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エルフの疎開

  緑人

「はぁ、はぁ、はぁ」

 村人たちは、息を切らして東へ向かう。ロウリア侵略軍から逃れるため。

 ギムの東へ約20km、ある名も無き小さなエルフの村、外界からの交流は少なく、ギムの大虐殺の報が来るのが遅れた。

村人全員が疎開を開始したが、付近にクワトイネ軍はすでに無く、ロウリアの勢力圏での生死をかけた疎開活動になった。

 現在の位置、村から東へ10km


 長の短い緑の草原が広がる大地、小鳥は歌い、野生の牛は草原で美味しそうに草を食べている。

どこまでも長閑な光景。

進みやすいが、遮蔽物が少なく、見つかりやすいため、風景とは裏腹に、本人達にとっては、生死を賭けた行進、その数200名。


 少年は、妹の手を引いて東へ向かっていた。

 少年の母は、病気で早期に他界し、父と3人暮らしだったが、ロウリア侵攻の可能性があったため、父は、予備役招集の軍務に着いた。

 「パルンよ、アーシャを頼んだぞ。お兄ちゃんなんだからな」

 父は笑って、全てを少年に託して家を出て行った。


 疎開集団の速度はなかなか速くならない。

 若者が、集団の後方警戒をしている。

軍の召集で残された数少ない若者たち、10名

 

 あと25km、あと25km東へ進めば、クワトイネ公国の前線基地がある。

 

 突如として、集団の後方で、叫び声が聞こえた。


「ロウリアの騎馬隊だ!!!」


 少年が振り返ると、ロウリアの騎兵隊100人が、約3km後方から、こちらに向かってくる。

 亜人の殲滅をとなえるロウリア王国、その軍隊が向かってくる。

 村人たちは、悲鳴をあげ、東へ走る。しかし、騎兵の足には遥かに及ばす、軍はどんどん近づく。



 ロウリアのホーク騎士団所属、第15騎馬隊隊長、赤目のジョーヴは、目の前の獲物に舌なめずりをした。

 

「獲物・・・発見」


 200名くらいの、女、子供が草原を東へ歩いて向かっていた。3kmくらいはなれているが、遮蔽物が無く、余裕で見通せる。

 ギムではいい思いをした。嬲って良い、好きにしろという上からの命令は最高だった。

 ギムにいた猫耳の亜人を思い出す。

 親が必死に殺さないでくれと、懇願していたが、殺し、その娘を死体の前で散々犯し、いらなくなったら殺した。

 猫耳の亜人は、わめき散らかして泣いていたが、その悲鳴がたまらなかった。

 赤目のジョーヴは獲物を見てどす黒い感情が駆け巡る。

 ロウリア王国東部諸侯団所属の中でも精鋭と言われ、一騎当千を謳われるホーク騎士団、

その中の第15騎馬隊は荒くれ者の集まりと言われている。

 山賊、海賊がロウリア王国拡大期に活躍し、爵位を賜り、貴族となった者達。

隊長、赤目のジョーヴは、その中でも特に残虐な性格だった。彼は気に入らないと、戦場において部下を殺し、戦死扱いする。


「さてと・・・狩るか」


「おい!あの亜人どもを、皆殺しにするぞ!!獲物だ!突撃!!」


「ひゃっはーーー」


第15騎馬隊は奇声を発し、エルフの集団に向かって走り出した。



 少年、パルンは、妹アーシャの手を引いて走った。


「大丈夫、お兄ちゃんが必ず守ってやるからな!心配するなよ!」


「うん」


必死で走る。こわい!こわい!!


自分たちを本気で殺しにくる悪魔の集団。僕たちが何か悪いことをしたのか?神様は助けてくれないのか?

なんとかしなきゃ!なんとか・・・。せめて、アーシャだけでも守らなきゃ。


パルンは思い出していた。お母さんの暖かさ、包み込まれるような愛、そういえば、お母さんはこんなことを聞かせてくれた事があった。


その昔、国という概念が存在しないほどの遠い昔、エルフ族が魔族と戦っていた時代、魔族はエルフの神が住む神森の殲滅に乗り出した。

多くのエルフが殺され、歴戦の戦士たちが散った。

エルフの神(緑の神)は、自分たちの創造主であり、最高神である太陽神に祈った。

 太陽神は、エルフの神(緑の神)に対し、使者この世に降臨させる。

 太陽の使い達は、空を飛ぶ神の船や、鋼鉄の地竜を使い、雷鳴のような轟きと共に大地を焼く強大な魔導をもって、魔族を焼き払った。

 主力軍を焼き払われた魔族は、神森より撤退した。

 エルフ達は、助けてもらったお礼に、金銀財宝を、太陽の使いに渡そうとしたが、決して受け取らずに、神の船に乗って去っていった。

 エルフ族は救われ、この世界に広がっていった。

 数多くあった神の船、そのうちの一つは故障し、この地に残された。

その神の船は、時空遅延式保管魔法をかけられ、クワ・トイネ公国内の聖地リーン・ノウの森の祠の中に大切に保管されているという。


 お母さんは、本当にあった話だと言った。


 パルンは、走りながら祈る。


 神様、神様!太陽の神様!!本当にいるのなら、今助けてください。

 僕は生贄になっても良い。どうか、・・・妹を助けたいのです。


 神様、僕たちを殺そうとしているロウリア軍の魔の手から、僕たちを救い出して下さい。


・・・・何も起きない。


 ロウリア兵が迫る。


 声も聞こえるようになってきた。

 

 まだ、見渡す限り草原であり、絶対に間に合わない。


 戦って勝つか、虐殺されるか・・・。しかし、武器は対獣用の弓くらいのもので、あとは農機具のみ。


 村人の中には、諦めてへたり込む者たちも出てきた。


 距離は500mを切る。


 誰もが諦めた。


 パルンは天を向いて叫ぶ。


「カミサマァァァァァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあお願い。助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」


 少年の上空を光が通り過ぎた。



 蛮族たちとの距離は500mを切った。

 彼らの顔は恐怖に引きつり、必死に逃げている。

 剣を抜く、これより殺戮の宴が始まる。ギムの再来、良い女も混じって逃げている。今から始まる悲劇の未来を想像し、赤目のジョーヴの顔がにやける。


「突撃ぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!」


 うおぉぉぉぉぉぉ


騎士団は歓声をあげ、馬の走る影響で大量の土埃を撒き散らし、駆け寄っていった。


「隊長!何か光が空から向かってきます!!!」


 不意に隊で一番目の良い部下が、空を指差し、叫ぶ。


 ジョーヴは空を見上げた。


「な・・・・なんだ!?ありゃ?」


 光の槍がまっすぐこちらに向かって飛んでくる。本能的に危険を察知する。


速い!


「よけろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


 ロウリア王国クワトイネ征伐軍先遣隊東部諸侯団所属、ホーク騎士団第15騎馬隊に、避ける間もなく、光の槍が突き刺さった。



パルンは夢を見ているようだった。


神様にお願いした時、彼の上空を光の槍が飛んでいった。


光が弾ける


!!!???


直後に耳を劈く轟音


!!!!!


大地が噴火したかのような煙に包まれ、ロウリア軍を包み込む。


さらに、光の槍は降ってくる。


 閃光が走り、雷鳴が轟く。


 轟音――


 さらに、光が降り注ぎ、大地が焼き尽くされた。


「ろ・・・ロウリア兵の80%近くが消滅した!!!!!!!!!」


 誰かが叫ぶ。


 ロウリア兵は、恐れ慄き、撤退を開始する。


 今度は、光の雨がロウリアを襲う。


 光の雨が敵兵に当たると、馬もろともバラバラに吹き飛ぶ。


 エルフを襲おうとしていたロウリア兵は全滅した。


 やがて、東の空に、空を飛ぶ船が多数。


 バタバタバタバタ


 恐怖をそそる音を響かせ、大地を焼いた強大な魔導を放ったそれは、村人の上空を通り過ぎる。


パルンはそれを見上げる。


 様々な形を持った特殊な箱舟、目を奪われる。


「!!!太陽!!!太陽のシンボルが書いてある!!太陽の使いが本当に着てくれたんだ!!」


 やがて、村人の前に多数、空の船―――(前と後ろ両方ぐるぐる回る物体が付いている船)が舞い降りる。


 中から、緑の服を着た異形の者たちが降り立つ。


恐怖―――


「お怪我のある方はおられませんか?」


 拡声器を使っているため、エルフにとっては人間とは思えないほどの声で、1人の指揮官らしき人物が声を張り上げる。


 村人たちは、恐怖で何もいえない。

 恐怖のロウリアの騎馬隊を一瞬で消滅させるほどの強大な魔導を持った者たち。

 怪我をした役にたたない労働力は、強大な魔導を放つ魔獣の生贄にでもされるのであろうか?

 

 パルンが進み出る。


「助けてくれてありがとう。おじちゃん達は、太陽の使いですか?」


「(?太陽の使い?まあ日本は太陽が国旗だし、日本の組織かを聞いているのかな?まあ子供の言う事だし)うん、まあそうだけど」


 どよどよどよ


 場がどよめく。


 突如、村人たちが、大地にひれ伏す。


 救助に来た自衛隊員は、村人全員にひれ伏され、説明にさらに時間を要することになる。



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― 新着の感想 ―
もしかして、その昔この世界に現れたのは懐かしの戦国自衛隊では!? あの時より、かな~りパワーアップしてるから凄いことになりそう。
[良い点] 何度読み返しても、爽やかな感動が蘇る [一言] コミカライズしてないけれど、この噺が一番好きだ
[一言] エルフに被害がなくてよかった...
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