嗚呼、新しき日々よ。(10/28)PDFで表示縦書き表示RDF


嗚呼、新しき日々よ。
作:Gunter



第9話:焔の忌み児


「なんと言うか……凄いお屋敷だね……」
「ええ、城とは違いこれはこれで風情があります。使用人も熟練していますし」
「アハハ……セバスチャンってやっぱりそんなとこばっかり気にするんだね?」
「職業病みたいなものでして……」
 何処か虚しげに苦笑いをする二人、それから暫く会話を続けるがすぐに途切れてしまった。
 そして二人を残して居なくなってしまった二人を想い、恨めしげに呟きながら目の前にある座布団とかいう用途不明の布を極めて弱く叩く。
「……お父様は総一郎と何処か行っちゃうし……クローセルもいつの間にか居なくなっちゃってるし」
「この静けさは少し辛いですね……」
「うん……少しっていうか、かなり辛いよね」
「ハハハ……はぁ」どちらかが漏らしたのか、それとも両方が漏らしたのか、深い溜め息が部屋に響きまた息苦しい静寂が戻った。
 落ち着いた雰囲気の内装も、(おもむき)を感じさせる装飾も、今のサーシャ達には重すぎた。







「こんなところに呼び出して……何のようですか? 僕はもう貴方達とは関係無いはずだ」
 そこは街の外れにある小劇場、年代を感じさせる造りと意匠をこらした置物も今では錆び付き、黒ずみ、所々ひび割れている。
 長年人の手が入っていないことを語るその建物の入り口に立つのは銀色の短い髪を後ろへ流し、ダークブルーのスーツに身を包んだ美男子。
 その男を睨みつけるのは燃えるような金色の長髪を肩の辺りで切り揃えた魔術師風の優男――ベイルシアだ。
「何を言う、我等との関係を切らぬようにしているのは貴様自身だろう? 焔の忌み児」
「……クッ!!」
 図星だった、確かに彼はクローセルの名を捨ててはいなかった、否―捨てられなかった。
 一縷(いちる)の希望だったのだ、この名のまま強くなり……そして名を上げればあの家へ帰れるのではないだろうかと、捨てられた自分も認められるのではないかと。
 だがそれは希望ではなく願望だったのにベイルシアはこの瞬間気づいてしまう。
 男は右腕を胸の辺りまで上げると、ベイルシアを睨みつけながら言い放つ。

「今すぐ、その名を捨てろ。忌み児は忌み児らしく這い蹲り我等の足を舐めろ、生きることを乞え、明日の糧を今日の権利を乞いすがれ。それが貴様に許された唯一の行為だ」

 冷たく言い放ったのは拒絶、男は俯き震えるベイルシアを強く突き放し絶望へと追いやった。
 その言葉にベイルシアは顔を上げ、目の前の男を強く睨みつけながら悲しげに言った。
「嫌だ!! 僕は貴方達にこれ以上従いたくない!! たとえそれが兄さん、貴方でもだ!!」
 言うや否やベイルシアは全身に焔の鎧を纏い、目の前の男――自分の兄へと肉薄する。
 男は右腕に渦巻く水流を生み出すとそれをもってベイルシアを迎撃し、焔の鎧を打ち砕く。
「無駄だ、魔法も使えぬ貴様が我等クローセルの勇者に歯向かおうというのは余りにも愚劣」
「黙れ!! 黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇえ!! ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」
 再度ベイルシアは炎を纏い、両腕から無数の炎の槍を撃ち放つ。
 その怒涛の劫火に対して男は手の平より二周りほどの大きさしかない水鏡を作り出し、全ての炎の進行方向と到着時間を次々と恐るべき速度で予測していく。
 激しい激突音と水が蒸発する音、そしてベイルシアの叫び声が小劇場に響き続ける。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
「無駄、と言ったはずだ。貴様は何も炎に愛されたから捨てられたわけではない、歴代でも最悪だったからだ、貴様は例に見ないほど弱過ぎるのだ(・・・・・・)
「違う……違う!! 僕は……弱くなんかない!! 魔王だって倒したんだ!!」
 流れる汗をそのままに、息も荒くベイルシアは必死に否定した。
 認められるだろうか? 己の努力を、友人達が認めてくれた自分を全否定されるのを誰が認められるだろうか?
 だからベイルシアは必死に否定する、目の前の兄を――かつての家族を今の敵にして。
「お前なんて……お前なんて要らないんだよぉぉぉおおお!!」
 そう言ってベイルシアは太陽を髣髴とさせる巨大な炎の弾丸を作り出す。
 魔物も、何もかも襲い来るものを全て焼き払った紅蓮の弾丸。
 放たれた弾丸は螺旋を描き、男の胸元へと吸い込まれるようにぶつかった。

 だが。

「何度否定すれば理解する。無駄だ、魔王の討伐とて貴様が強かったのではなく立花の剣聖やイリアの断罪の弓(ジャッジメント)が、そして何よりあの聖剣(・・)がいたからだ。貴様はオマケに過ぎん」

 信じていた事実までも、己の虚栄だったと思い知らされズタズタにされていくベイルシア、目の前が霞み、足元が崩れていく感覚・・・絶望、今まで感じていたような生半可なものでは無い、真実が嘘で力が嘘で過去が嘘で今が嘘で自分すらも嘘。
 もはやベイルシアには立ち向かう力も術も気力も残ってはいなかった。
「……違う……僕は………………僕は」
「哀れな愚弟よ、せめて安らかに――――()ね」
 鋭い水流の槍が天井を貫いて滝のようにベイルシアへと降り注いだ。
 滝が消えるとそこには血だらけになった金髪の男が、その姿に男は死を確信し、踵を返した ――微かな落胆を見せながら。


「………………」
 暫くして、身体を震わせ苦しみを目に浮かべながら自分の血液と男の魔法で出来た池から這い上がるベイルシア。

 生きていた、その事実に何処か虚しさと喜びを感じる。

 空は暗闇に包まれ、ぶち抜かれた天窓からは月の光が差し込み、自分を照らしていた。
「…………っく……ぅぁ……」
 口を開いて真っ先に漏れたのは嗚咽、悲しいわけじゃないのに、苦しいわけでもないのに……、ではこれは何だ? 自問自答の声が頭の中に響く。

 ――――悔しい?
 気づいた、そしてまた聞いた。
 声だ。
 ――――強くなりたい?
 (くす)ぶる炎を髣髴(ほうふつ)とさせる声、それは幼い頃にきいた救世主(あくま)の声だ。
 ――――満たされないだろう?
 声は続き、ゆっくりと核心へと迫る。
 それが怖くて、怖すぎるから必死に頭を振りかき消そうと、打ち消そうとのた打ち回る。
 ――――愛してあげる。
「あ………………」
 ――――満たしてあげる、愛してあげる、愛しぬいてあげる、ずっと抱き締めていてあげる、私達の全てを捧げてあげる、全てを認めてあげる、私達の存在全てで貴方を求めてあげる。
 甘美な誘い、生まれてからずっと求め続けたものをくれるという誘いの声。
「やめろ……」
 だがそんな誘いも今は恐怖でしかない、幼い頃に自分がおこしてしまった惨禍を知っているから、今はもっと欲しい物が、欲しい人が出来てしまったから、この声に従えば戻れなくなる気がしたから。
 ――――愛しているよ、誰よりも愛している、だから見えるようにしてあげる、もっと私達を理解できるように。
「やめ――ぎゃぁ!? ぐあぁ……熱い……あづい……あづいぃぃ」
 突如燃え上がるように熱を持った身体、必死に身体の熱を冷まそうと血の池を這い回る、その姿は泥に身をゆだね沈む飢えた獣。
 だが熱が冷める気配は無く、むしろ燃え上がっていくように。
 目を開いて自分の状態を確認しようとするが、眩しすぎて――否、見え過ぎているような感覚に陥り始める。
 ――――うふふ、あはは、頑張って、愛してる、愛してる、愛しているから。
 笑う光、幾つもの群れの中の一つが(ささや)き、また一つが同じようなことを囁き続ける。
 無限にも思える微笑みと囁き。
「お……おえぇぇぇっっ」
 その光景に悪寒と共に胃の中のものが全てあふれ出た。
 酔ったような、まるで見え過ぎる光景に身体が拒絶しているかのように不快感が襲う。
 ――――ウフフ、アハハ、愛してる、愛してるから、だから私達を見て? 愛し返して?
「精霊……?」
 苦しみのたうつ自分の周りにいるものがハッキリし始めた頃、その正体に気づいた。
 それは精霊、神の次に生まれた種族であり、人や亜人が魔術や魔法を使う上で頼らざる得ない親しき隣人にして力の源泉、その姿を見ることは全ての種族の中でも一握りの愛された者だけとされ、見た者はその力に目を潰されるとも言う。
 ベイルシアは、自分の周囲に舞う千や万という言葉では語りつくせないほどの精霊達に圧倒され、その光景に魅入られ次第に自分の意識がまた沈むのを感じた。





 精霊達は時として人に無償の愛を捧げるという、とある地方では愛し子と呼ばれ、とある国では麗人(れいうど)と呼ばれ、とある一族では忌み児と呼ばれる彼ら。
 彼らの辿る道は二つある。

 一つは愛されすぎたことにより発狂し、狂い死ぬか狂人となり悪魔のような所業を繰り返す負の道。

 一つは愛し返すことで英雄達に名を連ねることになる正の道。


 ベイルシアの歩む道を知るものは神無きこの世界には誰一人としていない。


またシリアスです・・。
アハハハハハ、ごっめーん!
コメディ期待してた人マジごっめーん!

これからは四人全員に戦う理由付けをしなければいけないので、もう少しシリアスムードが続きます。
次回はサーシャです、多分。






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