外伝 竜の伝説4
◆◆◆
王都アルクール 城壁外側
「フハハハハ!!あの……世界で最も強い防御力とうたわれた王都アルクールが燃えておるわ!!
これが……この圧倒的な戦力が私の力だ!!
オルドよ!」
「ははっ!!」
「カルアミーク王国を掌握した 後は、世界を征服し、その後は世界の外へ軍を進めるぞ!!」
「ははっ!!マウリ様の圧倒的軍事力をもってすれば、世界征服はもちろん、世界の外の国々も、瞬く間に制圧し、マウリ様にひれ伏す事になるでしょう。」
上空には有翼騎士団が乱舞し、地上では戦車が敵の攻撃をはじき返す。
魔獣は荒れ狂い、敵は我が軍に対してなす術が無いようにも見える。
「オルドよ!」
「ははっ!!」
「有翼騎士団に、王城を攻撃させよ。
ああ……ついでに、ウィスーク公爵家にも2騎くらい差し向けよ。」
「はい、承知いたしました。」
命令は的確に伝達された。
ウィスーク公爵邸
上空には火喰い鳥が乱舞し、街からは炎と煙、そして悲鳴が上がる。
空からの連続した攻撃に、王国は軍を立て直す事が出来ずにいる。
王国軍は、元々戦力の三分の一が残っていたが、上空からの攻撃になす術が無く、その数を減らしていた。
絶え間なく聞こえつづける悲鳴と怒号はこの公爵邸にまで聞こえ、そこにいる者たちは平静を保つ事ができない。
「お……お嬢様、すぐに地下に避難してください!!!」
騒然とする空気の中、召使が興奮してエネシーに語りかける。
「解りました。さあ、ムーラ様もご一緒に!!」
エネシーは、隣に立つムーラも連れて行こうとするが、彼は動かない。
「ムーラ様早く!!早く避難いたしましょう。」
彼はゆっくりと話始める。
「先に行ってくれ……俺は残る。」
信じられない言葉が彼女の耳に飛び込む。
唖然とするエネシー。
「な……何を言っているのですか?いくらムーラ様がお強いとはいえ、あのような統率された化け物相手に単騎では、どうしようもないでしょう!」
彼女の言葉を無視し、ムーラは歩き始める。
「ダメ!!行かないで!!!」
不意に、周囲に大きな風が巻き起こり、付近の草花を揺らす。不気味に羽ばたき音と共に、火喰い鳥に乗った者2騎がエネシーの前に空から現れ、着地する。
「ひ……火喰い鳥!!!」
人の攻撃など寄せ付けぬ、空の脅威が突如として彼女の前に現れる。
空の魔獣に乗った騎士たちは、興味が無さそうに言葉を発す。
「ウィスークの娘か……運が無いな。とりあえず燃えておけ。」
2騎の火喰い鳥たちは、彼女たちに逃げる間を与える事無く、口から獄炎を、無防備な貴族の娘に向かって放射する。
「ああっ!!」
火喰い鳥2騎の放った火炎がエネシーに向かう。
突然の攻撃、自らに迫る火炎、その炎はあまりにも大きく、彼女と召使は避けることが不可能であることを瞬時に理解する。
死を覚悟する2人。
エネシーは目を閉じる。
走馬灯が駆け巡る暇もなく、ただ目を閉じることしか出来ない。
一瞬が経過し、数秒がたつ。
いつまでたっても火炎は襲ってこない。
「あれ?」
彼女はゆっくりと目を開ける。
漆黒の翼、鋭い牙、強固な鱗、雄々しい姿。
ムーラの愛騎、ワイバーンが火喰い鳥とエネシーの間に立ち、翼を広げ、火炎を防ぐ姿がそこにはあった。
「なっ!!何だ!?こいつは!!!」
突如として現れた、見たことも無い化け物、竜の出現に、2人の有翼騎士は動揺する。
「火喰い鳥の炎を防ぐとは!!こいつはいったい?」
2人の動揺とも問いかけともとれる言葉を無視し、ムーラは、はっきりとワイバーンに命じる。
「相棒、その鳥を2羽、焼き鳥にしろ!!!」
ムーラの命を受け、ワイバーンは2羽の鳥の方向を向く。
口を開き、魔力を火炎に変換し、放射する。
火喰い鳥の放つ炎よりはるかに強力な獄炎の放射は彼らを包み込むように襲い、火喰い鳥とその騎士は、悲鳴をあげ、火だるまになる。
短時間で動かなくなる2羽。
ムーラはゆっくりとエネシーに振り返る。
「魔獣の数は多い。確かに、単騎ではどうにもならないかもしれない。」
ムーラは続ける。
「しかし今、空の敵と戦う力があるのは俺だけだ。
非戦闘員を大量に……一方的に虐殺するという行為、俺の……竜騎士のプライドがそれを許すことができない!!!」
「まっ!!待って下さい!!」
外務省の北村が駆けつけてくる。
彼はムーラの戦う意志を聞き、制止する。
「待ってくれ、ムーラさん。これは内戦です。
私たちは日本国政府の使者という形でここにいる。
内政に干渉するのはまずいのです!!」
「私は、ロウリア王国の竜騎士だ。
目の前で、人が大量に、一方的に殺され、唯一「今」戦える私がこれを見過ごしたならば、私は一生後悔するだろう。
国同士の事は、そちらで何とかしてくれ。
それに……日本国は、このような住民を殺しまくる魔獣を操る国と国交を結びに来たのか?
基本も大切だろうが、どうすれば国益になるかを、もう少し考えた方が良い。」
ムーラは北村に言い放つ。
ロウリア王国が、クワトイネ公国の街、ギムで行った残虐な行為を把握していなかった故の発言だった。
「しかし!!」
「すまん、議論の時間が惜しい。」
彼は愛騎にまたがると、ウィスーク公爵家の庭から飛び立っていった。
「なんてことを!!まったく!!」
北村は、ムーラの勝手な行動に頭を痛めるのだった。
◆◆◆
エネシー視点
街からは猛烈な火の手があがり、多くの悲鳴が聞こえる。
空を見上げると、最強の空の覇者、火喰い鳥が乱舞している。
空からの攻撃を前に、王国軍は劣勢にたたされているようだ。
怖い。
「お嬢さま、地下室にお逃げ下さい。」
召使の言葉により、本能的に私は駆け出す。
ムーラ様が付いてきていなかったため、私は振り返り、ついてくるように即す。
しかし、彼はそれを断り、民のために戦うという。
本当にいちいちカッコイイ。
でも、未来の夫を死なないようにするのも妻の務め。
再度引き止めようとした時、私の前に醜悪な顔をした火喰い鳥が現れた。
奴らは……多くの王国軍を葬ってきた、獄炎の炎を私に向かって放射した。
ああ……ダメだ。
このまま、いい男とイチャつく事も出来ずにあの世に行くのか。
私はすべてをあきらめ、少しでも痛く、熱く無い事を祈り、目を閉じる。
「あれ?」
目前にはムーラ様の竜。
気が動転していて、ムーラ様が何を言っていたのか解らない。
でも、とてもカッコイイ事を言って、彼は飛び去って行った。
ムーラ様がいくら強くても、単騎で統率のとれたマウリの軍に勝てるとはとても思えない。
ああ……行ってしまった。
止める事が出来なかった。
でも……すごくかっこよかった。
◆◆◆
王城~
「くそっ!くそっ!ちくしょぉぉぉぉぉ!!!!!!」
上空に、勝ち誇ったように乱舞する敵の有翼騎士団、度々打ち下ろされる炎によって、王城は炎上していた。
国王ブランデも、敵の攻撃により、炎の中に消えた。
近衛騎士団長ラーベルは守るべき者を打ち取られ、悪態をつく事しかできない。
守るべき街も燃え、王国臣民の悲鳴が絶えない。
せめて、上空の敵だけでも何とかしたいが、空に対する攻撃なぞ、弓以外は全くない。
彼の全身は、どうしようもない無力感に襲われる。
彼はふと、預言書の事を思い出す。
ラーベル自身、とんでも本として認識していた預言者トドロークの預言。
『異界の魔獣現れ、王国に危機を及ぼさんとする時、天翔ける魔物を操りし異国の騎士が現れ、太陽との盟約により、王国を救うために立ち上がる。
王国も建国以来の危機に見舞われるが、騎士の導きにより、救われる事となるだろう。』
現実主義者の彼にとって、預言にすがる事など、考えられない事だった。
しかし、自分に力は無く、万策尽きた今、彼は初めて神に……予言の実現を……勇者の降臨を祈った。
このままでは、王国が滅び、臣民の多くが虐殺されてしまう。
「たのむ!神よ!!私は今生まれて初めて祈る。
あなたに……ただ見守るだけではなく、本当に運命をつかさどる力があるならば、王国を救ってくれ!!」
ラーベルの目から涙がこぼれる。
「たのむ!!たのむ!!あの悪しき魔獣たちを滅する力を貸してくれ!!
神よ!!!!」
街はさらに燃え、敵の攻撃は続く。
悲鳴も未だ耐える事なく、彼はすべてをあきらめる。
1騎の敵有翼騎士が上空から自分に気づき、急降下を開始する。
「フフ……我ながら情けない最後だな。
神に……実体の無い者の力にすがろうとするとは。」
敵騎士との距離はどんどんと縮まっていく。
「せめて……1矢!!」
ラーベルは弓をひく。
火喰い鳥の口から、わずかに炎が上がり始める。
「うぉぉぉぉぉぉっ!!!」
彼が矢を放とうとした瞬間、有翼騎士に大きな火球が直撃し、上空に炎の爆発が起こる。
攻撃を受けた鳥と騎士は、炎に包まれながら地面にたたきつけられる。
「い……いったい何が!?」
「ギュォォォォォォーーーン!!!!」
王都に響き渡る咆哮。
ラーベルはその咆哮が本能的に強い者の発する声という事を感じとり、戦慄する。
彼は声のした方向……火球の飛んで来た方向を見る。
「あれは……!!」
彼の目線の先には、おとぎ話でしか見たことのない、架空の生き物、強さの象徴たる龍がいた。
「人が乗っている!!」
感動……。
龍は口内に火球を形成し、再度打ち出す。
さらに1騎の敵に火球が命中し、落ちていく。
龍が上空を通り過ぎる。
「は……速い!!火喰い鳥の倍以上の速度が出ている!!」
突然現れた、龍という規格外の生物により、戦場はかき回される。
◆◆◆
王都攻略はすべてが順調に進んでいた。
空からの攻撃により、城門内側の兵を焼き払い、戦車で門を焼き、そして砕く。
その後、魔獣を突入させる。
強い敵が出現した場合は、12角獣を向かわせ、それでも苦戦する場合は戦車を使用する。
王軍に対しても、上空からの攻撃により、隊列を組ませる事なくバラバラにし、個々の騎士は魔獣により各個撃破する。
どうやら、我が軍は強くなりすぎてしまったようだ。
あの王国軍が、最強の城塞都市と言われた王都アルクールがあまりにもあっけなく燃える。
このままだと、世界征服やその後、世界の外に打って出た場合もスムーズに行きそうだ。
大魔導師オルドは邪悪な笑みを浮かべる。
「ギュォォォォォーン!!!!」
聞いたことのない魔獣の咆哮が聞こえる。
単騎で有翼騎士団に突っ込んできたそれは、火球を味方にたたきつけ、一撃離脱を行う。
「なんという長射程攻撃!!そして速い!!!」
味方の隊列が乱れ始める。
「……よく解らない敵だが、たったの1騎、数10騎が連携をとり、処理にあたれば何とかなるはずだ!!」
大魔導師オルドは指揮を出す。
◆◆◆
ウィスーク公爵邸
ウィスーク公爵は、王宮に緊急参集するため、準備を進めていた。
再度王城からの早馬が、公爵邸を訪れる。
「今度は何だ!!!」
準備をしようと思えば、邪魔が入り、なかなか進まない準備に彼は苛立ちを募らせる。
「国王ブランデ様が打ち取られました。
王規法により、これより王国軍及び行政機構のすべてはウィスーク公爵様の指揮下に入ります。」
「な……何だと!?」
国王様が打ち取られたという事実に、彼は唖然とする。
「なお、今は非常時ですので、議会を通さずに、すべての決定権は公爵様に一時委任されます。」
彼は緊急時の衝撃的報告に、頭をフル回転させる。
軍は頑張ってくれている。
こんな時に、戦いの素人である自分が出ていき、指示を出しても、現場は混乱するだけだ。
また、権限を集約されても、敵軍から王都を守り抜かねば、自分の権限集約は全く意味のないものとなってしまう。
どうする?
ドーン……。
炸裂音が轟き、彼は上空を見上げる。
その目線の先には単騎で、敵の強力な有翼騎士団を翻弄する龍の姿が目に入る。
「そうだ!!北村殿を、北村殿を呼んでくれ!!」
ウィスーク公爵は、召使に日本国外務省の北村を連れてくるよう指示した。
3分後~
「と、いう訳で、今我が国は有害な魔獣によって、人類が存続の危機に陥っています。
魔獣の駆除に、日本国に協力していただきたい。
彼らは、簡単に人を殺しすぎる。
このままでは、この世界(島)全体が彼らの配下となり、何れは日本国へも侵攻してくるでしょう。」
「しかし……実質的に、これは内戦ではないでしょうか?」
北村の問に公爵は言葉を選ぶ。
「カルアミーク王国の権限は今、すべて私に委任されています。
今回私たちが勝利すれば、日本国と国交を結ぶにせよ、最大限の譲歩をいたします。
何とか、我々を助けてほしい。」
ウィスークは北村に頭を下げる。
北村も、本心では彼らを助けたいがため、本国に至急連絡を行う。
直後、日本国政府は、カルアミーク王国に滞在する外交官、自衛隊員の救出のため、島から海を隔てた外側にある外輪山沖合に展開する海上自衛隊及び、護衛艦に待機中の陸上自衛隊に対し、
『邦人に対する危害の排除』を下命した。
◆◆◆
海上自衛隊ヘリコプター搭載護衛艦 いずも
軍事に疎い一般人が見たならば、一見して空母のようにも見えるヘリコプター搭載護衛艦いづも、本作戦において、不測の事態を想定し、特別に搭載されていた陸上自衛隊の攻撃ヘリ、AH64D3機と、AH1S5機、そして観測ヘリコプター(OH-1)1機の、計9機が発艦しようとしていた。
彼らの目標は、王都アルクールに展開する大型魔獣及び、空を舞う大型鳥類の撃破。
しかし、空を飛ぶ魔獣は70機と多く、弾薬が切れる可能性が十分に考えられ、今回の機数でははっきり言って打撃力不足だった。
しかし、外交官や、現地の自衛隊員たちを見捨てる訳にもいかず、彼らは危険を覚悟し、発艦する。
本国の空中給油機は、ちょうど南方に展開していたため、現在こちらに向かってきているが、現在地から考慮して、本国からの戦闘機のカバーを得られるまでには、あと4時間はかかるだろう。
艦隊司令の荒木正次郎は、部下を危険な地域に送る事になってしまった現実に胃が痛くなる。
「司令、よろしいでしょうか?」
艦長が話しかけてくる。
「何だ?」
「パーパルディア皇国の艦隊司令から、先ほどヘリの発艦は何かと問い合わせが来ています。」
「ああ、彼らも今回は協力してもらっているからな。派遣協定にも、武力行使事態の発生時は、概要を速やかに連絡するとある。状況を伝えてやれ。」
「はい。」
2分後~
「司令、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「パーパルディア皇国の艦隊司令からですが、読みます。
皇国は、竜騎士ムーラを安全に運ぶよう依頼を受けた。
彼を安全に本国に送り返す義務があるため、我らは制空権確保のため、王都アルクールの上空に向かう。
との事です。」
「ほう……それは助かるが、外交が絡むため、政府に意向を問い合わせる必要があるな。」
「司令……もう発艦を開始しています。」
「な……なにぃ!!準備していたな!!全く!!!」
パーパルディア皇国の竜母から、皇国のワイバーンロード12騎が発艦する。
彼らは、カルアミーク王国、王都アルクールの制空権を確保するため、透き通るような青空に向かい、飛び去っていった。
◆◆◆
カルアミーク王国南西方向約60km上空~
龍が飛んでいた。
力強く羽ばたき、ワイバーンよりも強力で、そして速い。
竜騎士団長、特A級竜騎士レクマイアは11騎の部下を引き連れ、ワイバーンロードの高域巡行速度、時速300kmで王都に向かう。
やがて前方に、日本国の回転翼機が9機見えてくる。
皇都を攻撃した戦闘機と呼ばれる種よりも、随分と速度が遅いようであるが、日本の事だ、強力な武器をもっているのだろう。
しかし、戦闘機が来ていないところを見ると、日本には我が国のような、制空を主とした海上打撃力を持っていないのであろうか?
いや、今回来ていないだけかもしれないが……。
これは……上に報告する必要があるようだ。
パーパルディア皇国 ワイバーンロード竜騎士団は、日本の攻撃ヘリの編隊を追い抜く。
「フフ……速い!!我が方が速いぞ!!!」
レクマイアは、魔信を起動し、指示を出す。
「我々は、足の遅い日本軍よりも先に、王都アルクール上空に達する。
日本軍に我々の……皇国竜騎士団の真の強さを見せつけてやれ!!
我々だけでカタをつけるぞ!!のろまな日本軍に出番を作らせるな!!!」
『了解』
レクマイアは、魔信を切り、つぶやく。
「日本軍という規格外の化け物を相手にしていたため、連敗が続いていたが……皇国の強さ……未だ列強国という事を、この戦いで証明してやる!!
それが、私に出来る事、国民の……誇りを取り戻すための手土産だ。」
パーパルディア皇国ワイバーンロード竜騎士団は、日本国陸上自衛隊のヘリを追い抜き、王都アルクールに向かった。
次話は、すぐに投稿いたします。