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第九話 てのひらの奔流
 きっと、僕達は、ほかの子たちとは違った成長をしたんだと思う。
 ずっと本を読み続けてきたせいか、大人びて見られることの方が多かったけど、でも、ある部分ではきっと子供のままで、多分、周囲から見ればもどかしい程に。

「ねえ、隆」
 愛が、僕の名前を呼んで手招きした。
 整然と並ぶ本棚の中で、何千、何万もの本の中の一冊を指差している。
「これから読むの?」
 愛はゆっくりと首を振る。
「少し前に読んだの。隆がまだなら、読んで欲しいなって」
 はにかんでそう言った愛は、穏やかな午後の光の中で輝いていた。

 何年も向かい合わせに座りながらも、名前を知ったのでさえ、ごく最近だ。
 ……気持ちは、ずっと前から一つだったと思う。
 でも、だからこそ、ずっと長いこと話せなかったんだと思う。

「これ?」
 僕と愛の身長は、僕の方が少しだけ高い。
 でも、その本の方が高い所にあって、背伸びして僕が手を伸ばす。
「そのとなり」
 右にあった一冊を抜き出す。見覚えのある表紙。いつかの雨の日に読んだ、黄土色の表紙の本。
 時間を取り戻した女の子の話だった。
「ね? 読んだことある?」
 楽しそうに、でも、興味深々の瞳で、愛が尋ねる。
「少し知ってるくらいかな」
 そう、僕はにやけるのを抑えながら答えた。
「じゃあ、読んでみて。きっと、気にいると思うから」
 得意そうに言う愛。
「うん」
「隆は、何かお勧めはないの?」
「ファンタジーとか、そっちの方がいいんだっけ?」
 本棚の間を歩きながら、僕は聞いてみた。
「何でも読めるよ」
 そんな風に、少し膨れて答えるのが可愛くて、僕は少し笑った。
「中華風なファンタジーで、これなんかどう? ファンタジーって言うと洋風のが多いし、良いかなって」
 文庫本サイズの本納まっている、小さな回転式の本棚の前まで来て、僕は一冊を抜き取って渡した。
 白い表装の本で、表紙には高校生ぐらいの女の人が剣をかざしている。
「確かに、中華風ってあんまり聞かないよね。うん、今日はこれ読んでみる」
 最初の何ページかをめくりながら、愛は答えた。

 名前を呼べるようになった。
 愛の、沢山の事を知った。
 でも、まだ、知らないことの方が多い。

 それでも、その知らない部分も、きっといつか伝えあえると信じている。
 いや、その知らない部分が何であっても、きっと僕は揺るがない。

 いつかそれを、言葉にできたらいいと思う。
 それを言葉にできるくらい成長した日まで、一緒にいたい。

 その想いさえ通じるなら、他に何もいらないとさえ思っていた。
 あとは、時間だけが解決するものだと信じて疑わなかった。


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