第19話:道化狐は妖しく哂う。
暗い暗い森の中、魔王城より続く荒野の隅にある魔力に覆われた鬱蒼と茂る森。
外からみれば森というよりも林に近い大きさだが、一度足を踏み入れれば永遠と森を彷徨うことになる。
悪意の森、それは森自身が悪意を持ち飲み込んだ獲物を逃がさんとする無限回廊の名前だ。
その森のなかで木々をすり抜けるように飛ぶ竜が――魔王がいた。
『忌々しい……よもやオーガ如きに遅れをとるとはっ!!』
魔王は森の中を悪態を吐きながら飛び、開けた場所にたどり着くとその翼を休めた。
『次こそは、次こそは必ず殺してやる!!』
「次?次は無いな、残念ながら」
「どうもこんにちは、陳腐な台詞とともに現れたぜ。狐面ヒーローと助手の鬼面ヒーローくんだ」
魔王が振り返り、その視線の先にいたのはひらひらとした東洋に見られる着物をきた狐を模した白い面で顔を隠した男とそれに続く鬼面の女。
なんと言うことだ、魔王は絶望にも近いものを感じた。
魔族に知られるその姿を持つもの――その名は立花の剣聖。
刀と呼ばれる剣を操り魔族を一切の慈悲もなく殺す勇者。
と、考えて魔王は自分の考えを打ち払った。
今の自分に恐れるものがあろうか? と。
我こそは魔王である。
歴代の勇者の中で最も恐るべき――そう、あの魔殺しの狂剣でない勇者など、以下に剣聖であろうと今の自分ならば簡単に食い殺せるのではないかと。
『ふ、ふは、ふはははははははははははははははは!! 矮小な勇者ごときが我に敵うとでも思ったか!!』
「どう思う? あげは。ちょっと重症じゃないか?アレ」
「……私に聞かれましても」
「ハッハッハッ! 確かに確かに、でもあの程度なら楽勝だな」
カラカラクルクルと仮面の中の表情を転がすように笑う総一郎。
その油断しきった姿に魔王は怒り、大顎を広げると紅蓮の槍を吐き、総一郎達ごと地面を抉った、
つもりだった。
「駄目だな、ベリアさんのとこの守衛十人もいれば――立花の勇者二人で十分殺せるレベルだな」
竜の胴を下から断つかのような銀色の細く鋭い一閃、それに続いて返す刀で振り下ろされたニ閃目。
ゴトリと音を立てて落ちたのはベリアの剣撃によって半ばまで切り裂かれていた魔王の片腕。
魔王には似つかわしくない悲鳴が森を劈いた。
『き、きさマァぁぁ』
「外皮の硬さは鋼鉄と同等か……まぁ硬いだけで柔軟性のない脆い鱗みたいだから簡単に斬れるな」
そう言って総一郎は腰から抜き放った刀で更に翼を切り落とす。
『あがアアああああっ!? 』
「無力だなァ? ああ、無力ってのは何よりも重い罪だ。戦える力をもってまだ尚弱いってのは最低最悪の罪だぜ?極刑でも足りないくらいのなァ」
金属が滑る音が瀕死の魔王の耳朶を叩いた。
重く圧し掛かってくる恐怖を振り払い、目の前の勇者を焼き殺してやろうとその目を見開くと、更なる恐怖――否、それは最早絶望に近しいものが目に映った。
総一郎は全身に高い魔力を帯び、中でも両手は一際強い魔力が刀の形を作り新たな二本の刀となっていた。
そして背中と腰に収められたそれぞれ計六本の刀はまるで見えない手に捕らわれているかのように総一郎の周囲で揺ら揺らと輝いていた。
「我が両腕は強き刃なり……ってな? ま、あの人の技を模しただけなんだが中々使えるんだな、これが」
「さあて……征くぜ?」
死刑宣告。
「刀陣八式――土蜘蛛」
八つの銀閃が煌き、魔王の胴に繋がるあらゆる部分が宣告とともに瞬断され、転がり落ちた。
狐は薄く笑うと転がり落ちた首を拾い上げた。 |