ある晴れた休日、工藤邸。
俺は久々に本来の家を掃除に来ていた。……と言っても、俺が一人で普通に此処に来れるはずもなく。もちろん蘭も連れて。今回は連休中という事もあり、服部と和葉ちゃんが東京に来ていて、一緒に手伝ってもらっている……のはいいんだけど……
「服部、お前何やってんの?」
「何て……お前ん家、掃除しとるんやんけ」
「違えよっ! お前さっきから人の思い出の品を勝手に探ってんだろがっ」
ったく、さっき蘭と和葉ちゃんが買い物に行ったのをいい事に、俺のガキの頃のものを引っ張り出して、冷やかしてやろうって事か?……あくまでも人の家だぞ、オイッ。
「おっ、何やコレ? “えにっき”……日記かっ!」
……服部、お前人の話を聞けっ!
「えぇと、“1ねんAぐみ くどうしん一”って工藤がホンマに小っさかった時のやつか?」
あぁ、見るなっ!日記は最も他人に見られたくないのに、こういう時最も見られやすい代物……。
「……8月5日〔 〕きょうはがっこうで、みんなとサッカーをしたり、おにごっこをしてあそびました。あつかったです。またあそびたいです。……意味分からん日記やな。何で〔 〕が一つ空いてんのや。ホンマは、この( )に曜日入れて、こっちが天気なんとちゃうんか?」
分かってるよ、そんな事。昔の俺だって日記なんて面倒くさくて嫌いだったから、そんな細かい事気にしなかったんだよ。
「それにや、あつかったんならもう遊ばなかったらええやん。矛盾しとんなぁ。」
小学一年生の日記にそんなケチつけなくたっていいじゃねぇか……。他に書く事なかったんだよ。
「も一つ……」
あん?まだ何かあんのか?
「“みんな”なんて書かんで、〇〇君に〇〇ちゃんに……って仰山人の名前書いたら早よ埋まんのにな。俺はようやっとったぞ?お前、そういう機転は利かへんのか?……世の中上手く渡ってかな、あかんで?」
俺は、そういうセコい事はしねぇのっ!
「……8月6日( )〔 〕きょうはなにもない日だった。おわり。……セコおっ!」
……しまった。
「絵は、まあ可もなく不可もなくってとこやな」
そりゃどうも……。
「ほらっ次っ!」
「何や、コレ?」
お決まりの文句。
「今以上に小っさい工藤やっ! 今から十六年前やから――まだ一才ん時か。おめめくりくりやんけ。くまの縫いぐるみなんか抱いて……というか、絞め殺しとる感じやけど。まだ生意気ちゃうんやろな。……こん時はまさか自分が縮むなんて思うてへんやろなぁ。ご愁傷様ぁ」
うっせ―服部……お前を絞めるぞ!
「もうっいろいろ漁んなよっ! 次っ次っ!」
「ん? 何やコレ?」
もうこれも三度目。勘弁してくれよ……って言いつつ、俺も気になってたりして……。
「折り紙か?」
服部の手には、折り紙でできたピンクのワンピースの女の子と、青いシャツと緑色のズボンを身に纏った男の子の人形。これは確か……。
――さかのぼる事、十二年前……
俺は五才で幼稚園児。
「しんいちね、あした、おたんじょうびだからね、らん、つくったんだよ」
そう言って差し出したのが、俺と蘭が手を繋いだこの人形だったっけ。裏に幼い字で名前もちゃんと書いてある。
「おれにくれるの? ……ありがと」
あの時はまだ素直だったから、お礼も素直に言えた。その後確か先生に自慢して……
「せんせえっ! らんがおれにくれたんだよっ! いいでしょっ?」
「まあ! よかったわね。じゃあ新ちゃんも、蘭ちゃんのお誕生日には、何か作ってあげようか?」
「うんっ」
堂々と返事をしたまでは良かったものの……結局上手く作れなくて、四つ葉のクローバーを必死で探して、蘭にあげた覚えがある。……今思うとそっちの方が難しくないか?
そんな事を思っているうちに現実に引き戻された。
「工藤ぉ、それあの姉ちゃんからもろたもんやろ? 言わんでも顔に書いてあんで?」
あぁ、しっかり書いてあるよ……折り紙にな……。
「お前、そないな昔からあの姉ちゃんとラブラブやったんやなぁ?」
「うっせ―、そんなんじゃねぇよっ!」
全く、お前は一言……いや二言、三言、多いんだよ!
「ただいまぁ」
玄関から蘭と和葉ちゃんの声が聞こえてきた。俺達は慌てて“思い出の品”を片付け始めた。
あの二人が買い物に出掛けてから、全くはかどらず……ノスタルジーに走っちまったじゃねぇかよ……。
「休憩にせえへ―ん?」
和葉ちゃんの声。
「疲れたでしょ―?」
後に続いて、蘭の声。
「工藤、愛しい姉ちゃんが待っとんで?」
服部が厭らしい目つきで俺を見た。
「服部、お前もな……」
俺達は、喉の渇きを満たす為、急いでキッチンへと駆け込んだ。
――この後、片付くどころか、更に散らかった部屋を見られ、二人の雷が落ちたのは言うまでもない……。 |