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嗚呼、新しき日々よ。
作:Gunter



番外:私の生まれた日


 物心付いた時……、そう"自分"という確固たる存在に気が付いた時、私は周囲とあまりに違うという事にも同時に気づいた。
 まず性別が無い、男や女と呼ばれるそれがなく、思った通りに身体が変化する事実に戸惑った。
 次に気づいたのは、自分には名前が無いということ。
 種族としての名前すらもなく、見回せば誰もがもっているはずの"親"というものもなかった。
 次第に鎌首をもたげはじめたそれは疑問、自分はいったいなんなのだ?という小さな違和感。
 別に名前や親を所有していないことには不満はない、それが当たり前だからだ。
 だが、自分が理解できないというのは余りに不条理だ。
 ある日、私は周囲の者達が崇める"魔王"という老人に問いかけた。
 黒い鳥の羽を生やし、牛の下半身をもった老人、自分のいた"村"という集団にも何人かいた老いた存在、よくわからないが長く生きるということは外見の変化を伴うものらしい。
「虚ろな者よ」
 魔王という老人の呟いたのはそれだけ、どうやらそれが自分の全てらしい。
 理解も納得もできないが、どうやらこれ以上ここに留まるのは許されないらしい、私は魔王のもとより立ち去り、またあの集団に帰ることにした。


「おい! 今日も人間達を脅かしにいこうぜ!」
 そう私に言うのは銀色の髪をもった元気の良い少年。
 昔から私に良く懐いているこの少年はこの村でも私を見て怯えたり嫌がったりしない数少ない魔族だ。
 少年はオーガという種族らしく、額には短い、本当に短い灰褐色の角が生えていた。
「わかりました、でも私は何もできませんよ?」
「ハハハっ!! いつもの事じゃん! おいらは一緒に行こうって言ってるだけで手伝えなんて言ってないぜ?」
 そう楽しげに笑う少年、彼曰く私は「おいらの忠実なしもべ一号だ!!」らしい、良くわからないが私は彼と一緒にいるのは不快でないし、むしろ心地よさすら感じている。
 何故か?簡単だ、少年は私を拒まないから、誰もが忌み嫌う私を少年だけは嫌わない。
「それじゃあ、行こうぜ! 森の外にある街に人が集まってるんだってよ!! 今日は沢山脅かせるぜ!!」
 躊躇や我慢という言葉が似合わない少年に誘われるがままに私は彼の後に続いた。


「あー、面白かった! 見たかよ、あのデブのばばあ! 軽く吼えただけでギャァー!! とか言って、ヒー腹痛い!」
「少しやりすぎた気もしますが……」
「良いんだよ! 大人以外は脅かしてないしなっ!!」
「そういう問題では……それに報復されたらどうするんです?」
 「そのときはそのときだろ?」そう言って笑う少年、彼は知らないのだろう、人間という種族の恐ろしさと執念深さを、魔族以上に違うものを嫌う彼らが一度怒れば自分達にとってどんな結果が待ち受けているかを。
 きっと大丈夫、そう自分に言い聞かせるしかできない私。
 だが……だがもしも彼が人間達に捕まってしまったら?私に何が出来るだろうか。
 ――できない、何もできないだろう、ただ呆然と彼の光が消えていくのを見ていることしかできない。
 私は起こってもいない、けれどこの先きっと――いや、必ず起こるであろう出来事を考えながら己の無力を知る。
 自分に無いものを、また見つけてしまった――――。
「また行こうな? やっぱり一人でやるよりずーっと楽しいよ!!」
 そう笑う少年に危機感さえ感じながら、甘美で安らかな現状を壊せない自分に私は失望した。


 ある日、それは起こってしまった。
 危惧していたこととは違う、けれど結果として更に最悪の状況を引き起こしてしまった。
「逃げろぉぉぉ!! はや――うわああああ!!」
 屈強なオーガの男達は武器をとり、同族を殺した甲冑の群れへと飛び込んでいく。
 必死に逃げ惑う女、子供。
 悲鳴、断末魔、嘲笑、絶叫、怒号、奇声。
 私は呆然と眺めているだけ、目の前にうつ伏せになった少年のことや死んでいく群れを見つめながらただ呆然としているだけ。
 逃げようとしない私のことは誰も咎めないし気にもとめない、元々私は忌み嫌われた存在だから。
 だが、だが…………何故?
 こんなにも優しく、太陽のように笑う少年が…………長い付き合いなのにも関わらず、まだ名前すらも教えてもらっていないのに、何故この少年がこんな……ただ少し悪戯好きなだけの少年が。

「何故?」

 目の前には今まさに奪われていく私の大事な唯一の友達、銀色の太陽。
 何故だ、少年から溢れる赤色、彼らと同じ色のはずなのに何故こんなに容易く奪われる。
 何故こんな……、理由なんて知っているのに何度も何度も自問自答する私。
 決まっているだろう、少年は私に向いたはずの悪意の矛先を受け止めてしまった、私なんかを護ってしまった。
 動かない少年、いつも私に気を使って外に連れ出してくれた少年、家族とすら言ってくれた少年。
 死んだのか? 死んでしまったのか? 死んでしまうのか?
 ――否、死なせてたまるものか!!
 こんなところで、こんな場所で、あんな奴等に…………この私の光を奪われてたまるものか!!
 思い出した言葉は年老いた魔王が私に言った言葉。
 ――虚ろな者、この集団の長である男も、私の知る限り最も博識な魔族ですらも知らない言葉。
 だが、今ならわかる。
 それは私だ、私を指すに相応しいだろう。
 虚ろな者、真の名は空白魔(ファントム)、幻影の住人、空にして虚、万別者、固定の姿を持たぬ者。
 おとぎ話でしか語られないような、魔族にごく稀に生まれる悪魔、名も親も持たず生まれ来るそれはあらゆる者に変化し、魔王すらも騙すという。
 彼らは突然生まれ、自分の命題を探す、そして彼らはある日突然自覚するのだ。
 自分が何でどんな力を持ち、どんなことが出来るのか――と。
 私の中に知るはずの無い知識がめぐった。
「護れるか(ますか)?」
 既に手遅れかもしれないという言葉は浮かばなかった、ただ目の前の少年を救いたいという一心。
「違う、護るん(です)

 護るべきは私の太陽。
 救うべきは唯一つの命。


 そして私は自分を始めて好きになれた。
 少年を救えた空虚な自分を――初めて愛せた。



 平穏な日々が続き、ある日少年は私にこう言い放った。
「お前はセバスチャンだ!!」
「セバスチャン?」
「そうだ! 人間達の本にのってたんだ!! つよくてえらくて主人を絶対にまもるしもべは皆セバスチャンっていう名前なんだってさ!! お前もおいらのしもべなんだからセバスチャンになってくれよ!」
 なにやら随分と偏見にまみれた本だ、著者は一体どんな目で世界を眺めているのだろう。
 だがそんな事を楽しげに言う少年に私は何度も頷き、自分の名前を何度もかみ締めた。
「セバスチャン」
 私はたった今与えられた名前を呟く。
 私の名前、それは私に始めて与えられた名前。
 この日この瞬間、私はやっと世界に生まれた。
 父親は少年で母親もまた少年だ。
 私はこの少年に一生を捧げ、彼のためだけに生きようと決めた。
 そうだ、大事なことを聞き忘れていた。
 とても大事なことだ。


「そういえば…………貴方の名前は?」



「んー? おいら? おいらの名前は―――――」


 私の――セバスチャンと名付けられた私の世界がゆっくりと動き始めた。


以上、番外編でした。

セバスチャンの種族というか、正体というか・・・。
まぁ、少年の正体はバレバレですかね。
ついでに本編では出す予定も書く予定も無いベリアの前の魔王がチラっと出てます。
見た感じからわかるように老人で耄碌してます。
近いうちに死にます、この人。

セバスチャンの力に関してはほぼ反則なので滅多に使わせませんが、作中で語られることになると思います。
でわでわ。






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