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閑話 忘れられた世界7

ブログ掲載分は、話が長いので分割します。

「よし!撤退します!!」


 谷出口における戦闘のために準備した弾薬は、ほとんどが底をついた。

 岡は、城門内に撤退する事を決意する。

 初撃としては、2人でなかなかの戦果をあげた。


 岡は、塹壕付近に準備していたオートバイ、XLR250Rに乗車し、ザビルを後席に乗せる。

(壊れていなかったのは奇跡だな……)

 後席のザビルに振り落とされないように指示を出す。

 エンジンの回転数を4000rpm程度に上げ、ゆっくりとクラッチをつなぐ。オートバイはスムーズに発進した。


「おい!!あれを見ろ!!」


 銃士ザビルが指さす方向、馬のような顔をしているが、口元が耳まで裂けた化け物が、岡達に迫る。

 速度を上げるが、化け物も同程度の速度が出ており、距離が離れない。


「このままでは、城門までついて来るぞ。振り切れないようだな……ちょっとまて。」


 銃士ザビルは89式自動小銃を後席から左斜め後方に向けて構える。

 軽快な乾いた音と共に銃弾は射出され、追ってきた魔物を貫通した。

 魔物はその場で倒れてのたうち回る。


「走行間射撃で当てるとは……天才ですね。」


「まあな。謙遜はしない。」


 岡と銃士ザビルは、一時城門内に撤退を行った。




 城門を潜ると、兵たちの大きな拍手が待っていた。


「凄いですよ!!岡さん!!!」


「凄まじい戦果です。さすが天才ザビル様!!」


 たったの2人で相当数の敵を滅し、彼らがいればどんな相手でも勝てそうな気がする。兵たちの志気は戦闘を見て急上昇する。


「まだまだ敵は数が多いです。この程度の戦果で安心してはいけません。現時点では1歩間違えば我々は蹂躙されてしまいます。」


 岡は兵たちに説明するが、兵たちは岡とザビルの戦いを見ていると、どう考えても勝つような気がしてくる。


『谷出口に敵が集結を開始しています。撃ちますか?』


 城壁の上に配置している銃士から無線で指揮伺いが来る。

 谷の一部崩落により、谷の出口は高さ15mまで塞がっていたが、魔物にとってはタダの遮蔽物が出来ただけであり、その出口から続々とザコが出てきていた。

 弾の無駄は避けたい。


『ある程度集結してからまとめて掃射を行う。敵の魔獣ゴルアウスが来た場合は、決して攻撃せず、すぐに報告を頼む。』


『了解。』


 岡は、命の危機を一時的に脱し、脱力すると共にどっと疲れに襲われる。

 彼と銃士ザビルは、小休止し、食事を行うのだった。


◆◆◆


 城壁上~


 続々と魔物が谷の出口に集結し続ける。

 すでに漆黒の騎士もオークキングも勢ぞろいしており、本来ならば絶望に打ちひしがれるところであるが、銃士の一人であるアビシは自信に満ち溢れていた。自分達は、先ほど大量の魔物を滅した岡と同じ装備を有している。

 負ける訳が無いと……。


 やがて、敵のボスと思われる知将バハーラと、魔獣ゴルアウスが姿を現した。


「つっ!!!!」


 銃士たちに緊張が走る。


「すぐに岡殿に報告します。」


 アビシの弟分である銃士が、岡に言われたとおり、報告しようと無線機をとる。


「まてっ!!」


 アビシはその者を止めた。彼は続ける。


「解らんのか?岡が勝ったのは、兵器の性能差、そして我々はいまそれと同等の兵器を有している。これほどの威力があり、そして敵将と魔獣ゴルアウスが今我らの銃弾の届くところにいる。この引き金を引くだけで、救国の英雄の誉が、我らが物となる。よそ者である奴にこの誉を渡す必要はない!!!」


「し……しかし、これは国家存亡をかけた作戦です。もしもその兵器が通用しなかった場合、とんでもない事になります!!!」


「うるさい!!お前も見ただろう。この兵器は凄まじい威力がある。生物で当たって耐えれる者などいない!!!」


 銃士アビシは、勝手に5.56mm機関銃ミニミを敵将に向かって構えた。


「俺の……勝ちだ!!穴だらけになりやがれ!!!!」


 彼は、機関銃の引き金を引く。

 軽快な音と共に、曳光弾を交えて5.56mm機銃弾が射出される。連続した光弾は、敵将に向かって飛翔していった。



 魔獣ゴルアウスは気付いた。少し高い所から撃ち下される光弾が、自分に向けて飛んできている事に。彼は飛べないが、退化した翼を広げ、乗っている主人を守る。一時して、翼と体に多少の痛みが走った。


(小賢しい下種が!!)


 銃弾はゴルアウスの分厚い鋼の体毛と強靭な翼にはじき返される。鉄の嵐が止み、ゴルアウスは自分を攻撃してきた者達に、引導を渡すことを決意する。

 口を開け、魔力を集中させる。口からは光の粒子が口腔内に吸い込まれているようにも見える。次の瞬間、金色に輝く光の光弾は、攻撃のあった方向に向かって発射された。


「え?」


 城壁の上にまばゆい閃光が走る。

 直後、爆音がこだまする。


 ズガァァァァン……。


 銃士アビシは強い光と共にこの世を去った。

猛烈な爆発音が聞こえ、食事を終えようとしいた岡と銃士ザビルは慌てて外に出る。


「なっ!!!城壁が!!!」


 城壁の一部に猛烈な土煙が上がり、同場所は崩れ落ちている。あの場所は確か……。仲間の銃士がいた場所!!!

 岡は、逝ったであろう銃士たちの冥福を祈ると共に、十字砲火が出来なくなった現状に焦る。


「魔軍が侵攻してきたぞーーッ!!!」


 城壁上の王国兵が大声で叫ぶ。


「崩れた城壁から魔軍が来るぞ!!全員城壁入口に向かい、隊列を組め!!!」


 エスペラント王国の防衛騎士団も、同城壁に向かい、体制を立て直す。


『魔軍が群れをなしてこちらに向かっている。撃っていいな!!』


 生き残った城壁の上の銃士から岡に指揮伺いが来る。

 現時点では岡はゴルアウスがいるという事は把握しておらず、城壁が崩れ落ちた原因も理解できなかったが、魔軍の群れが来たら終わりである。射撃を許可する。


『許可します。』


 城壁の上から、5.56mm機銃、12.7mm機銃、そして40mm自動てき弾が連続して発射された。光弾が撃ち下され、魔物がのたうち回る。そしてエスペラント王国の兵たちも、弓を雨のように撃ち込み始める。


「岡殿、あの城壁を崩したのは一体何だ?」


「解りません。とりあえず私も城壁に登り、外を見てみま……。」


 ズガァァァァン!!


 再び猛烈な爆発音があがり、城壁が崩れ落ちる。先ほど射撃を開始した箇所からもうもうと煙が吹き上がり、射撃が沈黙する。


「くそっ!!やられた!!!」


 あっさりとした死、昨日あれだけ語り合った仲間が、おそらく今の爆発で死亡した。岡の頭に怒りがこみ上げる。


「ゴルアウスだ!!ゴルアウスがいるぞぉ!!!」


 城壁上からエスペラント王国弓兵が叫ぶ。神話の時代に使われていた、戦車クラスの陸戦兵器が今の猛烈な爆発の発射元……岡はすぐに現状把握のため、城壁を駆け上がる。息を切らし、城壁に登り、谷の出口付近に陣取る化け物と、そこに乗る将のような人間を確認する、おそらくあれが魔獣ゴルアウスだろう。

 そして、手下と思われる魔物達が黒いうねりとなって、城壁に向かってきている。


「くそっ!!」


 仮に01式軽対戦車誘導弾を持ってきた場合、射程距離内ではあるが攻撃出来ない。遮蔽物、大きな岩に敵が近すぎて、このまま撃てば岩を粉砕するに留まってしまう。

 彼が城壁から降りて来た時、今度は丈夫だった城門が砕け散る。


「ザビルさん!!対戦車誘導弾が必要です。先ほどの攻撃で一時保管場所は崩れ落ちています。予備庫へ行き、対ゴルアウスの兵器を取に行きます!!」


「了解した……行ってこい。」


「ザビルさんは?」


「俺は……この89式自動小銃で奴らを食い止める。俺が1人ここに残るだけで兵の志気は維持されるだろう。そして、味方の死者数も激減させてやる。いいから早くいけ!!!」


「わ……解りました。ご武運を!!」


 岡は、オートバイで予備庫に向けて爆走していった。


「……俺は死ぬかもしれない……岡よ、エスペラント王国を頼む。」


 銃士ザビルは、崩れた城壁から侵入しようとしている魔軍に対し、射撃を開始するのだった。


◆◆◆


 戦場に怒号がこだまする。先ほどの優勢がまるで嘘のように、2カ所の城壁が崩れ落ち、1カ所の城門が吹き飛んでいる。

 城壁の上からは、矢が雨のように降り注ぎ、時折連続した射撃音が戦場にこだまする。すでに魔軍の一部は城壁内に侵入しつつあった。

 

 エスペラント王国の正騎士ジャスティードは、少し離れた所から戦場全体を監視していた。


「ん?あれは……。」


城門から雪崩のように入って来る魔軍がいる。そのうちの1つの群れ、オークキングとゴブリンで構成された部隊が、民間人として軍に協力している者達の避難場所、戦時避難棟に進軍しているのを認めた。

本来ならばそこに配置し、守る部隊がいるはずであったが、急な侵攻が原因で、持ち場を離れて不在……。


「すまん!ここをお前に任せた!!」


「お…おい!どこへ行く!勝手に持ち場を離れるな!!!」


 彼は単騎で戦時避難棟へ駆け出す。

 ゴブリンとオークキングからなる混成された群れは、戦時避難棟を襲い始めているようにも見えた。


(間に合え!!間に合え!!!)


 正騎士ジャスティードは馬で全力疾走を行うのだった。




「ぐあぁぁぁぁつっ!!」


 女たちの避難誘導を行っていた騎士が、オークキングの錆びた剣により、叩き潰される。


「いやあああああああ!!!」


 避難中の女性が悲鳴をあげ、走り始める。


 サフィーネ達は、絶望の淵にあった。

 戦いに出向いた岡達、しかし城壁が崩れ、城門も破壊されている。おそらく作戦は失敗し、岡達は蹂躙されて突破されたのだろう。

 オークキングたちがこの区画を襲い始めた時、避難誘導に従って逃げ始めたが、目の前の騎士がオークキングにいきなり殺されてしまった。恐怖のあまり、他の女たちと共にはチリジリになって逃げたが、目の前を走っていた女がゴブリンにこん棒で殴られ、気を取られていると目の前に魔物の群れが現れた。

 殴られた女はぐったりとしている。

 オークキングはよだれを垂らしてサフィーネを見る。


(確かオークキングの生態は……。)


 考えたくもない。思い出したくもない!!サフィーネは、手で両肩を抑え、迫りくる恐怖に身震いする。


「女だ……おんなぁ……。」


 オークキングもゴブリンも、よだれを垂らして自分を見る。


「いやぁぁぁ!!!」


 身の毛もよだつ気持ち悪さにサフィーネは耐え切れなくなり、悲鳴を上げて逃げ出す。

 すかさずゴブリンがこん棒を彼女に振り下ろす。鈍い音がして左手に激痛が走り、彼女は地面を転がる。


(か……囲まれた!!!)


 終わった……絶望。


(恥辱を受けるくらいならば!)


彼女は自ら命を絶とうと決意する。


「残念ね、私はあなた方にあげるほど安くないの。」


 短剣で、自分の喉を刺そうとしたその時。


「ぴびゃぁぁっ!!!」


 彼女を殴り、いまにも飛びかかりそうだったゴブリンが悲鳴を上げる。

よく見ると魔物の肩には弓が突き刺さっている。


「彼女から離れろぉぉぉぉ!!汚物どもめぇぇぇ!!!!!!」


 剣を抜いた騎士が馬に乗り、飛び込んで来た。彼は力任せにゴブリンを斬る。

 切られたゴブリンは、血飛沫をあげながらのたうち回る。

 魔物たちは、騎士に対して敵意をむき出しにした。


「じゃ……ジャスティードさん?」


「サフィーネ!!今すぐに逃げろ!!逃げるんだ!!!」


 ゴブリンだけであれば、なんとかなるだろう。しかし、敵はオークキングが含まれている。戦力比を考えても、騎士1人でなんとかなる戦力ではなかった。

 戦力比がある事は、サフィーネでさえも解る事だった。


「で……でも……。」


 ジャスティードにゴブリン数体が同時に切りかかり、数発を鎧に受けながらも彼はゴブリン2体を切り捨てた。


「はぁ、はぁ、はぁ、な……何をしている!!!早く!!早くこの場から立ち去れ!!ここは俺が食い止める!!!」


 サフィーネは動かない。


「うおぉぉぉぉぉ!!!」


 ジャスティードはオークキングに切りかかる。剣激をかるくいなされ、錆びた大剣が鎧を叩きつける。


「ぐはっ!!!」


 内臓が出そうな衝撃を受け、彼は地面を転がる。


「な……何をやっている!!さっさと逃げるんだ!!!俺のために逃げてくれ!!俺は……俺は……お前の事が好きなんだよっ!!惚れた女1人守れなくて、何が正騎士だ!!!」


 オークキングの大剣が再び彼を襲う。金属と金属のぶつかる激しい音が鳴り、ジャスティードは数m飛ばされる。


「グッ……う……オークキングは強い!!何をしている!早く逃げろ!俺の命を無駄にするなぁ!!!行けぇ!!さっさと行くんだぁ!!!!!」


 ジャスティードは大声で、サフィーネに促す。


「ありがとう、死なないで!!」


 サフィーネは走り出す。涙を流し、自分を助けるために命を投げ出したジャスティードの姿を目に焼き付け、振り返らずに走った。


「うっううぅぅぅぅぅ!!」


 鼻水を流し、涙も流し、嗚咽しながら彼女は走る。

みっともない姿、でも……自分のために命をかける男がいるなんて……。

感情があふれ出す。

サフィーネは、振り返る事なく、人の死を無駄にせぬために全力で走る。



「フ……行ったか……。」


 ジャスティードはオークキングを見る。


「おお、随分と怒っているようだな…すまんな、サフィーネは、お前にくれてやるには、高すぎるんだよ。」


 彼は続ける。


「我は正騎士ジャスティード!王国の盾たらんとする者……いや、惚れた女の盾たらんとする者なり!!」


「ぴきゃぁぁぁぁぁ!!!」


 オークキングは、目の前の女を逃がしてしまったため、怒り狂い、大剣を振り上げてジャスティードに切りかかる。

 怒りがオークの腕を狂わせた。


「今!!」


 彼はわずかに出来たオークの隙をついて、頭の上に剣を振り下ろす。

 頭上に振り下ろされた剣を避けるため、オークはわずかに頭を左に逸らした。


 ズシャッ!!


 鈍い音と共に、ジャスティードの剣がオークの首にめり込む。


「しゅギャァァァぁ!!!」


 オークは痛みのあまり、大剣を横ぶりにし、ジャスティードを薙ぎ払った。


「ぐぁぁぁぁ!!」


 左足に激痛が走る。彼は地面を転がり、恐る恐る自分の足を見た。


左足が……つぶされた。出血も多く、おそらく自分は助からないだろう。しかし……。

 彼はオークキングを見る。首を深く斬られ、出血が多く、ゆっくりと倒れている。


「惚れた女は……守った。」


 彼はサフィーネを守ったという満足感の元、出血多量で意識を手放した。





3月17日に、日本国召喚一 導かれし太陽が発売されます。

相当な加筆と、文章の修正が行われています。(新しいエピソード等もあります)

今度は延期はありませんので、この場で宣伝させていただきます。

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