいから。
kiss me・・・
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