第18話:戦場の軍歌
――風を切り粉塵を巻き上げ、進め進め。
――我等は、我等こそは皇帝の軍馬、帝国の剣。
――皇帝陛下に栄光を、我等が母国に栄光を。
――国賊を駆逐せよ、魔の使徒を屠殺せよ、魔の王を撃滅せよ。
南方より雷鳴ように粉塵を巻き上げながら声高々に何かが現れた。
「!?」
「これは……帝国の行進曲か。だとしても早すぎるぞ!!」
「どう……したんですか?」
総一郎は驚愕を顔に浮かべながら、その何かを指差した。
徐々に近くなるそれが掲げていたのは帝国旗と双頭の鹿が描かれたクローセルの旗。
「……討伐隊ですか?」
「そうだ。拙者の命令で立花は非常時の援軍という体制を取らせていたが……帝国め、ゲート・タンクに加速系の魔法か魔術でもかけやがったな」
「お嬢様!?」
背後からかかった声に何事かと振り返るサーシャ達。
「やっぱりお嬢様だ!!」
そこにいたのは、かつての敵であり自分の家族も同然の魔族達。
全員が鎧を身に纏い剣や斧、槍をもっている、一様に疲弊の色が見え、彼らの足元には怪鳥や翼竜の屍骸が横たわっていた。
だが、魔族達は魔王に続き、愛すべき王女の帰還に色めきたち、歓声をあげ疲労を吹き飛ばし自分達を鼓舞していった。
その中の一人――巨人族らしき一角を生やした鎧の男が言う。
「お嬢様達は城内へ、これは我等の戦いです」
「でも……っ」
「戦場は我等のもの、怨敵は我等の糧です。せめて今だけは戦いを忘れてください……」
「それにお嬢様の魔法は人間には振るえないでしょう?」
また別の魔族が言った。
確かにサーシャの魔法は人には振るえない――否、振るってはいけないものだった。
だが、だからと言って見殺しにできるだろうか? 勇者と呼ばれた少女が今まさに滅びを辿ろうとする家族達の終わりを傍観できるというのだろうか?
――答えは否だった。
無言でスケッギョルドではない剣を構え、彼らの戦闘に立つサーシャ、そんな姿に魔族達はおろか総一郎達さえも困惑した。
「サーちゃん、君は確かに強いよ。でも勇者でない君の強さは常人より少し抜きん出た程度だ、帝国軍相手に立ち向かうのは蛮勇だぜ?」
「そのとおりです、サーシャ様。事を焦っても……」
「うるさい!!」
振り払うように叫ぶサーシャ、普段は温厚なサーシャの怒りに口を閉ざす。
「私は……私だって…………っ!?」
乾いた音が響いた。
頬をおさえるサーシャ、怒りと哀しみを浮かべる総一郎、何が起こったのかを理解するのはあまりに簡単だった。
「ハッキリ言うぜ?邪魔だからすっこんでろ、君の出番は今じゃない。聖剣様は殺す剣じゃなくて護る剣、そう言ったのはサーシャ、君だろう?」
「……っ」
剣が手から滑り落ちる、サーシャは涙を浮かべながら項垂れ、何も言わなくなった。
「良い子だ。セバスチャン、サーシャを頼む。あげは、お前は拙者と来い」
「え?」
総一郎が荒野の中に微かに残る暗い森を指差した。
「こんなことしてる間にあの魔王が逃げた、さっさと首級とって献上してしまえばこっちのものだ。他の奴等はど真ん中で戦ってる尻尾のガキんちょの手伝いしてろ、だが殺すなよ?後で面倒になるからな」
「翔くぞ、あげは」
「はい」
一瞬身を沈めると二人の姿がぶれ、突風とともに消える。
それこそが立花の魔法、発動することによって自分に対する抵抗を好きなだけ打ち消す技。
立花の勇者は空気の抵抗と降りかかる重力を少しだけ弱めたことによって音速に近い世界を走り、逃げた魔王へと距離を詰めていった。
そして魔王は地に堕ち、魔族達は己の愛する主を護るためだけに力を振るった。
戦場には止まぬ帝国の軍歌が響き渡る。 |