ハッピーエンド?PDFで表示縦書き表示RDF


この小説で心が温まって頂けたら幸いです。
ハッピーエンド?
作:鶉


 カタッ……カタカタカタッ………カタンッ!!

「ふぅ」

「出来たの?」

 キーボードの音が止んだのに気付いたらしく、由季が床を這いながらやってきた。

「ん?ああ」

「じゃあ見せて?」

「いいよ、ホラ」

 とりあえずモニターが見れる特等席を由季に明け渡し、俺は煙草に火を着けた。



―10分後―(効果音:鳩時計)



「え〜じ〜」

 由季が近付いてきたかと思うと俺から煙草をとりあげ、灰皿に押し付ける。
 ああ、まだ結構残ってたのに……などと思う暇もなく、今まで普通だった俺の両頬は重力に逆らって真横に伸びている。なぜ?それはつねられているから。

「いふぁふぁふぁふぁ(いたたたた)、ふぁにふんふぁほぉ(何すんだよ)!!」

「コレ、恋人と別れる話じゃないのよ!!」

「ふぁ、ふぁへ、ほぉひはへふふぉひふへ(まっ、まて、とりあえず落ち着け)!!」

 やっと頬が元の位置に戻った。鏡の中の俺の頬は少々赤くなっていた。さらに爪を食い込ませてたのでくっきりと小さな弧を描いた痕が頬にぽつぽつと目立っている。

「私がハッピーエンドが好きなの知ってるでしょ!!このバカ!!」

「あたっ、……雑誌を投げるなよ。このストーリーにはなぁ、この結末が合ってんだよ」

「だってこの前は遠距離恋愛の末に別れるし、その前は彼女と死別しちゃうし、その前は……」

「あ〜もう、わかったよ!!」

 俺は少し強く由季を抱き締める。ちょっとびっくりした顔をしている。

「だったら俺達がその分ハッピーエンドを迎えればいいんだよ!!」

「英治………その台詞はクサいよ」

「……悪かったな」





―翌日―(効果音:小鳥のさえずり&ニワトリの鳴き声)





「え〜じ〜」

 冷蔵庫内にある食料品から何から投げ始める。

「いたたたた、何す『カンッ』……っつ〜」

 俺の額にシーチキンの缶詰がクリーンヒットした。見事なコントロールである。

「何で今回は主人公が離婚するのよ!!」

「だっ、だからストーリー上どうしても『ゴスッ』……っつ〜」

 空中から南瓜(ハーフサイズ)が落下してきた。

「いてて……てか、そんなに嫌いなのか?だったら読まなきゃいいのに……」

 少々痛む頭をさすりながら愚痴る。

「……だってぇ、これは英治の思考でしょ?」

「まぁ、俺が書いてるわけだからそうだな」

 実際全てが俺の思考ではないのだが、ここで余計なことを言うと今度は何が飛んでくるかわからない。

「そしたら、その……もしかしたら、……私と別れたいのかな……とか……グスッ……」

 由季はそのまま床に崩れて、涙をぽろぽろ流している。
(そんなことを思っていたなんてまるで知らなかったな……)
 ゆっくりと近付き涙を指先で拭ってやる。

「大丈夫。安心して。俺は由季と別れたいなんて思ってないよ」

「………ホント?」

「嘘つく必要がないだろ?」

「……ヘヘッ」

 まるでいたずらっ子のようにはにかんで俺に抱きつく。あぁ、この万華鏡みたいに変わる由季の表情に俺は心底惚れているみたいだ。


『私と彼』

 私と彼は付き合って2年が経った。最近彼は仕事が忙しくてなかなか会えない。会うといつも喧嘩ばかりしている。彼はもう私のことが好きじゃなくなったのかな?

 実はこの前見てしまった。彼が私より若い女の人と歩いているのを………。
 その日一日中私は泣いた、涙が枯れるくらい。ううん、枯れてしまって涙さえ出なくなってた。
 一週間後、私は24の誕生日を迎えた。その日、彼が『話がある。』と電話を掛けてきた。不安が胸を支配する。
 待ち合わせは私と彼がよく来ていた喫茶店。幾つもの思い出が詰まった場所。『最後の思い出……かな?』私はそう思いながら扉を開けた。中では既に彼が待っていた。
 スーツ姿。これからまた仕事なのかな?
 席についても沈黙が続く。その沈黙が苦しくて、切なくて、とうとう涙を堪えることが出来なくなった。私はまだ彼が好きなのだ。

 少しうろたえながら、彼は私にハンカチを差し出す。私は涙を拭っているけどいくら拭っても後から後から湧きあがる。ようやく落ち着いた私を見て彼が重い口を開いた。

「結婚……してくれないか?」

 私は驚いた。そしてまた涙が止まらなくなった。涙の色は途端に変わっていた。

「でっ、でも、この前……若い…女の人と……」

 彼はキョトンとして、笑い始めた。

「ああ、あれは妹だよ」

「そう……だったんだ……」

 私は安堵して、胸を撫で下ろした。

「最近忙しくて構ってあげられなかったし、泣かせてばっかだけど、やっぱり俺にはお前しかいないんだ。……返事、聞かせてくれるかな?」

「………はい」

 この喫茶店には彼との思い出が沢山ある。そして今日、また新しい思い出が増えました。そしてこれからも……私の薬指には銀色の輪が光っていた……

For Y


「ふぅ」

 完成した作品を保存してパソコンを閉じる。こんな短くてありふれた作品だけど、由季は喜んでくれるかな?
 気持ちよさそうにスヤスヤと寝息を立てている由季の頭を撫でてやる。

「……ゆぅ……じぃ……」

 どんな夢を見てるのかな?………決まってるな。幸せな話だろう。
 俺も寝ることにしよう……明日も由季と幸せに過ごせる事を夢見て……




初めての短編……いかがだったでしょうか。ご意見、ご感想、批評などお待ちしております。













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