間話 短編 神話の調査
間話 短編 神話の調査
ロデニウス大陸 クワ・トイネ公国 エルフの聖地 リーンノウの森
深く、そして潤いのある森、太陽の光は大木によって遮られ、地上には木漏れ日が届く。
小川には澄んだ水が流れ、辺りには水の音と、小鳥たちのさえずる声が聞こえる。
やわらかなそよ風が吹き、肌には少し涼しく感じる。
そして、どこまでも澄んだ潤いのある空気。
エルフの聖地、リーンノウの森の入口で、ハイエルフであるミーナとウォルは客人を待っていた。
「聖地に……人族を入れるのは嫌だな。」
ウォルがつぶやく。
彼の生きている間に聖地にエルフ以外の種族が入った事はない。
歴史をたどったとしても、エルフの神がいた時代、聖地リーンノウの森が神森と言われていた時代に、魔王が攻めて来た際、種族間連合が最後の砦として利用した事が最初で最後だ。
現在、特に緊急時でもないのにエルフ以外の種族を聖地に入れるのはもっての他だ。
彼はそう考えていた。
「ウォル!!!客人の前ではそんな事言っちゃダメだよ!
今日来るのは、人族といっても、日本の人たちなんだから!
ロウリア王国の侵攻からクワ・トイネ公国を救い、そしてエルフの村の疎開中、ロウリアの騎馬隊の襲撃から仲間を助けてるんだから!!
しかも、トーパ王国では、復活した魔王ノスグーラを日本が倒したらしいわ。」
「ミーナ、おまえはのん気だな。
日本が倒したというが、大体本当に復活したのが魔王だったかというのもあやしいものだ!」
パタパタパタ……
2人が話しをしていると、空気を叩くような音が聞こえる。
音のする方向を見る。
上空~。
「な……なんだ!!あれは!!!」
ハイエルフであり、深い森で暮らす事の多い2人にとっては初めて見る日本の乗物、ヘリコプターの姿がそこにはあった。
「まっ!まさか!!!空飛ぶ船!?」
『太陽神の使い』の伝承が彼らの脳裏によぎる。
やがて、ヘリコプターは彼らの目の前着陸し、中から人族が数名出てくる。
人族は、灰色の服を着た者が2名、緑色の斑模様を着た者が4名いる。
灰色の服を着た中年の男性が前に出る。
「考古学者の中村です。今回聖地をご案内していただけるとの事で、感謝いたします。」
「は……はい。」
クワ・トイネ公国の危機を日本は救った。
今回救ってやったという横柄な態度を予想していた2人は、中村の腰の低さに拍子抜けする。
「ではこちらに……少し歩きますよ。」
日本の調査団は、ハイエルフの2人につづく。
2時間後~
「ハア、ハア、ハア、ま、まだ着かないのですか?」
調査団はヘトヘトになり、ミーナに尋ねる。
「あら、もうバテてしまったのですか?フフ……ロウリア王国を打ち倒し、トーパ王国を魔王から救った猛者の国と聞いていたので、少し意外ですね。」
ミーナは笑って答える。
「本当にもう少しで着きますので、頑張ってください。」
「はい、しかしここは凄い所ですね。方位磁石も色々な方向を向くし、案内が無ければ絶対にたどり着く事が出来なさそうです。」
「神話の時代、魔王軍の侵攻に対し、種族間連合最後の砦として使われた場所ですので。
森の声を聞けないと、迷ってしまいますよ。」
調査団は進む。
30分後~
彼らはドーム状となり、草で覆われた建物の前にいた。
ハイエルフのミーナは、振り返り説明を開始する。
「この中にあるのは、エルフ族にとって、宝です。
知ってのとおり、神話の時代に魔王軍はロデニウス大陸に侵攻してきました。
魔王の魔力は強く、各種族は魔王に対抗するために、種族間連合と呼ばれる連合軍を組織し、魔王軍に対抗しました。
しかし、魔王軍は強かった。
種族間連合は敗退を繰り返し、歴戦の猛者の多くが散っていきました。
そして種族間連合は、エルフの聖地、神森まで撤退いたします。
魔王軍の目的も神森を焼き払う事だったようです。
このままでは、エルフ族が全滅してしまう。
危機感を募らせたエルフの神は、創造主である太陽神に祈ります。
神は願いを聞き届け、自らの……太陽神の使いをこの世界に降臨させました。
太陽神の使いは、空を飛ぶ神の船を操り、雷鳴の轟きと共に大地を焼く強大な魔導をもって、魔王軍を焼き払いました。
太陽神の使いたちは、使命を終え、この世界から自らの世界に帰る時、故障した神の船がありました。
彼らは、この先にある船を残し、帰っていきました。
エルフは、今では失われた時空遅延式魔法をその船に使い、この先に保管しました。
伝承によれば、神の船は前部から黒い血を吐き、動かなくなったとあります。」
説明が終わる。
「ドキドキしますね。神話が実在し、今も存在するなんて、ワクワクが止まりません。」
ミーナは草に手をあて、何か呪文のようなものを唱える。
草の建物はまるで生きているかのように動き、入口が開く。
中へ入る。
太陽の光が届かないはずなのに、中は明るい。
光のカーテンがあり、その中に入っていく。
日本の調査団の前に、エルフの宝と言われた神話の時代に活躍した空を飛ぶ船が現れ、それを注視する。
「な……何で!!何でこれがここにあるっ!!!!」
「いったいどういう事だ!!!これは!」
ミーナは日本の調査団の狼狽ぶりが不思議に思い、尋ねる。
「どうされました?確かに、これは私たちの宝であり、この世界のものではありませんが、何をそんなに驚いているのですか?」
日本国の調査団はミーナの声が耳に届かず、固まっている。
「れ……れ……」
「れ?」
「零式艦上戦闘機!!!!」
第2次世界大戦時代、大日本帝国の象徴的戦闘機であり、大戦当初、とてつもない力を発揮、アメリカやイギリスから『悪魔のゼロ』、『無敵のゼロ』と恐れられた零式艦上戦闘機の姿がそこにはあった。
謎は深まるばかりである。
後日、報告を受けた日本国政府は、この世界の神話について本格的調査に乗り出す事になる。




