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作者:るうね
 また、あの(かえる)だ。


 私が、その夢を見るようになったのは、いつ頃からだったか。はっきりしないが、母が死んでから、だったような気がする。夢を見始めた時は、多分、蛙だろうというぐらいの距離があったのだが、今はこちらを見つめる目や口の動きまで、はっきり見て取れるぐらいまで近づいてきていた。
 今夜も。
 てらてら、ぬらぬらと鈍く光る体。かすかに腐臭のような嫌な臭いが、ただよってくる。
 しかし、何より嫌なのは、その目つきだった。じ、とこちらを見ている。視線そのものが粘液であるかのように、ねばついた感覚を与えてくる。
 気持ちが悪い。私は吐いた。何度も、何ども、なんども、ナンドモ。


「おい、おいっ、加菜恵」
 目を覚ます。父親が心配そうに、こちらの顔を覗きこんでいた。
 ぷん、と鼻につく、吐瀉物(としゃぶつ)の臭気。
 またか。
 寝たまま吐いてしまったのだ。最近、こういうことが多い。
「やっぱり病院に行った方がいいんじゃないか?」
「ありがとう、でも平気よ」
「しかし」
「それより、シーツ洗わなきゃ」
 私は、ベッドのシーツをはがした。
 父親は、じ、とこちらを見ている。
「本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、心配しないで」
 シーツを抱えて、部屋を出る。
「辛かったら、ちゃんと言うんだぞ」
 背に、父親の声がかかる。
「うん、分かった」
 少し無理をして、元気な声で応えた。


 蛙。
 とうとう触れられる位置まで来た。
 私は横になったまま、動けない。
 口に、吸い付いてきた。
 臭い。腐臭とねばついた黄色の液を残して、蛙は口を離した。

 ぐぇっ、ぐぇっ、ぐぇっ

 笑って、いるのか。
 襟元から、蛙が寝巻きの中に入ってくる。
「あ……」
 乳房を舐められた。執拗に。私の息が乱れ始める。
「く、ふぅっ」
 乳首に甘い痛み。思わず声が漏れた。
 蛙が、下半身へと移動していくのを感じる。太ももの付け根から性器へ……。
「や、め」
 私は、必死で声を紡いだ。
「やめてぇっ!」


「大丈夫か、加菜恵! おい!」
 肩を揺すられる感覚に、目を開ける。青ざめた父親の顔。何度か呼びかけられ、ようやく意識が覚醒する。
「……お父さん?」
「夜勤から帰ってきたら、いきなりお前の声が聞こえたんだ」
 本当に? あなたは、本当に、いま帰ってきたの?
「どうしたんだ、いったい」
「なんでもない」
「なんでもない、って。すごい叫び声だったぞ」
「なんでもないったら!」
 思わず、険悪な声が出てしまう。父親は鼻白んだ様子で、
「分かった。もし、具合が悪いようなら病院に」
「行くわ、行くから……一人にして」
 父親は、心配そうな表情のまま、部屋を出て行った。
 着衣の乱れを直し、私は手で顔を覆う。何かが蘇ってくる感覚。鈍い吐き気に似ていた。
 あなた、なのですか?


 次の日、私は真新しい果物ナイフを買った。


 蛙。
 今日は、少し離れた場所に。じ、と視線を送ってくる。
 私は懐に忍ばせた果物ナイフの感触を確かめ、ゆっくりと立ち上がった。
 きょとん、と蛙。こちらに、ゆっくりと近づいてくる。
 私は、やおら懐からナイフを取り出すと、蛙に突き立てた。

 ぐげぇっ!

 醜い声。私は、二度、三度、と刺した。刺し続けた。蛙が動かなくなるまで。


 サイレンの音が周囲に満ちている。
 血溜まりの中で、手錠をかけられた。その時、記憶が蘇る。
 アナタ、ダッタノデスカ。ワタシヲ、オカシタノハ。アノヒ、ハハオヤノソウシキノヒ。ワタシヲテジョウデコウソクシ、ナンドモナンドモ。アマリニツライキオク。ダカラ、ワスレテイタ。ソレデハ、ソレデハワタシノシタコトハははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは


「はい、被疑者は中学生の長女です。ガイシャはその父親。凶器は安物の果物ナイフで……え? ああ、はい、ええそうです。何度も突き刺したみたいで、腹なんか内蔵がはみ出てぐちゃぐちゃですよ。第一発見者ですか? はい、ちょっと待ってください。すみません、お名前を……ありがとうございます。えー、第一発見者は……」
 必要な情報を電話で伝え終わると、警官は隣にいる第一発見者に視線を向けた。
 それにしても、と警官は思う。
 殺された父親にしろ、この祖父にしろ。よくよく蛙に似ているな。


 ぐぇっ、ぐぇっ、ぐぇっ……

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