列強のプライド2
神聖ミリシアル帝国 帝都ルーンポリス 皇城
古の魔法帝国の古代遺跡を解析し、その技術差によって、世界の頂点に昇りつめた神聖ミリシアル帝国、そしてその力を使用し、世界から集めた富により、栄華を極めし都市、帝都ルーンポリス。
正にこの都市は世界の中心であると、帝国臣民は自らを褒め称える。
街には魔法技術によって作られた車が走り、高層建築物が立ち並び、夜は光の魔法により、柔らかい光が都市を包み込む。
初めて帝都を訪れし他国の民は言う。
何と栄えし都か、何と豊かなる国か、まるで神々の物語に出てくるような世界かと……。
その世界の中心とも言える帝都ルーンポリスのさらに中心、世界を操りし帝が住まう皇城において、緊急の会議が開かれようとしていた。
今まで敵なしで外交を行ってきた彼らに、奇襲攻撃とはいえ、初めて土をつけた国、グラ・バルカス帝国への対策について、会議が始まる。
皇帝ミリシアルを中心とし、
○軍務大臣シュミールパオ
○国防省長官アグラ
○情報局長アルネウス
○外務省統括官リアージュ
他、国の幹部といっても差し支えない。
本会議において、外務大臣ぺクラスは、先進11ヵ国会議で、港町カルトアルパスに出
向いており、本会議は不参加であった。
なお、外務省統括官リアージュは、度重なる会議で、カルトアルパスと帝都を何往復もしていた。
「これより帝前会議を始めます。」
国防長官アグラが司会進行を兼務する。
「今回の会議を開くきっかけとなった事案の概要を説明いたします。」
アグラは説明を開始する。
「先日、先進11ヵ国会議において、西方の文明圏外国家、グラ・バルカス帝国が我が国を含む世界へ向け、従属せよと表明いたしました。
グラ・バルカス帝国は、現在、第2文明圏西側各国を落とし、連戦連勝を重ね、列強レイフォルを単艦で破ったことから自信をつけ、このような暴挙に出たと思われます。」
説明は続く。
「グラ・バルカス帝国使節団は、先進11ヵ国会議で暴言を吐いた後、カルトアルパスから彼らの乗ってきた戦艦で立ち去っています。
その後、同戦艦とは別の艦隊が、西の群島において、第零式魔導艦隊に攻撃を仕掛けました。」
一同は、その後の戦況経過報告に息をのむ。
「敵の規模は戦艦2、重巡洋艦3、巡洋艦2、小型艦5の計12隻の規模であり、戦艦の総合的強さは、我が方の最新鋭魔導戦艦に匹敵するものでした。
敵に与えた被害は、戦艦1、重巡洋艦1、小型艦1隻を撃沈し、重巡洋艦1を大破、巡洋艦1を中破、小破多数させ、本海戦は我が方の勝利に終わりました。」
話はつづく。
「しかし、その後敵の航空隊多数の猛攻にさらされ、第零式魔導艦隊は全滅いたしました。」
場がざわつく。
第零式魔導艦隊は、神聖ミリシアル帝国の最新型が配備される花形の艦隊であり、同国の強さの象徴だった。
その艦隊が、航空攻撃により全滅したとの報告により、国の幹部は改めて衝撃に襲われる。
「戦闘航行中の戦艦が航空機ごときにやられるはずがない!!その時、我が方の戦艦はすでに損傷していたのか?」
総務大臣が尋ねる。
「詳細は不明ですが、国防省では、航空攻撃前の海戦で、すでに戦艦は損傷していたと分析しています。
なお、西の群島は警備用の航空機を少数しか配備していなかったため、エアカバーはありませんでした。
グラ・バルカス帝国艦隊は、その後陸軍離島防衛隊基地に艦砲射撃を加え、東に進路をとりました。」
彼らはさらに話を続ける。
「彼らの侵攻目標は、先進11ヵ国会議が開催中の港町カルトアルパスと思われます。
ただ、首都に来る可能性もあるため、首都警戒中の艦隊は動かせず、現在東方展開中の第1、第2、第3艦隊をカルトアルパスに向かわせていますが、間に合わないでしょう。
対応可能戦力は、今ある地方警備隊の巡洋艦8隻と、エアカバーのみであり、同戦力で戦います。
カルトアルパスに被害が出る可能性は高く、各国に対して東の街カン・ブラウンに会議場所を移すように申し入れるも、各国はこれを拒否、グラ・バルカス帝国と対峙する道を選びました。
なお、アニュンリール皇国のみは、すでに離脱しています。」
国防長官アグラの説明に、外務統括官リアージュは疑問に思い、質問する。
「各国の戦力で対抗できるのですか?」
「相手は第零式魔導艦隊を葬った軍隊です。戦力として換算できるのは……そうですね、ムーの艦隊と、日本国の送ってきた重巡洋艦くらいだろうと思います。
他は、的になるでしょう。
しかし、数が多いので、「弾除け」として見るならば有力かと思われます。
現在の状況の概要は以上です。」
説明が終わる。
皇帝ミリシアルが手をあげ、場が静まる。
神聖ミリシアル帝国皇帝は、ゆっくりと話始める。
「アグラ、説明ご苦労。」
ゆっくりとした口調、そのたった一言に、アグラは威厳を感じ取る。
「ははっ!!」
アグラはただ返事をし、頭を下げる。
「グラ・バルカス帝国か……それなりに強国のようだが、我が国を他国と同一視してくるとは……愚かなり。
グラ・バルカス帝国は、どの位置にある?」
「ははっ!!ここでございます。」
彼はムーの西にある海域を指す。
「ここに大きな島がございまして、そこが帝国の本土であります。」
「このような辺境の島国……小国か……。」
「日本国よりもらい受けた地図により、同帝国の位置は判明いたしました。」
「日本国……あのパーパルディアを実質的に滅した国か、何故東の辺境国が、西の辺境国の位置まで把握しているのだ?
まさか、裏でつながってはいまいな?」
皇帝は、日本国がグラ・バルカス帝国の位置まで正確に把握していた事象に疑問を呈す。
「私が説明いたします。」
情報局長アルネウスが手を挙げ、発言する。
「日本国と国交が結ばれて、まだ僅かな期間しか経過していませんが、かの国の技術力が現在徐々に明らかになりつつあります。
日本国は、空力の及ばぬ場所、宇宙に観測機器を上げ、この世界、惑星を監視しています。
よって、彼らの知る世界は、グラ・バルカス帝国の位置に留まらず、星の裏側もすべて把握していると推測されます。
なお、現在世界地図の入手を外務省と連携して勤めていますが、なかなか良い回答が得られません。」
一同に衝撃が走る。
決して人の力の届かぬ領域に、観測機器を浮かべる事が出来たのは、歴史上たったの1国だけであり、現在の神聖ミリシアル帝国の総力を結集しても不可能な事であった。
「まさか……まさか、日本国は古の魔法帝国の伝承にある、「僕の星」を実用化しているというのか。」
「はい、彼らは人工衛星と呼んでいますが、中身は「僕の星」と同一です。」
「日本国か、興味の沸く国だな……。
いかん、話が脱線したな。
グラ・バルカス帝国だが、今回の奴らの侵攻をしのいだ後、中央世界と第2文明圏で連合艦隊を作り、大規模部隊をもってレイフォル自治区に行き、第2文明圏から奴らを叩き出すぞ。
日本国の力は見てみたいが……。
リアージュ、日本国は早期に艦隊を送る事に同意するか?」
皇帝は、外務省統括官リアージュに問う。
「いえ、日本国は集団的自衛権の行使を憲法で禁止しています。仮に他の理由を作るとしても、意思決定に時間がかかりすぎるため、早期反撃には向かないでしょう。」
「そうか、解った。
第3文明圏は遠すぎるしな、早期反撃の作戦からは外すとしよう。
作戦案詳細は、アグラ、貴様に任せる。」
「ははっ!!」
「我らに恥をかかせた代償、蛮族どもの血では釣り合わぬが、レイフォルから奴らを叩きだした後は、本土にも制裁を加えるぞ。」
中央世界の雄、神聖ミリシアル帝国の皇帝ミリシアルは、怒りに燃える。
◆◆◆
港町カルトアルパス とある酒場
酔っ払いどもは、いつものように話をしていた。
口ひげの長い小太りの、商人風の男が話始める。
「おいおい、聞いたか?先進11ヵ国会合中に、グラ・バルカス帝国が、全世界に向けて、実質的に宣戦布告したらしいぞ。」
驚きをもって、皆はその男の方向を見る。
別の初老の男が語る。
「グラ・バルカス帝国は、今第2文明圏の西側にある国家に対し、次々と侵攻し、連戦連勝を重ねているらしい。
宣戦布告したって事は、相当に自信があるんだろ?
まさか、我が神聖ミリシアル帝国が、やられる事はないだろうな……。」
「まさか!!いくらグラ・バルカス帝国が強かろうと、神聖ミリシアル帝国は別格だ。たとえレイフォルには勝てても、列強ムーにすら勝てないのではないか?」
「でも、見たか?港に来たグラ・バルカス帝国の戦艦、名前はグレードアトラスターというらしいが、山のように大きかったぞ……。
ムーのラ・カサミ級戦艦が近くにあったが、ムーの戦艦がまるで子供のようだった。
あの大きさは、もしかすると、我が国の最新鋭魔導戦艦よりも、大きいかもしれない。」
喧噪のある酒場が一時静まる。
「他国の者に聞いたのだが、今そのグラ・バルカス帝国がここ、カルトアルパスに向かってきているらしいぞ、先進各国は、外務大臣護衛艦隊で連合を組み、戦いの準備をしているらしい。
今この周辺海域の艦隊戦力は、世界でも有数だろうし、もちろん我が国の魔導艦隊もいるだろう。
そして、皆忘れていないか?
あの東の列強国、パーパルディア皇国を解体したあの日本国の大型艦も、今この周辺海域にいる。
白い船だったが、ムーのラ・カサミ級よりも大きかった。
これほどの戦力が、カルトアルパス周辺に集まっているのだ。
ここは安全だよ。」
「はっはっは、違えねぇ。」
酔っ払いどもの話はつづく。
◆◆◆
続々と、港を出港していく世界の強国たる艦隊群、それらの総数は53隻にも及び、堂々たるその雄姿は港にいる各国の者たちを安心させる。
ムーの機動部隊、戦艦2、装甲巡洋艦4、巡洋艦8、空母2、総数16隻を指揮する司令官ブレンダスは、ムーの技術の象徴たる戦艦ラ・カサミの艦上で、初のグラ・バルカス帝国との戦いを前にして自信に燃える。
神聖ミリシアル帝国に迫ると言われる第2文明圏列強国ムーは、その大きすぎる国力もあって、近年は侵略を受けてはいない。
艦の技術格差を冷静に分析する技術者とは異なり、ブレンダスという軍人は、自らの艦隊に絶対の自信を持っていた。
彼は横に立つラ・カサミ艦長ミニラルに話しかける。
「敵の規模が全く不明だが、どう見る?」
話しかけられた小太りの艦長ミニラルは、少し考えて返答する。
「確かに、規模は不明ですが、おそらく敵の目的は各国の大臣護衛艦隊に恥をかかせる事……。
そして、港町カルトアルパスに1撃を加え、神聖ミリシアル帝国の顔をつぶす事だと考えます。
かの帝国からの距離も考えると、それほど大艦隊を送って来る事は出来ますまい。
一方、こちらは混成とはいえ、数が多い。
失礼を承知で申し上げると、通常の文明圏外国の艦は良い弾除けとなるでしょう。」
話はつづく。
「相手の量はそれほど多くないと推定しています。しかし、こちらの弾除けは多い。
敵の戦艦はカルトアルパスで見た限り、かなり大きいようですので、それほど速度は出ないはず……であるならば、弾除けを盾とし、距離を詰めて攻撃を加える事も可能でしょう。」
彼は斜め後方を振り返る。
「それにしても、日本国の戦艦は目立ちますね。」
彼の目線の先には、海上保安庁の巡視船「しきしま」が走る。
海上保安庁の巡視船「しきしま」は、ムーの戦艦ラ・カサミ以上の船長を持っていることから、ムーの軍人には戦艦と認識されていた。
「技術部からの情報では、日本国の艦は凄まじい性能を持っているらしいので、彼らの戦いもどう戦うのか、楽しみです。
力強い味方もいる事ですし、今回の戦いは、激戦となるでしょうが、負けはしないでしょう。」
「報告いたします!!」
通信員が艦橋で声を張り上げる。
「神聖ミリシアル帝国から連絡あり、グラ・バルカス帝国と思われる航空機が南西方向から多数カルトアルパスに接近中、距離130km、飛行機総数200!!」
「に……200だと!!」
「神聖ミリシアル帝国からの連絡は、200機で間違いありません!!敵の機種は不明、なお、現在カルトアルパス空軍基地から、アルファ3型制空戦闘機が42機、要撃のために離陸いたしました。」
「アルファ3、神聖ミリシアル帝国の最新機種だな。
しかし、敵の数200は多いな……爆撃型は何機含まれているのだろうか?
敵の空母機動部隊の位置は判明するか?」
「敵、空母機動部隊の位置不明」
「直掩機をあげろ!!上がれる機体は全部上げてるんだ!!」
「爆装種別はいかがいたしますか?」
「艦隊防衛を優先する。爆装無しで、すべて上げ、艦隊周辺のエアカバーを行え!!ミリシアル帝国と同士討ちにならぬよう、艦隊周辺を離れるな!!」
「了解!!」
ムー国空母から、最新鋭戦闘機マリンが次々と発艦していく。
発艦する複葉機は低速で風を捕らえ、離陸する。
透き通る様な青い空に、白く、美しい機体が多数舞い上がる。
各国の者たちは、空の守護者たちを、心強く思い、勝利を確信するのだった。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 第7制空戦闘団
カルトアルパス空軍基地から飛び立った、神聖ミリシアル帝国第7制空戦闘団42機、その機体は、神聖ミリシアル帝国の最新鋭の制空戦闘に特化したアルファ3型と呼ばれ、南東方向へ向かって編隊を組み、飛行していた。
青く澄み切った空に、42機の戦士たちは、整然と飛行していく。
その編隊の一糸乱れぬ動きから、練度の高さが伺える。
アルファ3型、刀のように研ぎ澄まされたその機体は、見るものにある種の感動と絶対の自信を与える。
静かな空に、魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの高音が鳴り響く。
第7制空戦闘団 団長 シルバーは、初の高性能機同士の戦いを前に、緊張をしていた。
「全機高度5500メートルまで上昇せよ、下方の警戒を厳となせ。」
「了解」
彼は魔信機で、友軍機に指示を出す。
仮想敵国ムーや、エモール王国の風竜を相手にする場合を考えると、ムーに対しては、そもそも機体の性能差があるため、1撃離脱が有効であり、エモール王国風竜に対しては、竜騎士が耐えきれないほどの上空に至り、その位置エネルギーを味方につけ、速度を殺さない戦いが有効とされてきた。
彼はグラ・バルカス帝国に対しても、本作戦は有効であると考えていた。
カルトアルパス基地総司令から、全員に魔信が入電する。
「諸君、間もなく君たちは、グラ・バルカス帝国航空機約200と戦闘に突入するだろう。君たちの機数は少ない、しかし、臆する事は無い。
君たちは、中央世界最強の国の、最新鋭機に乗って戦うエリートだ。
対グラ。バルカス帝国では初の、最新鋭機の戦闘となるため、諸君の活躍に期待している。機械動力の航空機ごときに、魔法文明が遅れを取るわけにはいかない。
我らの誇りは君たちにかかっているといっても過言ではない。
諸君らに、戦神の導きのあらんことを。」
魔信が途切れる。
「敵機発見!!左方30下45!!!」
目の良い部下が報告を上げる。
「ん!?あれは……。」
敵編隊が、カルトアルパス方向に進行しているのが良く解る。
「数が多いな……。」
シルバー団長は、敵編隊をよく見るが、どの敵が爆撃型で、どの敵が制空タイプなのか、全く解らない。
「……ムーの飛行機械を鋭くしたような形だな……。」
低翼を採用し、機首に1つ大きなプロペラが付き、回っている。
その進行速度、大きさから明らかにムーの飛行機械よりも強力な敵である事を彼は感じ取る。
彼はまず一撃を与える事を決意する。
「……先頭集団をたたくぞ!!全機突撃!!敵編隊上方から攻撃を行った後、そのまま敵後方低空へすり抜けるぞ!!!」
「了解!!」
魔光呪発式空気圧縮放射エンジンの高音が機内に響き、機体は速度が上がるにつれ、振動が激しくなる。
「ん!!?」
微かな違和感、彼は違和感のした方向、太陽を見る。
光はまぶしく、目を細める。
「!!!!!」
太陽に微かな黒い点が多数映し出される。
「て……敵襲!!後方上空!!!太陽から来るぞ!!!」
敵の機体から機銃が放たれる。
上方から斜め下方に向かい、連続して光弾が走り、鈍い射撃音が遅れて届く。
5機の戦闘型に特化した天の浮舟アルファ3型の機体に大きな穴が開き、爆発、或いは翼が吹き飛び、彼らは雲の海に沈む。
敵機約30機は、友軍に射撃を行った後、斜め下方にすり抜ける。
プロペラ機の轟音は、ドップラー効果によって高音に至る。
「お……おのれぇ!!」
シルバー団長は、友軍機を初撃で5機も失った事実に驚愕すると共に、仲間を殺した敵に対し、怒りに燃える。
神聖ミリシアル帝国第7制空戦闘団の制空型天の浮舟アルファ3型は、各自散開し、グラ・バルカス帝国のアンタレス型艦上戦闘機と乱戦に至る。
数はこちらが多い。
シルバー団長は、勝利を確信していた……。
しかし……。
「くそっ!!また後ろに着かれた!!!振り切れない!!がっ!!!!」
友軍機の魔信が途切れ、1機が火を噴きながら雲の海に消える。
「そ……そんな!!後ろに着けない!!旋回能力が違いすぎる!!し……しまっ!!」
また1機が撃墜される。
「ばかな!!上昇能力でも勝てないだと!!!」
敵機の上昇能力に着いていけず、反転したところを撃墜され、また1機失われる。
乱戦……シルバー団長は、自らも機体を操りながら、絶望感に襲われる。
世界最強たる神聖ミリシアル帝国の最新鋭機アルファ3型が、空戦で数の優勢があるにも関わらず、明らかに、圧倒的に我が方の数が減っていく。
古の魔法帝国の技術を解析し、武装を強化し、来るべき古の魔法帝国(ラヴァーナル帝国)との戦いの際、全種族の盾、そして希望となるべき国の戦士たちが、たかが文明圏外国家の攻撃に劣勢に立たされる事実。
頭では理解しても、気持ちがそれを受け入れられない。
「おのれぇぇぇぇぇ!!!」
シルバー団長は、気合をもって、アルファ3を操る。敵の後ろに着こうとするも、身軽な敵は彼の射撃をあっさりとかわし、シルバーの後ろに着く。
「くそっ!!くそっ!!くそぉぉぉぉ!!!」
シルバーの機体は、多数の20mm機銃弾を浴び、爆散し、墜落した。
◆◆◆
神聖ミリシアル帝国 カルトアルパス空軍基地
魔力探知レーダーを監視していた監視員ウランは、自分の目を疑っていた。
敵は機械動力飛行機のため、人程度の魔力が微かに映るのみであり、反応は弱い、しかし、その微かな探知箇所に向かっていた大きな光点が、矢継ぎ早にレーダーから消える。
その状況が意味する事、撃墜!!!
故障の可能性もあるが、敵機の微弱反応は未だ健在であり、進行し続けている。
彼は、恐る恐る報告をする。
「ま……魔力探知レーダーから、第7制空戦闘団の反応が消えました。
全機撃墜されたものと思われます。」
上司が目の色を変え、レーダーを覗き見る。
「そんな!!そんなバカな!!最新鋭機の、練度の高い部隊だぞ!!!レーダーの故障ではないのか!?」
「現在故障は確認できません。」
「旧式も新型も含めてすべて上げろ!!!本土に近づけさせるな!!!エモール王国風竜騎士団に応援要請を行え!!」
「了解!!」
「まずいな……このままでは、先進11ヵ国の外務省護衛艦隊の直衛は、ムーの飛行機械のみとなってしまう……。」
カルトアルパス空軍基地は、蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、混乱する。
◆◆◆
海上保安庁巡視船 しきしま
「グラ・バルカス帝国のものと思われる大編隊は、多少数を減らしましたが、なおも速度変わらず、こちらへ向かってきます。」
船長の瀬戸は、苦虫をかみつぶしたかのような顔になる。
「神聖ミリシアル帝国の迎撃機は、すべて撃墜された模様です。」
巡視船しきしまの対空レーダーに映し出される戦況は、瀬戸たちの期待したものでは全くなかった。
一方的な敗退を行う自称世界最強の国に、彼は絶望感に包まれる。
このままでは、どう考えても海峡突破までに間に合わず、敵の大編隊は、艦の上空に現れるだろう。
周辺の艦隊の船を見渡すと、対空兵装といった類のものは、何も見えない。
唯一の救いは、今上空を乱舞しているムーの直衛機であるが、第2次世界大戦時代の戦闘機や急降下爆撃機、雷撃機を相手にたかが複葉機がどの程度の役にたつのか、おそらくすぐに全滅してしまうだろう。
味方を撃たないように、細心の注意を払い、切り抜けるしかない。
「対空戦闘用意!上空の監視を厳となせ!!」
「了解。」
南西の空に、微かな点が多数見える。
艦隊上空のムーの戦闘機は、その点の方向へ向かって飛び去って行く。
「やはり戦わねばならんか……。」
船長瀬戸はマイクをとる。
「総員に告ぐ、間もなく、本船は海上保安庁創設以来初めて、大編隊の攻撃にさらされるだろう。
しかし、幸いにも、我が船は、対空兵装は充実している(海上保安庁基準)、必ず全員生きて帰るぞ!!
そのためにも、気合を入れろ!!今、自分の能力を限界以上に出せ!!
危機的状況に陥っても、出来ないと、決してあきらめるな!!
自分で限界を決めるな。
諸君らの奮闘を期待する。以上。」
巡視船しきしまは、日本国の歴史上初めて、巡視船で大編隊と対峙する事となった。




