ロウリア王国の終焉
偵察ヘリOH-1が発射した自衛用の近距離空対空誘導弾(91式携帯式地対空誘導弾の改良型)は、敵機追尾中、金属製の落ちて来た物体に奇跡的にぶつかり、接触信管が作動したため、竜騎士には命中しなかった。
ムーラは西に向かって飛行していた。何故助かったのか、解らない。妻からもらったお守りは気付かないうちに落ちている。通信魔法具も壊れてしまっていた。
「もしかしたら・・妻が助けてくれたのかもな」
つぶやく
!!!??
何かを感じ、上空を見る。
自分の飛行しているはるか上空を、白い尾を引き、とんでもない速度で何かが多数西へ向かい、飛行していった。
ロウリア王国東部諸侯団
副将アデムはイラついていた
「どうなっているのですかぁ!」
部下たちは冷や汗を掻く。悲鳴と共に12騎の偵察隊とは、連絡が途絶えた。
導力火炎弾がついてくる、といった言葉を最後に連絡が取れなくなった者もいる。
「現在調査中でして・・・」
「具体的にどのような方法で調査しているのか!たわけがぁ!」
静まり返る。
将軍パンドールが話し始める。
「まあしかたがない。出来る事をしよう。本軍の護衛は?」
「ワイバーンが50騎常時直衛にあがります。残りはギムの竜舎で休ませています。もちろん、命あれば、いつでも出撃いたします」
「50も?多くないか?」
「いえ、今までの軍の意味不明の消失、もしかしたら敵はとてつもない力を手に入れたのかもしれません。本軍が壊滅したら、今回のクワトイネ攻略作戦は失敗します」
「そうか・・・。」
上空には多数のワイバーンが編隊を組み、乱舞している。その雄姿は何者が来ても勝てると思わせるほどの威容だ。
伝説の「魔帝軍の行進」でさえ、これほどの軍があれば、きっと跳ね返せるだろう。
しかし・・・敵はいったい・・・。
パンドールの思考は強制的に一時中断させられた。
上空を乱舞していたワイバーンのうち、16騎が突如として煙に包まれ、バラバラに寸断される。さらに8騎!見えない何かによって24騎がいきなり消える。
「なっ何だ!?何が起こったあ!」
やがて、東の空に黒い点が6つ、音も無く近づく。超音速!
6機各機が2発づつ光弾を放つ。
光弾は超高速で飛行し、それを避けようとするワイバーンに喰らい付く。
さらに12騎がバラバラにその肉体を寸断され、落ちていく。
「あああああああああ」
「バカな・・バカなぁ!」
様々な声が聞こえる。
軍上空を『それ』は凄まじい速度で通り過ぎた。矢じりのような形、灰色に塗られた機体、後ろから炎を2本吐きながらそれは通り過ぎた。
ドーーーーン!!!!!!
衝撃波が彼らを襲う。彼らが見たのは、マッハ2.5という猛烈な速度で軍上空をフライパスしたF-15J改の姿だった。
「は・・・は・・・速すぎる!!!!!」
「なんなんだ!!!!」
恐怖・・・。
しかし、悲劇は待ってくれなかった。
先ほど飛び去った敵の鉄龍が戻ってくる。さらに光弾を2発づつ発射・・・。
精鋭竜騎士団が一方的に殺戮されていく・・・。
ワイバーンの数こそが軍の力と思っていた。これだけの数のワイバーンがいれば、炎神竜にさえ勝てると思っていた。
それが・・まるで何かのゲームのように一方的に撃破される。
「ちく・・・しょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
上空から精鋭ワイバーン部隊が一掃された。
すぐに、東の空から大きい鉄竜が多数飛来する。
大きい何かが多数投下される。将軍パンドールの脳裏、先遣隊の消滅が頭によぎる。
「何だ、あれは!何かを落とされたぞ!!」
誰かが声を上げる。
ゆっくりと・・・・。
自分の・・・。
人生の・・・。
終わりを告げる・・・。
片道切符が・・・。
あの世が近づく。
光――。
灼熱の業火が軍を襲う。
それは一瞬の出来事だった。
将軍パンドールは、光と共にこの世を去った。
竜騎士ムーラは、西へ飛行していた。
クワ・トイネは蛮族を思い、舐めていた。しかし、偵察の際に見たのは、城塞都市エジェイの西側にて全滅した先遣隊の姿だった。
クワ・トイネ公国には魔王が味方にでもついたのだろうか?まさか・・・伝説の古の魔法帝国が・・・。その伝承に記されし、復活の刻でも来たのだろうか。
ムーラの脳裏に、世界でも知らない者はいないと言われるおとぎ話が思い出される。
かつて、世界を統べた大帝国があった。
古の魔法帝国、絶大なる力をもって、すべての種を統べる者たち。1人1人が人間より遥かに高い魔力を持ち、高度な知識を有し、超高度文明によって他の種から恐れられた人間の上位種、彼らはその高すぎる文明ゆえに、神に弓を引いた。
怒った神々は、古の魔法帝国のあったラティストア大陸に星を落とす。
星の落下を防げないと判断した帝国は、ラティストア大陸すべてに結界を張り、大陸ごと時を超越する魔法をかけ、未来に転移させた。
『復活の刻来たりし時、世界は再び我らにひれ伏す』と記載された不壊の石版を残し・・・。
ラティストア大陸の外れに少数住んでた魔帝の生き残りを、人間は数で圧倒、吸収、絶滅させ、出来たのが、誰もが認める世界最強の国、中央世界にある神聖ミリシアル帝国と言われている。
ゆえに、神聖ミリシアル帝国は、古の魔法帝国復活を恐れていると言われている。
ムーラは、自分たちが戦っている相手は、もしかしたら、古の魔法帝国なのではないかと思い始めていた。
2万もの強軍の全滅、追尾してくる導力火炎弾、どれも常軌を逸している。
ドーーン・・・ドンドンドーーン
鈍い音が響く。
前方に、火山が噴火したかのような猛烈な火炎が上がる。
「ま・・・まさか・・・あの位置は!」
嫌な予感、彼は本隊へ急ぐ・・・。
彼が本隊上空へ達した時、その予感は的中している事を知る。
そこには黒く焦げた人間だったものが散乱していた。
数日後――――――
ロウリア王国首都 ジン・ハーク ハーク城
6年もの歳月をかけ、列強の支援と、服従と言っていいほどの屈辱的なまでの条件を飲み、ようやく実現したロデニウス大陸を統一するための軍隊、錬度も列強式兵隊教育により上げてきた。
資材も国力のギリギリまで投じ、数十年先まで借金をしてようやく作った軍、念には念を入れ、石橋を叩いて渡るかのごとく軍事力に差をつけた。
圧倒的勝利で勝つはずだった。
これが、日本とかいうデタラメな強さを持つ国の参戦により、保有している軍事力のほとんどを失った。
当初、国交を結ぶために訪れた日本の使者を、丁重に扱えば良かった。もっとあの国を調べておくべきだった。
ワイバーンのいない蛮国?とんでもない。
ワイバーンが全く必要の無いほどの超文明を持った国家ではないか!
軍のほとんどを失った。残っていたはずの船団も、夜間停泊中に空からの猛烈な攻撃を受け、港ごと灰燼に帰した。
こちらの軍は壊滅的被害を受けているのに、相手は、日本人は1人も死んでいない。
とてつもないキルレシオ、文明圏の列強国を相手にしても、ここまで酷い結果にはならないだろう。
もっと、最初にきちんとした対応をとるべきだった。くやんでも、くやんでも、くやみきれない。
敵は、もうそこまで来ている。
首都上空を我が物顔で、羽虫のような機械が飛びまわっている。
ワイバーン部隊も全滅した。
もう、どうしようもない・・・。
タタタタ・・・タタタタ・・・。
連続した聞きなれない音が王城の中で聞こえる。
近衛兵の悲鳴が聞こえる。
ドン!
王の謁見の間に、緑色のマダラ模様の変な軍がなだれ込んでくる。
その中に、5人ほど、青い服を基調とした兵が混じっている。
手には、魔法の杖のような物を持っている。
剣は帯剣していない。どうやら全員魔術師のようだ。
王の脳裏に、古の魔法帝国軍、魔帝軍のおとぎ話が浮かぶ。
「ま・・・まさか・・・魔帝軍か!?」
ハーク・ロウリアは恐怖に慄き、尋ねる。
青い服の者が、王に迫る。
「魔帝軍というのは、よく解りませんが・・・。日本国、警視庁の青木といいます。あなたは、クワ・トイネ公国のギムにおいて、大量殺戮を指示した罪で、逮捕状が発せられています。逮捕状は別の者が持っており、今ここには無いため、緊急執行しますね。後で見せます。」
ハーク・ロウリアの両手に手錠がかけられた。
ロウリア王国編は、プロローグです。
いまから本編みたいになっていくため、引き続きよろしくお願いします。
更新が遅いのはごめんなさい。
頑張ります。




