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第十九話 移ろいゆくモノ
 後悔はあった、でも、開放感も感じていた。
 悲しいけど、さっぱりした、そんな気持ち。

 試験が終わると同時に、僕は陸上部に入部した。
 運動部の中ではダントツに品行方正だったし、よくよく話してみれば、まだずれはあるものの、会話もうまくかみ合いそうだったし、成績も大体同じくらいで、学校の中では本当に同じような位置にいたのが、決め手だった。
「断ると思ってたんだがな」
 そう、入部を誘ってきた同級生が言った。
「ん?」
 部室でジャージに着替えながら、僕が聞き返す。
「そんなそぶり、全然なかったじゃねえかよ」
 少しだけ非難するように、そいつは言った。
「気が変わったんだ」
 少し笑いながら、僕は言った。
 最近気付いたけど、深刻なことは少し笑った方がうまく隠れる。
「まあ、良いけどな」
 納得したような、でも、不満げな顔で彼は答えた。
「なんだよ、入らない方が良かったのか?」
「違うっての!」
 怒ったように答えるのを見て、少し嬉しくなった。彼は彼なりに心配してくれているんだろう。
 言葉を返そうとして、僕と言いかけてやめた、もう、きっと、そんな子供じゃない。
「……俺も、何か始めるには、良い時期かなって思って」
 少しの照れくささはあったけど、そう俺は言った。
 彼は驚いた顔をして、目を大きく開いて俺を見ていた。
「いつまでも、僕ってがらじゃないからな。運動ぶっぼくていいだろ? 俺の方が」
 小首を傾げて、なんだか少しの優越感を感じながら、俺は笑った。


 彼女からの一方的なメールは三日間送られてきて、四日目に、不在着信が二件届いた。
 最後のメールは、五日目に届いた。
〈離れていくのが分かったけど、でも、どうしたらいいかなんて分かんないんだよ。どんないメールしても、電話しても、答えなんて見つからなくて、違和感ばっかりが増えてって。こんなこと言われても、隆、困るよね。……ごめんね。さよなら。〉
 そのメールを見た瞬間、こみ上げるものがあったけど、それでも俺は、返事を出すことを踏み止まった。
 どうすれば良いのかわからないのは俺も同じだし、きっと、もう、そんなものがあったとしても、それは到底取り返しのつかないものだと思ったからだ。
 それに、この感情は、これからもひとりきりの俺を襲うのだし、だから、流されるわけにはいかなかった。


 俺を縛るものは、もう何もなかった。
 あの女の子を中心に回っていた世界は、もうエンディングを迎えたのだから。

 これからの目標は何もなかった。
 それでも、歩きづづけられることを知った。


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