嗚呼、新しき日々よ。(19/28)PDFで表示縦書き表示RDF


三人称復活。
ほどよくシリアスムードが続いています。
嗚呼、新しき日々よ。
作:Gunter



第17話:矛先は――。


「な、なんですか?あれ」
 唖然とした表情で呟くサーシャ、彼女の目の前にあるのは巨大な何か。
 大きな車輪が幾つも取り付けられたそれは台座のようにも見える。
『……自由移動重甲戦車(ゲート・タンク)ね、立花が一枚噛んでるあたしと同じ古代技術をつかって作った代物みたい』
 宝石を明滅させながら答えるスケッギョルド、どうやら内蔵されているデータにあの車の知識があったらしい。
「当初は魔王城付近への進出目的で作られたらしいんだけどね、今回は逃げた魔王(ドラゴン)を効率的に追う為に使われるらしいぜ?」
「追う?」
「そう、追う。あれは上から見ればわかるけど車輪のついた巨大な門なんだ、対魔装甲に対物理装甲をつけたね。集団で使う攻性の儀式魔術を連続で受けてもビクともしない、移動スピードも汽車の数倍だ、しかも兵士が直接移動するわけじゃないからアレが配置に付けば一瞬で戦いが始まる。魔法であの門と別の門を繋げるシステムだからな」
 ゲート・タンクを見上げながら楽しげに呟く総一郎、だがその表情もすぐに忌々しげなものに変わる。
「だけど今回は少し不味いぜ」
「え?」

「ベリアさんさ。魔王の逃げたのはうちの隠密の情報だと魔王城の方向。ベリアさんがいるはずの場所も魔王城、しかも魔王城には……サーちゃんの知り合いも沢山いるんだろう?」

「あ!!」
「立花から出兵する二千人は拙者の指揮だからどうにかできる。だけど帝国兵四千人とクローセルの勇者五百人は拙者の力じゃどうにも出来ない、しかも今回は全兵士がオーアの血を所持することを許可されている」
 この国、いや世界ではオーアの白老鳥は平和と破邪の象徴であると共に帝国――否、皇帝一族の覇権の象徴でもあった。
 故に厳重に保護され、無断でオーアを傷つければ一族皆殺し、一般市民には『オーアを死守せよ、それは人民の血よりも尊き命なり』とまで教育ですり込んでいるのだ。
 だからこそ、今回は帝国が本気で魔王を潰そうとしている意気込みが見える。
 この出兵は間違いなく魔王城に住む魔族達、サーシャにとって家族同然の彼らを殺すことになる。
「そんな!! 止められないの!?」
「無理だ。そんなことを進言してみろ、拙者だけでなく立花は魔王に加担した逆賊として皆殺し、東亜は逆賊を匿った賊国として他国侵略が大好きな帝国の恰好の的になってしまうさ」
「じゃあどうすれば……」
 項垂れ、逃げた魔王(ドラゴン)を無意識に心の奥で責めるサーシャ。
 それを見かねたのか、総一郎はやれやれと首を振り、一つの案を提示することにした。
「わかったよ…………あげは」
 傍らに無表情で立っていたあげはに声をかける総一郎、あげは何事かと一瞬眉をひそめるが総一郎が他の誰にも聞えないように呟いた命令に一度だけ軽く頷き魔術か何かでその身をかき消した。
「セバスチャンとベイルを探してくるんだ、拙者達は別ルートでいくぜ」
「え?」
「立花の技術力は世界一……ってな」
 そう不適に笑うと総一郎は別荘のある方向へと歩いていった。
 サーシャもすぐにその場から踵を返したが、スケッギョルドの様子がおかしいことに気づいた。
「どうしたの?スケッ――姐さん?」
『ごめん、少し眠るわ』
「え?」
『どうもね……調子がおかしいのよ。でも安心して、何かあったらすぐ起きるから』
「あ、うん……」
 剣も眠るんだ、そんなことを考えながらサーシャは黄昏色の剣の鞘をより一層強く腰にくくり付けた。


 案内されたのは黒い部屋、窓も無く扉以外は全てが黒一色に塗られた立花の別荘でも異色な部屋。
 サーシャは後ろで自分と同じような表情で部屋を見ているセバスチャンと顔を見合わせ、改めて彼等の美的センスにツッコミをいれたくなってしまった。
 それを察したのか部屋の中心で待っていた総一郎が乾いた笑みを浮かべた。
「これね、儀式魔術にはイメージとか意味とか与えなきゃいけないから黒一色なんだよ。この部屋は他の空間に割り込む……つまり侵食するための部屋なんだ、だから黒しかないんだぜ?」
「へぇ……趣味なのかと思った」
「やめてくれ。ところでベイルは?」
 そう問う総一郎にサーシャとセバスチャンは気まずそうに答えた。
「ずっと探してたけど見つからなかったんだって」
「ここから少し行ったところにある使われてない小劇場のあたりで魔力の痕跡がプツリと…………」
「ハハハッ! ま、まぁ気にすることないさ! ベイルだって餓鬼じゃない、何かあったんなら自分で何とかするだろうし、すぐに帰って来るさ。それより今はベリアさん達の問題だな……あげは、起動するからこっち来い」
「はい」
 「発動」という小さな総一郎のと共に黒い部屋の空気が変わり始める。
 中心からねじれるような、引き伸ばされるような、不思議な浮遊感を感じながら短い時間が過ぎる。
「到着か。あ、暫く部屋を空けるなよ?侵食されたばかりだから何処に繋がるかもわからないからな。にしても到着してから暫く位置調整しなきゃいかけないのが痛いなァ」
「二度目の運用ですが、目だった問題は無いようです」
 ボソリと言ったあげはの一言を聞き逃さなかったサーシャとセバスチャンが青ざめた表情で言う。
「今、さらりと恐ろしいこと言わなかったかな?」
「…………サーシャ様、忘れましょう。そしてただベリア様の無事だけを祈りましょう……。」
「人はそれを現実逃避というんだよ?」



 黒いの中に浮かぶ異色の扉を開けて最初に気づいたのは悪臭。
 血と塵と何かの焼ける臭い、慣れ親しんだとも言える戦場の香り。
 長い間、戦いに身を寄せたサーシャだが、この臭いは未だに好きになれないことを改めて自覚した。
「ここは……?」
 見回せば見覚えの無いそこは岩の群れと言おうか。
 無数の岩や石、土が積み重なり防壁となり向こう側をひた隠しにする。
 そして出てきたばかりの扉を見る。
 扉は岩山に最初からあったかのようにそこにしっかりと存在していた。
 自分に続いて外に出た総一郎が眉間を抑えて「やっちまった」と呟いた。
「これ、魔王城の背面にある壁だね……調整ミスしたか」
「というより、魔王かそれに順する何かの魔力に弾かれた可能性が高いと思います。壁の向こうから異常な威圧感がしますし……」
 「ふむ」と一息いれると総一郎は天を指差し、指先から魔力で作り上げた発光体を撃ち出し壁の向こう側に向かわせようとする。
 だが発光体は壁を越えた辺りで何か見えないものにかき消され、消滅した。
「こりゃ飛び越えるのは無理だな、となると各自どうにかして渡るしかないぜ?拙者とあげはは短距離なら空間転移の真似事ができる。サーちゃんとセバスチャンはどうするんだ?」
「私はこのくらいの魔力なら通り抜けられるけど……ってセバスチャン?」
 深刻な表情で最後に出てきた執事を見つめていた三人だが、彼の行動に一同は素直に驚いた。
 何と、セバスチャンが岩や石で出来た壁に手を当てると壁は道を譲るかのように人一人くらいなら簡単に通り抜けられそうな穴を作り出したのだ。
 悲しきかな、先ほどまでの彼らの苦悩などは全てを無駄の一言で切り捨ててしまうかのようだった。
「元々、この壁を作ったのはベリア様と私とアギ様ですから」
 サーシャ達はその言葉に沈黙するしかなかった。

「…………っ」
 この時、サーシャには息を飲む音と感覚が鋭く感じられた。
 視界を埋め尽くしたのは城ではなく、死屍累々という言葉が相応しい忌わしき戦場。
 自分が壊し塗り替えた、戦火に飲まれた荒野にあるのは生を忘れた愚者の群れ。
 天にあるのは怒りを浮かべた満身総意の紅い魔王と片腕を剣に変えた黒と銀色の魔王であった父。
「嘘よ」
 そう、これは嘘のはずだ。
「だって」
 何故?
「お父様の右目は」
 無くなったはずなのに――。
 ガラガラと崩れる音、再燃する怒り憎しみ嫌悪。
 マッチ棒から生まれた小さな火が山すらも飲み込む劫火になるように、表情が強張り口からは殺意があふれ出そうになってしまう。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ……あぁ……」
 力が抜けてへたり込む。
 別にあの魔眼があるだけなら笑えた、もう一度"お父様"と呼べたはず。
 なのに、なのに何なのだろう? この気持ちは、冗談ならば笑えない、笑えないのに。
 勇者が生まれながらに持つ魔王を示し、魔王にのみ矛先を向けるはずの殺意の矛先が――


 ――紅い魔王よりも愛する父親に強く向かっているだなんて。


コメディはいつ帰って来るの!?
どうもギュンターです。

再燃した憎悪、名実共に魔王で無くなったはずのベリアへと向いたサーシャの殺意。

次回、サーシャ達の物語がやっとベリアの物語に追いつきます。

今回のお話で何故?と思ったことが幾つかある可能性がありますが、それは狙ってやって居ます、てか伏線ですので放置ヨロ!






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