望まぬ紛争
剣王シハン
「あれが日本の戦船か・・・まるで城だな」
正直な感想を洩らす。
「いやはや、ガハラ神国から事前情報として聞いてはいましたが、これほどの大きさの金属で出来た船が海に浮かんでいるとは・・・。」
騎士長マグレブが同意する。
「私も数回、パーパルディア皇国に行った事がありますが、これほどの大きさの船は見た事がありません」
彼らの視線の先には、海上自衛隊の護衛艦が8隻浮かんでいた。
「剣王、そろそろ我が国の廃船に対する日本の艦からの攻撃が始まります」
剣王シハン直々に、日本の外務省に頼んだ
〔日本の力を見せてほしい〕
その回答が今出る。
護衛艦のさらに沖合いにフェン王国の廃船が4隻、標的船として浮かんでいた。
距離は護衛艦から2km離れている。剣王シハンは望遠鏡を覗き込む。
今回はイージス艦とかいう船が、1隻だけで攻撃を行うらしい。
日本の船から煙が吹き出る、僅かな時間の後、音が聞こえる。
ダン・・・・ダン・・・・ダン・・・・ダン・・・・
4回、
直後、標的船は猛烈な爆発を起こし、水飛沫をあげ、船の残骸が空を舞う。
標的船4隻は、爆散、轟沈した。
「・・・・・・・これは・・・声も出んな・・・なんとも凄まじい」
剣王シハン以下フェン王国の中枢は、自分たちの攻撃概念とかけ離れた威力を目の当たりにし、唖然としていた。
1隻からの攻撃で、4隻をあっさり沈める。しかも、とてつもない速さの連続攻撃で沈めた。列強パーパルディア皇国でも、そんな芸当は出来ない事をここにいる誰もが理解している。
「すぐにでも、日本と国交を開設する準備に採りかかろう、不可侵条約はもちろん、出来れば安全保障条約も取り付けたいな・・・。」
剣王は満面の笑みで宣言した。
イージス艦みょうこうのレーダーを見ていた者は、西側から近づく飛行物体に気がついた。時速にして約350kmで、20機ほどが近づいてくる。
艦隊指令に報告があがる。
「西は、パーパルディア皇国という国があったな」
「はい」
「フェン王国の軍祭に招かれているのではないのか?」
「とは思いますが・・・一応確認をします」
その飛行物体はフェン王国首都アマノキ上空に至ったが、王国からの返答は無かった。
パーパルディア皇国 皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード部隊20騎は、フェン王国に懲罰的攻撃を加えるために、首都アマノキ上空に来ていた。
軍祭には文明圏外の各国武官がいる。その目前で、皇国に逆らった愚か者の国の末路はどうなるか知らしめるため、あえてこの祭りに合わせて攻撃の日が決定されていた。
これで、各国は皇国の力と恐ろしさを再認識することだろう。そして逆らう者の末路、逆らった国に関わっただけでも被害が出ることを知らしめる。
ガハラ神国の風竜3騎も首都上空を飛行している。
風竜が皇国ワイバーンロードを見ると、ワイバーンロードは、不良に睨まれた気の弱い男のように、風竜から目を逸らす。
「ガハラの民には、構うな。フェン王城と、そうだな・・・あの目立つ白い船に攻撃を加えろ!!」
ワイバーンロードは上空で散開した。
!?西側から飛行してきた、ワイバーンと呼ばれていた竜は、隊を2つに分けフェン王国王城に向け、急降下を始めた。
「何のデモンストレーションだ!?」
誰もが疑問に思った時、急降下していた竜が口を開け、口内に火球が形成され始める。
「!!!!!!!!!!!」
次の瞬間、10騎のワイバーンから放たれた火球は、王城の最上階に着弾し、木製の
王城は炎上を始める。
「!!!!!巡視艇いなさにワイバーン10騎が急降下中!!!」
イージス艦みょうこうの艦橋で悲鳴に似た報告があがる。
「いかんっっっ!!!!!!!」
次の瞬間、パーパルディア皇国の皇国監査軍東洋艦隊所属のワイバーンロード10騎は、直下約500m付近に停泊中の海上保安庁の巡視艇 いなさ に向かい、導力火炎弾を放出した。
巡視艇いなさ
軍祭に、事前情報の無い未確認機が多数接近中との自衛隊からの事前連絡を受けていた巡視艇いなさ は、エンジンを始動し、上空の監視を怠ってはいなかった。
「未確認機が我が方へ発砲!!!!!」
「エンジン出力最大!回避せよ!!!」
いなさは、出力を最大にし、移動を始める。
降り注ぐ火炎弾を次々と回避する。
いなさの後方で、海上に火炎弾が着弾する。
ドーーーーン・・・・
「ちっ!船体後部に被弾!火災発生!!!!!!」
火炎弾のほとんどを回避したいなさ、1発だけ船体後部に被弾した。
「消火活動を実施しつつ、最大船速へ!!!上空の監視を厳とせよ」
「何!!あのタイミングで、ほとんどかわされただとぉ!!?」
急降下から、水平飛行に移行したワイバーンロード10騎は、必中タイミングで撃ったにもかかわらず、そのほとんどをかわされた事に唖然としていた。
「くっっっなかなか消えないな・・・。」
導力火炎弾が命中したことによる火災は、炎が粘性を持っているらしく、消火活動に手間取る。
「正当防衛射撃を実施せよ!!!」
いなさの対不審船用の20mm機銃が上空を向く。対空用の機銃ではないのは、十分理解している。
しかし、自己の生命を守るため、「いなさ」は、持てる武器を上空へ向けた。
「はい現在正当防衛射撃中!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
タカタカタカターーーン・・・ピッピッピッピッピッピ
タカタカタカターーーン・・・ピッピッピッピッピッピ
画像により、上空を飛ぶワイバーンにしっかりと照準を合わせ、発射する。
曳光弾を交えて上空に弾は発射される。
連射の後、砲身冷却のため、一定時間艦内に電子音が鳴り響く。
いなさの放った弾は、10騎中1騎に着弾し、血飛沫をあげ、ワイバーンロードは、上空でのたうちまわる。
竜騎士は振り落とされ、海中へ落下した。
各護衛艦は、いなさが攻撃された時点で、「敵」への反撃の意思決定を下していた。
みょうこう の主砲が上空に展開する「敵」へ向く。
各護衛艦で的が重ならないように、振り分けられる。
FCS射撃管制システムにより、敵との相対速度が計算され、飛行する敵の未来位置で迎撃できるよう、寸分違わず、主砲の砲身が上空を向く。
次の瞬間、各護衛艦の主砲が炸裂し、上空にいたワイバーンロードはすべて消滅した。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
剣王シハン及びその側近たちは、開いた口が塞がらなかった。
ワイバーンロードは、間違いなくパーパルディア皇国のものだろう。
我が国が、ワイバーンロードを追い払おうと思ったら、至難の技だ。
1騎に対して一個武士団でも不足している。そもそも、奴らは鱗が硬く、弓を通さない。
バリスタを不意打ちで直撃させるか、我が国に伝わる伝説の剛弓、「ベルセルクアロー」を使うしか無いが、ベルセルクアローは、硬すぎて、国に3名しか使える者はいない。
戦闘態勢にあるワイバーンロードを仕留めるのは、事実上不可能に近い。
文明圏外の国で、1騎でもワイバーンロードを落とすことが出来れば、国として世界に誇れる。
我が国は、ワイバーンロードを叩き落すことが出来るほど精強であると・・。
それを、日本の奴らは、いともあっさりと、怪我をして動けなくなったハエを踏み潰すかのように、自分はほとんど怪我を負わず、列強の精鋭、ワイバーンロード竜騎士隊を20騎も叩き落してしまった。
しかも、日本の白い船は、軍ではなく、警察的な役割を果たす[武力を削った]船らしい。
日本は、文明圏外の武官が集まっている軍祭で、各国武官の目の前で、各国が恐れる
列強パーパルディア皇国の精鋭ワイバーンロード部隊を赤子の手をひねるように、叩き落とした。
歴史が動く、世界が変わる予感がする。
ワイバーンロードは、おそらく自分たち、フェン王国への懲罰的攻撃に来ていたのだろう。
日本をこの紛争に巻き込めたのは、天運ではなかろうか・・・。
剣王シハンは、笑いながら燃え盛る自分の城を眺めていた。
『すごいものだな・・・あの船は・・・』
風竜は感嘆の声をあげる。
『あの船から、トカゲどもに、人間にとっては不可視の光を浴びせ、船の砲はそこから反射する光の方向を向き、トカゲどもの飛行する未来位置に向かって撃っている・・・あの船は、見た目以上の技術の塊だな』
「そ・・・そうなのか?そんなにすごいのか!?」
『古の魔法帝国の伝承にある、対空魔船みたいなものだろう』
「ゲ・・・そんなにすごいのか・・・。帰ったら報告書が大変だな」
上空では、ガハラ神国の風竜騎士団長スサノウと風竜の間で、そんな会話が行われていた。
パーパルディア皇国、皇国監査軍東洋艦隊竜騎士レクマイア
フェン王国懲罰の命、簡単な仕事だと思っていた。栄えある列強パーパルディア皇国のワイバーンロード部隊にかかれば、フェンのような蛮族の国など、自分1騎で、1個騎士団を相手にしてもおつりが来る。
軍祭などという、各国武官や船まで招いての祭りが行われているのであれば、蛮族どもにパーパルディアの力を再認識させる機会にもなる。
フェン国などという、パーパルディアに反目する国の祭りに参加していると、痛い目を見るということを解らせるために、目立つ白い船を狙った。
しかし、その船は必中距離で放った導力火炎弾のほとんどを、信じられない加速でかわし、猛烈な光弾を放ってきた。
その光は弓をも跳ね返すワイバーンロードの硬い鱗を引き裂き、相棒に大きな傷を負わせた。
自分は海へ落下し、海上から上空を見上げたところ、仲間たちはさらなる悲劇にみまわれていた。
仲間たちは、他の超巨大船から放たれた大砲によって、木っ端微塵に吹き飛ばされていた。
大砲が空を飛ぶ物に当たるということも、理解しがたい現実であるし、この世で自分たちの敵となりうる存在は、列強しか無いと思っていたが、自分たちがなすすべもなく破れた相手に興味も持った。
彼は、海に浮遊中、自分が攻撃した白い船に、うきわ を投げられ救助された。
「竜騎士隊との通信が途絶しました」
!!!!!!!!!
艦隊に衝撃が走る。
「いったい何があった・・・。」
提督ポクトアールは嘆きたくなった。いやな予感がする・・・。しかし、これは第3外務局長カイオスの命である。
国家の威信をかけた命である。
実行しない訳にはいかなかった。
皇国監査軍東洋艦隊22隻は、フェン王国へ懲罰を加え、今回ワイバーンロードを倒した皇国にたてつく者に対し、各国武官の前で滅するため、風神の涙を使用し、帆をいっぱいに張り、東へ向かった。




