閑話 忘れられた世界3
2月17日日本国召喚~導かれし太陽~が発売されます。
大幅加筆してお届けします。
一瞬で部下を多数失い、自分は無様に土にまみれる。
敵は自分を完全に無視し、守るべき王宮から派遣された者たちへ向かう。王宮魔術師が敵に魔法を放つが、それさえも大剣で薙ぎ払う。
もうだめだ……。
「ん!?」
ジャスティードは、空から落ちて来たとされる緑のまだら模様の服を着た蛮族が黒い杖を敵に向けるのを確認する。
「剣で防げぬのだ……鉄製かもしれないが、今更杖を敵に向けてどうする。」
彼はつぶやく。
しかし、考えてみれば奴にとっては今、手に鉄を持っているならば、恐怖を克服するため、手持ちの武器で戦おうとするだろう。
仕方のない事、哀れな蛮族の最後……。
次の瞬間、蛮族の持っていた杖が煙を発し、中から神速の光弾が連続して発射された。
神速の光弾は、漆黒の騎士の鎧を砕き、肉を裂いて体を貫通する。
タタタタタ……。
耳を覆いたくなるような大きく、そして乾いた音が連続して起こり、敵の体に多数の大きな穴が開く。
「グガァァァァ!!!」
とても信じられない光景が、彼の目に飛び込んでくる。
決して抗する事の出来なかった圧倒的な力が、彼の前で断末魔を上げて崩れ落ちる。
地面に青い血が吸収され、付近の大地を青く染める。
やがて、敵の体は動かなくなった。
◆◆◆
皆が唖然とし、一瞬の静粛が訪れる。
「………。」
「……なんて事だ……。」
「信じられない!!」
決して抗する事が出来ず、数々の戦場で彼らを悩ませて来た強力な魔物があまりにもあっさりと崩れ落ちた。
命が助かった安堵の気持ちと、それほどの魔物を一瞬で倒した異国の兵に対する恐怖……何とも言えない感情が入り混じる。
本件侵攻で、一番強い者が倒れたため、魔物はオークキングを含めて悲鳴を上げて退散を始めた。
「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!」
命をかけて戦っていた王国兵が勝利の歓声をあげる。
「……おい……。」
騎士ジャスティードが岡の前に立つ。その目には……恐怖が宿る。
「今のは……何だ?どんな魔法を使いやがった?」
「……お答えしかねます。」
険悪な雰囲気。
「いやいやいやいや……凄いね!君!」
王宮科学庁の学者、セイが空気を読まずに会話に割り込む。
「君が倒した魔物は1匹だ。しかしこの1匹は非常に困難を伴う1匹、君は王国の未来の希望となるかもしれない。王に会ってくれ!」
岡は、あまりの話の展開に驚く。
「え!?いや、しかし私は日本国の1自衛隊員に過ぎません。それが、1国の王に会うのは、どうかと思うのですが。」
「いや、良いんだよ。とにかく王国の頭脳と言われるこの私は、君がいなかったら死んでいた。王がそれに対し、礼を言うのは当たりまえの事だ。」
「いや、しかしこの服しか今私は持っていない。」
「良いんだよ!その服で!!文化の違いをエキサイティングに感じる事が出来るではないか!!
心配するな。王宮ではその格好を嫌がる貴族もいるだろうが、私がずっと君のそばについて案内するから大丈夫だ。」
セイと名乗る学者は、岡に王宮に来るように頼みこむ。
「私は、日本国の陸上自衛隊という組織の人間です。上司に確認の出来ないこの状況で、勝手に国家の長に会うというのは……。」
「良いから良いから!!」
岡は、学者セイに押し切られ、エスペラント王国の中心部、王宮へ向かう事となった。
◆◆◆
エスペラント王国 北側休火山バグラ 火口付近
魔力が集中するバグラ休火山、その火口に優雅さの欠片もない土で出来た家々が立ち並ぶ。
その街には、明らかに人に災いをもたらす者、魔物と呼ばれる生物が行きかう。
人間がそれを見たならば言うだろう。
「なんと野蛮な街か……しかし魔物が街をつくるなどあり得ぬ事だ。」
と……。
その街の中心部にひと際大きな家が建つ。
中には真紅の鎧に身を包み、一見人間のように見える男が一人。
「ダクシルド様、お食事の用意が出来ました。」
角を3本持つ人型の鬼が、真紅の鎧を着た男に頭を下げる。
ダクシルドと呼ばれた男は、美形の顔を持ち、人間に似ているが、背中に真っ白な羽と、漆黒の羽根を生やしている。
「バハーラか……あの下等生物たちが住まう国、エスペラント王国の中心部を攻略する手立ては整ったか?」
彼は声をかけて来た鬼……バハーラに話しかける。
「はい、今回の戦力であれば、王国そのものを落とす事が出来るでしょう。
バハーラは、自信を持って答えた。
「何故その場が必要か……理解はしているな?」
「はい、我が魔族、そしてダクシルド様ら有翼人の悲願、古の魔法帝国……ラヴァーナル帝国復活のためでございます。」
「そうだ。魔帝国家復活のための時空間座標特定のためのビーコン……世界に数あるビーコンのうち、1つがエスペラント王国の中心部に埋まっている。放っておいても作動はするだろうが、バカな下等種どもが手にして、万が一の事があってはならない。」
「ハハッ!!」
バハーラと呼ばれた鬼は、有翼人であるダクシルドにひれ伏す。
(しかし、まだ我が魔族制御装置は、完璧では無いな……我が祖先たちの国……古の魔法帝国のロストテクノロジーをもっともっと学ばねば……。)
アニュンリール皇国 魔帝復活対策庁 復活支援課 支援係のダクシルドは、魔族制御装置の実験も兼ね、グラメウス大陸に向かった。彼の目的は、ロストテクノロジーの解析で作り出した魔族制御装置の効果測定と、少ない予算で削り出した、魔帝復活ビーコンの適正管理であった。
魔帝復活は、惑星の位置座標、時間座標そして空間座標を時が来ればビーコンが信号を発する。
放っておいてもビーコンは信号を出す事にはなっており、万全を期す必要があるとの判断から彼は派遣されたが、ビーコンは、万が一数個が作動しなかったとしても、僅かな量と、人口衛星である「僕の星」さえすべて無事ならば魔帝は復活する。
アニュンリール皇国内にあるビーコンですべて賄える状態であり、僕の星が被害を受ける事はあり得ない。
彼は、魔族制御装置の実験のため、この一帯を支配していた魔王の側近マラストラスへ接触を図る。
マラストラスに関しては、制御出来たのか出来なかったのかはっきりとしない。ただ、私が封印を解く事が出来ると聞き、利用した可能性も考えられる。
ダクシルドは、魔王ノスグーラとの会談を思い出し、嫌な気分になる。
名もなき霊峰において、彼は魔王の封印を解く。
付近に煙と黒い光が巻き起こり、魔王ノスグーラは復活した。
『復活したか……魔王ノスグーラよ。』
ダクシルドは魔族制御装置を起動し、ノスグーラに話しかける。
『……忌々しい勇者どもめ、我をこんなつまらん物に封印しよって……ん?お前は誰だ?』
『我が名はダクシルド、魔王ノスグーラよ、貴様は我が復活させた。我はお前の創造神、古の魔法帝国…光翼人の末裔ぞ。我に忠誠を誓え。』
魔王は、面を食らう。
『フフフ……クククハーッハッハッハ!!去れ!!』
『何だと?』
『貴様が魔帝様……光翼人種様の末裔だと?フン!その程度の魔力で、笑わせおるわ!!確かに、通常の種族よりは高い魔力を有しているようだが、魔帝様の種族に比べれば、足元にも及ばん。
翼も、実体化するほどに魔力が落ちているではないか。光翼人で翼が実体化するのは、死に際の老人だけだ。
教えてやろう。光翼人様の翼は、光で出来ているのだよ。一見人間に似ているが、魔法を使う時、溢れる魔力の奔流が光となって翼のように見える。故に光翼人と呼ばれるのだ。
実体化はその魔力が弱体化しすぎた証拠なのだよ。
血が薄くなりすぎたな。
魔帝様が復活なされたら言うだろう。
貴様たちのような、魔力が薄くなりすぎた者達は、その辺の下種と代わりわないと……。さあ、我を復活させ、そして光翼人様の血が1パーセントでも混じっているようだから、貴様の働いた無礼は許してやろう。我の気が変わらぬうちに、ここを立ち去るがよい。』
当時、遺伝子及び魂の操作システムで魔帝への忠誠と、魔力をとことん強化した生物兵器である魔王に、魔族制御装置以外に特に有効な武器を持っていなかったダクシルドは、プライドを傷つけられながらその場を立ち去った。
古の魔法帝国は、出来損ないを残して転移したと、彼は考える。
たかが生物兵器にプライドを傷つけられ、彼は怒りが湧き上がった。
しかも、魔王ノスグーラが同地域を支配した事により、魔王の側近マラストラスのみであれば倒して計画を実行する事も出来たが、魔王に抗する手段が無く、魔帝復活のためのエスペラント王国攻略も一時的に頓挫した。
後刻、魔王はトーパ王国攻略に失敗し、日本国とトーパ王国連合軍に殺されたらしい。低文明国家に殺されるとは、魔王も何らかの欠陥を抱えた兵器だったのだろう。
魔王亡き後、ダクシルドは魔力制御装置により、下級魔族を集め、この魔力溢れる地に簡易的な街をつくる。
魔族が集まると、食料が不足するため、時々エスペラント王国を攻め、食料(人間)を確保した。
そしてアニュンリール皇国の技術の推移を結集して作った傑作、知能を特化させた鬼バハーラ、そして鬼族を捕まえ、品種改良と忠誠心を植え付けた漆黒の騎士、彼らほどの強さを持つもの達がいれば、各種族の寄せ集めの国、エスペラント王国など、一たまりも無いだろう。
アニュンリール皇国の有翼人ダクシルドは、経過を楽観視するのであった。
◆◆◆
エスペラント王国 中心部
岡は馬車に揺られていた。学者セイに強く押され、王宮へ向かう事が決定してから即日、王宮へ向け、出発する。
幾重にも重なる城壁を抜け、城壁と天然の要塞が織りなす中心部、王都区画に入った。馬車には、まだ体が全回復していないので、医者であるバルサス、そして助手としてサーシャが同伴し、護衛としてジャスティードが馬で付く。
当初、ジャスティードは岡が王宮へ行くことに反対意見を示していたが、王国の頭脳と言われた男の言葉には逆らえず、今回のような編成で王宮へ向かう。
街は、カルズ地区とは異なり、建物や行きかう人々には優雅さがあり、さすが国の中心部、王都とも呼べる地区であると岡は感心する。
「ほうほう……では、君たちはあの空を飛ぶ機械を自分たちで作り上げ、しかも魔力を使用しておらず、さらに軍用に応用しているという事だね?」
先ほどから学者セイの岡に対する質問が絶えない。
岡は、うんざりしながら、彼の問に教えられる範囲内で答える。
セイは、目を輝かせながら、まるで子供のように聞いてくる。しかし、日本国が地球から転移してきた部分の話になると……。
「そんな訳ないでしょう。それは古の魔法帝国や神でもない限り、不可能ですし、ありえない事だ。」
と、転移部分は全否定される。
馬車は、彼らを乗せ、王宮前の最後の門を抜け、王宮内へ至る。
やがて各種色のある花々が咲き乱れ、きれいな池のある場所に、馬車は到着した。
「さあ、降りてくれ!!」
セイが満面の笑みで岡に降車するように即す。
岡が降りようとした時、馬車の外の異様な視線に気づく。
「まあ……あれが、漆黒の騎士を倒したと言われる異国の兵か……。」
「なんという緑系統のまだら模様とは……なんという野蛮な格好!!優雅さの欠片も無い……どんな野蛮な魔法を使って漆黒の騎士を倒したというのだ。」
「漆黒の騎士は、他の兵によって、すでに傷ついていたのではないのか?」
様々な言葉が岡に聞こえる。
(だから王宮にはこの格好では行きたくないと言ったのに……)
岡はやるせない気持ちになる。
漆黒の騎士を不知の魔法であっさりと倒した異国の兵の噂は、王宮中に響き渡り、その勇者を一目見ようと馬車が来るのを暇な貴族たちが待ち構えていた。しかし、降りて来た人間が一言で言えば蛮族であったため、彼らは何かの間違いでは無かったのかと思い始めていた。
嫌な視線を浴びながら、彼は王城の中に向かい、歩き始める。