第11話:勇者の危機
隊列を組む兵士達、羽織ったマントの胸には鷲の翼を持った双頭の鹿が描かれた家紋が縫い付けられ、マントの中には薄っすらと水の魔術で覆われた鋼の重鎧が見える。
彼らは最近ルガード公領に出現した魔王と名乗る赤竜を狩るために急遽作られた対魔王の重兵団だ、その鎧には協力関係にあるクローセルの者達が付加した水の護りと幾つもの対魔能力を持つ魔術が込められていた。
重兵団の先頭に立つはクローセルの勇者達、と言っても先の戦闘で半数が戦死した為、その半分は血族の中から選ばれた候補生達らしくまだ若く表情には色濃い緊張が浮かんでいた。
だが彼らは確信していた。
自分達の勝利を――――。
重兵団と勇者達の進軍中に黒ずんだ真紅の身体を持つ竜とその眷属である翼竜達が飛来し、進軍中の彼らごと街が全滅したという知らせが入ったのはベリア達が立花の別荘に入って三日後のことだった。
「馬鹿な奴等だ……火炎竜と赤色竜を間違えやがったな」
兵団につかせていた隠密から送られてきた報告書を見て悪態をつく総一郎、その顔は侮蔑と哀れみに満ちていた。
しかしすぐにその報告書を机の引き出しにしまうと別の引き出しから分厚い本を取り出す。
『……なんか違うの?』
「ん? あれ? サーちゃんにあげは……とスケッギョルドか、いつのまにいたの?」
「えーと、丁度今、あげはさんに案内されて」
「あぁ、そういや連れて来いってお願いしたんだったな。あげは、お疲れさん」
総一郎はそう言いながらあげはの頭を子供の相手をする父親のような表情で撫でながら褒める、あげはも満更でもないという表情を浮かべていたが、すぐに我に返り周囲からの生暖かい視線に耐え切れず逃げるように出て行った。
『で、その竜に違いなんてあるの?』
「そういや上位魔族のデータは記憶させたけど魔獣種のデータは入れてなかったか、丁度言いや今ここで軽く教えてやる」
そういうと総一郎は手元の分厚い本を机の引き出しに戻して報告書を見てから強張りだしていた眉間の皺を手で軽く揉み解しながら言った。
「竜ってのはだいたい五種類にわけられるんだ。一つは翼竜とかみたいな眷属種、こいつ等は力ばっかで頭の弱い雑魚だ、吐息も使ってこねぇ。二つ目は一般に竜として認識されてる属性竜、火炎竜が良い例だな、この手のは弱点の属性があるから比較的楽に倒せる、つっても勇者一人二人じゃキツイけどな。んで三番目が精霊竜、こいつ等は大人しいから魔獣とはちょっと違うが竜であるには変わりねぇ、強さも妖精竜から海王まで本当にピンキリだな、ついでにこいつ等の祖先が魔獣じゃなくて精霊ってのはこの世界の常識だから深く説明しなくても良いよな?」
『ふ〜ん、それにしても良く息が続くわね』
「お前が聞いたんだろうが・・・まぁいいさ、続けるぜ? んで、四つ目に入るのが貴竜種だ。赤、青、黄、紫、白、黒、灰が今のとこ確認されてる種族で竜のお貴族様だな、吐息は吐く奴によって属性が違って赤が炎、青が氷、紫が雷で黄白黒灰は吐息の変わりに魔道を使ってくる。今回襲ってきたのは赤竜だな、炎を使うが属性持ちじゃねぇから水が効果的なわけでもねぇんだ」
そして頬を書きながら「五つ目は皆さんご存知の神竜だな、これは説明いらねぇだろ」と言って笑った。
『で、襲ってきたのがその赤竜ってわけね……あら? どうしたのサーシャ』
表情を曇らせたまま辺りをしきりに見回すサーシャをさすがに不審思ったのかスケッギョルドは鍔にはめ込まれた石を点滅させつつ問いかける。
というよりもその石は彼女の意思を言語化する装置にようだ。
「うん?……お父様がいないなって思って…………総一郎と一緒にいたら絶対割り込んでくると思うんだけど」
「ああ、ベリアさんならちょっと私用で出てるんだ。一度城へ帰るとか言ってたし」
『城?』
「あ、うん。リーヒッツ共和国の方にあるお父様のお城……といっても廃墟みたいな状態だけど」
苦笑いしながらそう答えるサーシャ。
だがそれも仕方ない、何を隠そう魔王城を廃墟同然にしたのは彼女自身なのだ、魔王であるベリアを倒すために放った最後の一撃の余波で城どころか周囲の森は全て吹き飛んだというのはサーシャの恥ずべき点でもある。
そんな理由なためか、彼女はベリアとの戦いの内容については一切話したがらない、総一郎ともう一人の仲間はセバスチャンや城の守衛達に道を阻まれて彼等の戦いをまったく目にしていないし、ベイルシアも口止めされているのか話したがらないのだ。
気づけば荒地で気を失っていたというのが彼の真実だったりする。
『リーヒッツ……身一つじゃどう考えてもここから一月二月はかかる距離よね?』
「うーん……お父様は空間転移系の魔導が得意だから……一時間あれば世界を一周できるって言ってたし」
『……化け物ね』
「その代わりに他人を巻き込んだ空間転移は一切できないって笑ってたけどね」
「まぁ、拙者としてはベリアさんが遅れれば遅れるほどサーちゃんと楽しく過ごせる時間が増えるわけだから……どうだい?今夜食事でも……良いレストラン知ってるんだけど」
『全力でお断りィ!!』
「ハッハッハッ!……何故お前が拙者の誘いを断る!? 拙者が誘ったのはサーちゃんなんだぜ!?」
『駄目よ!サーシャはあたしのなの!! あんたはその辺で下男と乳繰り合ってなさい!!』
「下男って野郎と×××したり××××したり×××なことになるような趣味は拙者には断じてない!! むしろスケッギョルド!! ヒトガタ化して拙者とデートしろ!!」
『話変わりすぎでしょ!?』
「…………」
騒がしい二人を他所にサーシャは依然として落ち着かない様子で窓から見える空を見つめていた。
嫌な予感がする、というのが一番の理由だった。
それは、それはまるで――――
(もう……あんな事にならないよね?お父様……)
「サーちゃんの貞操が大事ならお前の貞操を拙者に差し出すんだ!! スケッギョルド!!」
『鬼畜!! 変態!! 色情魔!! あんたは女なら何でも良いの!?』
「ハッハッハッ!! 女の子は須らく愛らしく美しい!! 拙者の人生に必要なのは女の子との時間だけなんだぜぇぇぇえ!!」
『あたしは野郎には興味無いのよ!!!! サーシャとだったら×××なことも××××だって喜んでしてあげるしされてあげるけどね!!』
(お父様、早く帰ってきてください。この二人を止められるのはきっとお父様だけです……)
サーシャの祈りが届くのは、もう少し先である。 |