望まぬ紛争2
望まぬ紛争2
「なんてことだ・・・やってしまった・・・・・。」
外務省職員の島田は、海上自衛隊及び海上保安庁がフェン王国に攻撃に現れた正体不明の部隊を見事に殲滅する様子を見て、多少混乱する。
国と国との争いに巻き込まれてしまった・・・。運が悪すぎるとしか言いようがない。
しかし、今回、国籍不明の部隊は、明らかに海上保安庁の巡視艇に先制攻撃を加えており、現に船体後部に着弾し、火災も発生した。どう見ても正当防衛射撃であり、海上保安庁を責める訳にはいかない。
国籍不明部隊の数は多く、海上自衛隊が参戦しなければ、撃退は難しく、王城近くにいた島田自身も死の危険があった。
もちろん海上自衛隊を責める訳にはいかない。
このタイミングでこんなことが起こるなんて、本当についていない・・・。
島田は自分の運命を呪った。
外務省は事態の悪化を防ぐため、情報収集を行ったところ、下記の事項が判明した。
○ フェン王国及び各国武官の反応から、襲ってきた部隊は、フェン王国西側約500kmにあるフィルアデス大陸の第三文明圏に属する世界5列強国の一つ、パーパルディア皇国で間違いないと思われる。
○ パーパルディア皇国の皇国監査軍と呼ばれる部隊であり、文明圏外の国を対象とする第3外務局の影響により動く部隊である。
○ フェン王国に対する懲罰的攻撃を、各国関係者の集まる軍際に合わせ、自己の権威を高め、他国を従わせるために行われた、いわゆる砲艦外交のような攻撃と思われる。
○ 海上自衛隊の情報によれば、フェン王国西側約200kmの位置を、速力15ノット程度の速度で東へ向かう22隻の艦隊が確認されている。
事態は切迫していた。
本日の夕方、フェン王国側との会議が予定されていたが、外務省は急遽フェン王国外交部署に連絡を求める。
フェン王国側は、即時会談に応じた。
来賓室で待つ日本国外務省の一団、フェン王国は貧しい国ではあるが、外交のための来賓室は、豪華さは無いが、おくゆかしさ、趣のある部屋であり、非常に質が高い。
一時して、フェン王国騎士長マグレブが現れた。
「日本のみなさま、今回フェン王国を不意打ちしてきた者たちを、真に見事な武技で退治していただいたことに、まずは謝意を申し上げます」
騎士長は深々と頭を下げる。
「いえ、我々は、貴国への攻撃を追い払ったのではありません。我々に攻撃が及んだので、振り払っただけでありあます」
外務省はけん制する。
「さっそく、国交開設の事前協議を・・・実務者協議の準備をしたいのですが・・・。」
フェン王国は、もう日本を味方に引き入れたくて、たまらないようである。
「貴国は、もう戦争状態にあるのではないですか?状況が変わりましたので、我々の権限だけでは、戦争状態にある貴国と、現時点で国交開設の交渉が出来ません。事態の重みを考えるに、一度帰国し、内容を詰めてから再度ご連絡いたしたいと思います。」
外務省は西から来る艦隊が到着する前に、一刻も早く、この場から引き上げたかった。
「解りました。良い返事を期待しています。ただ1つ、これだけは、心に留めおいて下さい。あなた方があっさりと片付けた部隊は、第3文明圏の国、しかも列強パーパルディア皇国です。我が国は、パーパルディアから土地の献上という一方的な要求をされ、それを拒否しました。それだけで襲って来たような国です。
過去に、我々のようにパーパルディアに懲罰的攻撃を加えられた国がありました。その国は、敵のワイバーンロードに対し、不意打ちで竜騎士を狙い、殺しました。
かの国は、パーパルディア皇国に攻め滅ぼされ、国民は、反抗的な者はすべて処刑し、その他の全ての国民は奴隷として、各国に売られていきました。王族は、親戚縁者すべて皆殺しとなり、王城前に串刺しでさらされました。
パーパルディア皇国、列強というのは、強いプライドを持った国というのを、お忘れなさらぬようお願いいたします。」
ぞっとするような話を聞いた後、外務省の一団は、王城から港に向かった。
フェン王国の首都、アマノキの港は、文明圏外の各国の戦船が整然と停泊しており、壮観な風景であった。
しかし、その場に護衛艦の姿は無い。
文明圏外の首都の港とはいえ、護衛艦を停泊させるほどの水深は確保出来ず、外務省の送迎は、海上保安庁の巡視艇 いなさ が行う。
ヘリを使用すれば移動は早いが、首都上空の飛行許可はもらっていなかったため(外務省が相手国を刺激しないよう、自主的に申請していなかった)移動は船である。
巡視艇 いなさ はアマノキの港に停泊し、エンジンを切り、錨を降ろし、外務省の一団が来るのを待っていた。
港では、人々が目を輝かせ、こちらに手を振っている。
「とーちゃん、あの白い船がさっきの悪い奴らをやっつけたんだよね」
「そうさ!あの光弾の嵐、すごかっただろう!!」
「うん!すごかった!」
「おーーい!!」
満面の笑みでこちらに手をふるフェン王国の人々、海上保安庁の職員は少し固まった笑顔で手を振る。
これほどまでに好意的な視線を受けたのは、初めての経験だった。
「お・・・外務省のお偉いさんが来たぞ」
焦りの顔を浮かべ、港へ真っ直ぐとこちらに向かってくる。
「エンジン始動!!!」
プスッ
・・・・・・・・・・
「!?」
「どうした!エンジン始動だ!!」
プスッ・・・
「・・・エンジンがかかりません」
な・・・・・
巡視艇いなさ は、パーパルディア皇国、ワイバーンロード竜騎士隊の導力火炎弾の直撃を受けた影響で、エンジンが再始動しなくなっていた。
「原因は何だ!!何処が故障している!!」
「・・・不明です」
業者でなければどうしようもない。
外務省の一団が到着する。
「う・・・動かない!!?」
「はい、さっきの戦闘の影響かと思います。」
「自衛隊に曳航してもらう事は?」
「港が浅くて出来ません。錨も上がりません」
「自衛隊に、ボートで迎えにきてもらって、船だけ残していけば・・・・」
「新世界技術流出防止法にかかります」
「では、いなさを撃沈してしまえば・・・」
「他国の首都の港で、そんなこと許される訳無いだろう!!」
議論は続くが、いなさが動かない事実に変わりはない。
「ほ・・・本国に問い合わせる」
外務省職員は力なく決断した。
日本国政府の決定は、フェン王国西側沖への護衛艦の派遣だった。
パーパルディア皇国艦隊と、フェン王国が衝突する前に、話し合いが出来ないかを試す。
何とか戦闘を回避したい。
戦闘は回避したいが、新世界においては、ある程度の積極的外交も必要との判断から、今回の行動の命は下された。
フェン王国 水軍
フェン王国、王宮直轄水軍13隻はパーパルディア皇国との戦争の可能性があったことから王国西側約150km付近を警戒していた。
警戒にあたる水軍は、フェン王国の中では精鋭をそろえており、比較的経験の浅い者は、今回警戒の任にはつかず、軍祭に参加している。
水軍は木製の船に、効率の悪そうな帆を張り、進む。
機動戦闘が必要な場合は、船から突き出たオールで全力で漕ぐ。
船には、火矢を防ぐための木製盾が等間隔に整然と置かれ、敵船体を傷つけるためのバリスタが横方向へ向かい、3機づつ設置されていた。
火矢を放つための油の壺も、船上に配置されている。
13隻の水軍を束ねる旗艦は、他の船に比べひとまわり大きく、船首には1門だけ大砲が設置されている。
水軍長 クシラ は西方向の水平線を睨んでいた。
「軍長、パーパルディア皇国は来ますかね・・・。」
「先ほどワイバーンロードが我が国に向かい飛んでいった・・・必ず来る!」
「・・・勝てますか?」
「ふ・・・列強国相手とはいえ、タダではやられんよ。うちはかなりの精鋭揃いだからな。
それに・・・。」
軍長は艦首にある大砲を見る。
「あれを見よ!文明圏でのみ使用されていると言われる魔道兵器だ!球形の鉄の弾を1km近くも飛ばして、船にぶつけ、その運動エネルギーをもって破壊する。これほどの兵器を船に積んだんだ!」
軍長は艦長に話す。
部下の前で不安は口に出来ない。しかし、軍長は知っていた。列強には、砲艦と呼ばれる船ごと破壊出来る超兵器が存在することを。
フェン王国のトップシークレットだった。
おそらく砲艦は、このフェン王国最強の船、旗艦剣神のように、文明圏に存在する大砲と呼ばれる魔道兵器を船に積んだものだろう。
しかも、その最強クラスの船が、列強では普通に存在するのだろう。
水軍長クシラの頭の中は、来るべき列強パーパルディア皇国との戦闘に備え、フル回転を始める。
(どうすれば・・・勝てる?)
「艦影確認!!!!艦数22!!!」
マストの上で見張りをしていた見張り員が大声で報告する。
ついに、来たか!
水平線に艦影が見える。
望遠鏡と通して見えるその艦は、フェン王国王宮直轄水軍の船に比べ、遥かに大きく、先進的である。
デザインと機能性を兼ね備えたマストに風の魔法で吹き付けられる風を受け、フェン王国式船より速い速度で船は進む。
水平線から徐々に大きくなっていく敵艦隊は、フェン王国水軍長クシラの目を持ってしても優雅であり、美しく、力強い。
各艦の乱れない動きから、錬度の高さが伺える。
「総員、戦闘配備!!!!」
船員が慌しく動きまわる。
「・・・思ったより接近が早いな・・・。」
彼の想定する船速よりも速く艦隊は近づいてくる。
「くっっっ・・・初弾だ!最初に一番威力のある攻撃を行ない、その後魔導砲を放ちながら最大船速で敵に突っ込むぞ!!!!」
「各自、戦の準備を!!!旗艦剣神を最前列とし、縦1列で敵に突っ込むぞ!!!」
・・・たのむぞ・・・。
水軍長クシラは旗艦剣神の船首に1門だけ設置された魔導砲に願いを込めた。
「艦影確認、あの旗は・・・フェン王国水軍です」
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊の提督、ポクトアールは報告を受ける。
「フェン王国か・・・。ワイバーンロード部隊の通信が途絶している。新兵器を持っているのかもしれないな・・・。」
ポクトアールは声を張り上げる。
「相手を蛮族と侮ってはいかん!列強艦隊を相手にする意気込みで、全力で叩き潰すぞ!!」
艦隊は速力を上げ、フェン王国水軍へ向かって行った。
フェン王国水軍
「間もなく敵との距離が2kmに接近します」
報告があがる。
「あと1kmで敵の砲艦の射程に入るか・・・。」
水軍長クシラの額に汗が滲む。
「最大船速!!!オールを漕げ!!!」
各船からオールが突き出る。
太鼓のリズムに合わせ、一定のリズムでオールが漕がれ始める。
フェン王国水軍13隻は、速度を上げ、進む。
!!!!!!
「敵船が旋回しました!」
敵の艦隊が一斉に横を向く。
「何をする気だ!?」
水軍長クシラは、敵船の動きの理解に苦しむ。
パパパパパパッ・・・・・敵船が多数の煙に包まれる。
ドドドドドドーン・・・・少し遅れて炸裂音が海上に鳴り響く。
「ま・・・まさか!!!ま・・・魔導砲!?」
そんな馬鹿な!文明圏で使用されている魔導砲は、射程距離が1km、現在の敵との距離は2km、まだ倍もの距離がある。
しかも、こちらは艦首に1門だけ魔導砲を設置しているが、敵は・・・1艦あたりに比較にならないほどの数の魔導砲がある。
シュボンシュボンシュボンシュボン・・・・・
砲撃の落ちた場所に水柱があがり始める。
く・・・当たるなよ!!
水軍長クシラは神に祈る。
ドーーン・・・シュバーーーーーン!!!!!
旗艦剣神の後方を航行していた船に、敵の魔導砲が着弾する。
砲弾は炸裂し、船上に設置してある火矢を放つための油壺をなぎ倒し、撒き散らされた油に引火、船は爆発炎上を初める。
フェン王国の精鋭部隊が・・・鍛え抜かれた肉体、練習に練習を重ね、地獄のような訓練の後に得られた剣術が発揮される事無く船上で焼かれ、転げまわる船員
「なんということだ!!!」
次々と砲はフェン王国水軍に着弾し始める。
多数の船は炎上してゆく。
「少しでもけん制しなければ!!魔導砲撃てーーーーっ!!!」
旗艦剣神の船首に1門設置されている砲が、轟音と共に、球形砲弾を放つ。
次の瞬間、敵砲が旗艦剣神に着弾し、爆発!船上に大穴が開く。
「これが・・・列強かぁっ!!!」
砲艦の数、1艦あたりの砲数の差、砲の射程距離及び威力、そして艦の船速、どれもが桁違いであり、水軍長クシラは、力の差を思い知る。
これほどの差とは思わなかった。列強とは、文明圏内での規模のみの差で、「列強」と名乗っていると思っていた。
しかし、現実は違った。「質」、「技術」においても列強は文明圏を遥かに凌駕していた。
これでは、敵が1艦だったとしても勝てない。
水軍長クシラの意識は、燃え盛る旗艦剣神の弾薬室への引火と共に、永遠に失われた。
「フェン王国水軍の艦は13隻すべて撃沈しました。我が方の損失ゼロ、人員装備異常なし」
・・・・・
「・・・考えすぎだったか・・・。」
「敵はやはり蛮族でしたね、大砲を1発だけ撃ってきましたが、文明圏通常国の使用している、我が国からしたら、旧式の砲でした。艦隊の遥か手前に着弾しています」
「そうだな・・・進路をフェン王国首都、アマノキへとれ!!!」
艦隊は1隻の損失も、僅かな被害も出す事無く、さらなる敵を求めて東へ向かった。