海戦のその後
ロウリア王国 ワイバーン本陣
敵主力艦隊発見の報を受け、その攻撃に飛び立った350騎、悲鳴と共に通信を途絶して3時間が経過した。
司令部に重苦しい沈黙が流れる。
何故全く通信が無いのか?そして、時間になっても全く帰ってこない竜騎士達、司令部は焦燥に包まれていた。
「何故帰ってこないのだ?」
問い合わせに答える者はいない。
まさか?全滅!?
ロデニウス大陸の歴史において、ワイバーンは最強の生物である。しかし、貴重な種でもあり、数がなかなかそろえられない。
ロウリア王国の500騎というのは、ロデニウス征服を前提に、パーパルディア皇国からの援助を得て、6年かけてようやくこの数に達した。
圧倒的戦力であり、確実にロデニウス大陸を征服できるはずであった。
そして、敵主力の報を受け、飛び立っていった精鋭350騎圧倒的に歴史に残る大戦果を挙げて帰ってくるはずだった。
しかし、現実は一騎たりとも帰ってこない。
考えたくない。考えたくないが、全滅した可能性が高い。
普通に考えて、敵が大艦隊だったとしても、350騎のワイバーンを全滅できるとは考えられない。
まさか、敵は伝説の神龍バハムートでも使役しているのだろうか?
ロウリア王になんと報告したらいいのか、解らない。
「・・・先遣隊へ連絡、竜騎士団のうち、半分を緊急に本陣によこせと伝えろ」
中央歴1639年4月30日 クワトイネ公国 政治部会
「以上が、ロデニウス大陸沖大海戦の、戦果報告になります」
参考人招致された観戦武官ブルーアイが、政治部会において報告する。
政治部会の各々の手元には、戦果の記載された印刷物が配布してある。
付近に沈黙が流れる。
「では、なにかね?日本はたったの8隻で、ロウリア艦隊4400隻に挑み、1400隻を海の藻屑とし、撃退。さらに、ワイバーン300騎以上の空襲も、上空支援無しで全て退け、撃墜し、その上、8隻には全く被害が無かったというのかね?
人的被害ゼロと記載がある。死者は無しか!?
わが国の艦隊は出る幕が無かったと・・・。
そんな御伽噺でも出来すぎた話だ。政治部会で、観戦武官の君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、あまりにも現実離れしすぎて、信じられないのだよ」
誰もが同じ思いだった。観戦武官の彼でさえ、信じられない戦果だった。
「外務卿!大体、彼らは必要最低限度の戦力しか持ってないのではなかったのか?」
野次が飛ぶ。
本来は、ロウリアの侵攻を防ぎ、国の危機が少し去ったので、喜ぶべきところが多いのだが、あまりにも1会戦の戦果としてはすさまじすぎるので、政治部会にはある種の恐怖が宿っていた。
首相カナタが発言する。
「いずれにせよ、今回の海からの侵攻は防げた。まだ3000隻残っているが、たった8隻にここまでやられては、警戒して海からの再侵攻には時間がかかるだろう。陸のほうはどうなっている?軍務卿?」
「現在ロウリア王国は、ギムの周辺陣地の構築を行っております。海からの進撃が失敗に終わったため、ギムの守りを固めてから再度進出してくるものと思われます。我がほうでは、電撃作戦は無くなったと解しております」
軍務卿は続ける
「日本の動向についてですが、首都クワ・トイネの西側30kmの地点にあるダイタル平野の縦横3kmの貸し出し許可を求めてきております」
「ギムと首都の直線上だな・・・。陣地を構築するつもりなのか?」
「対武装勢力の陣地を構築したいとの申し入れがありました」
「あそこは何も無い平野で、土地も痩せていたな・・・よし!外務卿、日本に対して、陣地構築の許可を与えよ。好きに使えとな。」
政治部会内でわずかな反発もあったが、日本の力無くしてロウリアを撃退できない事は誰もが理解しており、さらにこれほどの力を持つ日本が万が一牙をむいてきたらどうしようもないことも理解していた。
日本の要請を断る理由は無く、後日、同場所に日本は飛行場を建設することになる。
ロウリア王国 王都 ジン・ハーク ハーク城
34代ロウリア王国、大王、ハーク・ロウリア34世は、ベッドの中で震えていた。
先刻発生したロデニウス沖大海戦で、日本国と名乗る新興国が参戦し、ワイバーン350騎が全滅し、さらに、艦船1400隻が撃沈された。
しかも、こちらからの攻撃による被害は一切確認されていない。ほぼ皆無である。
報告には荒唐無稽な部分が多い。
曰く、光の矢が飛んできて、避けても追って来る。
ワイバーンはこれにより、そのほとんどが撃墜されている。
これは、何らかの新しい魔導兵器と解される。
しかし、次の、距離7km以内に接近した際、に、何かに撃墜されたとある。
何かって何だ?
しかも、敵は一発でこちらの船を破壊する魔導を連続で打ち出した。どれほどの魔法力が必要か、想像も付かない。
神話に登場する古の魔法帝国でも復活したのだろうか?何を相手に戦っているのかが解らない。
ロウリア王国は、昔から人口とにかく多いが、人的な質が悪かった。
しかし、この6年間で、ロデニウス征服のため、そこそこの質で、圧倒的数をそろえることが出来た。
しかし、自分たちの兵器が全く通用しない可能性がある。
質がものを言う海と空、しかし、陸戦は数がものを言う。陸戦で、なんとかなるかもしれないが・・・。王は、その日、眠れない夜を過ごした。
第三文明圏 列強国 パーパルディア皇国
薄暗い部屋、光の精霊の力により、ガラスの玉がオレンジ色にほのかに輝き、影を映し出す。その数は2つ、
男達は、国の行く末に関わる話をしていた。
「・・・・・・・日本?聞いたことの無い名前だが・・。」
「ロデニウス大陸の北東方向にある島国です。」
「いや、それは報告書を見れば解るが、今までこのような国はあったか?大体、ロデニウスから1000km程はなれた場所にある国なら、我々が今までの歴史で一度も気がつかなかった事が考えられない。」
「あの付近は、海流も風も乱れておりますので、船の難所となっております。なるべく近寄らなかったので、解らなかっただけではないでしょうか?」
「しかし、文明圏から離れた蛮地であり、海戦の方法も、きわめて野蛮なロウリア王国とはいえ、たった8隻に1400隻も撃沈されるとは、いささか現実離れしていないか?」
「しかも、100発100中の大砲、艦船武官も、長い蛮地生活で精神異常をきたしたのかもしれません。今度交代をさせてやりましょう。」
「しかし閣下、我々の、100門級戦列艦フィシャヌスが仮に、ロウリアと戦ったら、相手から沈められる事はありません。距離2kmで、大砲の弾の続く限りロウリアを撃沈できます。いずれにせよ、日本が何百隻使ってロウリアを撃退したのかは、解りませんが、彼らも大砲を作れる技術水準に達していると判断するべきなのでしょうね。」
「蛮族の分際で、大砲か・・・。今までロデニウスや周辺国家に侵攻してこなかった事実を考えるに、ようやく大砲を作れる技術に達したと判断するのが適当かもしれんな。」
「ところで、ロウリアがまさか負けることはあるまいな?我々の、資源獲得の国家戦略に支障をきたす」
「陸戦は、海と違い、数が物を言います。ロウリアは人口だけはとにかく多いので、大砲を持ち始めたレベルの国を前にして、大敗することはありますまい。」
「今回の海戦の報告は荒唐無稽だ。真偽を確かめるまでは、陛下に報告はしない。解ったな」
「了解いたしました。」




