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火炎王の宴②


 ジューンフィルアは、2万の大軍が隊列を整えているのを眺め、満足していた。


 壮大な眺めであり、兵の士気、錬度も高い。

 日本なる国がいかに強くても、簡単にはやられはしない。


 !?・・・・突然、興奮していた頭が冴える。不思議な感覚、敵はまだいない・・・。

 何故だろう、確かな死の予感がする。いったい何なのだろうか?


 ドーン!!!バラバラバラバラバラドーン!!!!!!


 「な・・・何だ!!!???」


 味方の中で大爆発が立て続けに起こり、味方が消滅する。そして、小さな爆発が味方をなぎ倒す。

 何かが弾け、兵がバタバタ倒れる。


 「バ・・・バ・・・バ・・・バカなぁっつ」



 クワトイネの将軍、ノウは、その光景が信じられなかった。


「なんだ?これは・・・。敵陣で火山が噴火したのか?」


 爆散し、煙に包まれる敵、次々と大爆発し、そして小さな黒い花が咲く度に、敵がなぎ倒される。

 敵は錬度も高く、隊列も極めて整っていた。整然と整列していた敵の姿が掻き消える。まるで蟻に火炎の魔法をかけたかの如く、文字どおり消滅する。

 小さな範囲で爆発が起こるのではない。

 広く、広大な範囲で展開していた敵が!強敵が・・・己の人生をかけ、長い時間をかけ、鍛えあげてきたであろう武技を発揮する事無く、一方的に虫のように殺される。

 そこに、華やかな戦いや騎士道は無く、ただただ効率的に殺処分される哀れな敵。


「な・・・な・・・なんという威力の爆裂魔法だ!!!なんという魔力投射量だ!!日本軍はすべての兵が大魔導師クラスなのか!?いや、大魔導師6000人でもこの威力は無理だ!日本は神龍でも味方についているのか!?」


 城塞都市エジェイの城内から、クワ・トイネの住民たちは、ただ唖然としてその光景を眺めていた。




 ジューンフィルアは効率的に殺処分される大量の部下を見て絶望していた。

 今まで戦ってきた戦友、歴戦の猛者、優秀な将軍、家族ぐるみの付き合いのあった上級騎士、共に強くなるため汗を流した仲間たち。

 すべてが・・・虚しくなるほど、泣きたくなるほど、あまりにもあっさり死ぬ。

 死神は、彼だけを逃がしてはくれなかった。

 押されたような衝撃とともに、自分の体がバラバラになって飛んでいく姿、それが彼の人生最後の記憶になった。

 耕された大地、その強大な魔導が去り、土煙が去った後、ロウリア軍に立っている者は馬を含めて1人もいなかった。



 ノウは眼前の攻撃を目にし、何と形容していいのか解らなかった。

 自分たちの戦闘概念からかけ離れた短時間の猛烈な攻撃により、強力な敵、ロウリア軍は消滅した。

 

「これが・・・日本軍の・・・強さだというのか・・・。」


 自分の兵はまだ1人もロウリア軍と戦っておらず、部下に死者は出ていない。

 本来喜ぶべきこの状況の中で、彼は1人敗北感を味わっていた。



 クワ・トイネ公国政治部会


「・・・・以上が日本軍と、ロウリア軍のエジェイ西方の戦いの報告になります」


・・・・・・・・・・・・


「では、誰も日本がどうやって高威力爆裂魔法を使用したか、見ていないのか?」


「はい、報告書のとおり、日本は駐屯地から攻撃を行ったとの事であります」


「何を言っている!日本の駐屯地から、今回の高威力爆裂魔法が使用された戦場まで、13kmは離れているのだぞ!!13kmも!そんな魔法は古代魔法帝国の御伽噺でしか聞いたことが無いわ!!」


 会場がざわつく。

 手を挙げて、首相カナタが会場を静まらせる。


「手元の資料を見てほしい」


 日本から安く輸入した上質の紙が議員に配布される。


 ロウリア・・・首都攻撃許可願い!?


「日本は我が国から発進した鉄龍で、ロウリアの首都の一部を強襲し、ロウリア王を大量殺人罪で逮捕したいとの事だ。併せてエジェイとギムの間に展開する敵、ロウリア王国クワトイネ征伐隊東部諸侯団と、ギムの西側を国境から我が国内を東へ進軍する本隊に対し、鉄龍と共に、地上部隊を投入して攻撃したいとの事だ。敵主力がギムから出ているため、攻撃がもしも成功すれば、我が国も軍を送り、ギムを奪還したいと思う」


 ザワザワザワザワ・・・場がざわつき始める。


「別にいいんじゃないか?得しかないし」


「いや、他国の地上軍が侵攻するのは・・・」


「しかし、このままでは我が国は滅ぶ・・・今回は日本に頼るしかないのではないか?」


「敵の首都・・・うまくいくとは思えないが・・・。」


「しかし、うまくいけば、今回の戦争が終わる・・・。もっとも被害の少ない方法だ」


 政治部会では、全会一致で日本軍の国内及びロウリアでの陸、海、空の戦闘許可を行った。



 ロウリア王国クワトイネ征伐隊東部諸侯団

 ギム東側20km地点・・・。


「先遣隊に連絡はとれないのか!?」


 副将アデムが、軍の通信隊を怒鳴りつける。


「導師から、魔通信を送っていますが、返信がありません」


 昨日から先遣隊が消息を絶っている。

 先遣隊とはいえ、2万もの軍、1会戦としては非常に多い大軍だ。通信を送る前に全滅するなんて事は考えられなかった。


「偵察隊はどうなっている?」


 アデムは偵察隊として、ワイバーン12騎をエジェイへ向け放っていた。


「間もなく先遣隊の消息を絶った付近の上空です」




ロウリア王国クワトイネ征伐隊東部諸侯団所属、ワイバーン小隊 竜騎士ムーラ


「そろそろ・・か」


 エジェイ周辺の偵察隊12騎は、それぞれ分かれ、様々な方向に向かっていた。ムーラはその中でも先遣隊が消息を断った付近が割り当てられていた。

 今日は少し涼しく、晴れた空ではあるが、雲が多い。少し飛び辛いが気分は良い。

 先遣隊が消えた。

 彼の任務は状況の確認・・・。


「ん!?・・・」


 何か、人の鎧の後が見えた気がした・・・・上空に達する。


「な・・・なんだ!!!これは!!」


 月に見られるクレーターのようなものが、あちこちにある。そして、クレーターの無い所にも、元人だった物が放置されている。

 人の一部や馬のパーツもすべて混ざっていた。そして、ロウリア王国の悪魔の象徴である漆黒の鳥がその肉をついばんでいる。

 着陸してみる。

 動く人間は、1人もいない。


「全・・・・・滅?」


 そんなバカな・・・。恐怖・・・。

 グワァッ!グワァッ!

 相棒のワイバーンが警戒の鳴き声を発する。

 ワイバーンは東の方向を見ている。

 バタバタバタ・・・

 微かな音、空気を叩く音が微かに聞こえる。目を凝らす。竜騎士の視力は抜群に良い。


「あの竜は何だ!?」


 遠い・・・けし粒のような大きさの黒い点が見える。何か、魂の無い者、竜というよりはむしろ物。


「!!!!!!!!!!!!」


 突如としてその竜から煙が吹き上げ、小さな火炎が音速を超える速度で自分に向かってくる。


「導力火炎弾か!」


 遠い・・・そして速い!自分のワイバーンの導力火炎弾よりも遥かに射程距離は長いようだ。これほどまでに遠いとは、ワイバーンロードをも凌駕しているかもしれない。

 しかし・・。

 ムーラは飛び立つ。いくら遠くから速い攻撃を受けても、気付いていれば避けることができる。こういった攻撃は、不意打ちでこそ効果がある。

 敵の目は悪いようだ。


「!!!ついてくる!!!」


 敵の火炎弾は曲がって自分についてくる。


「うわぁぁぁっぁぁぁ」


 全力で飛び立ち、ワイバーンで後ろに付かれた時の戦術、ジグザグ飛行を行う。敵の火炎弾は、その度向きを変える。そんな攻撃は聞いたことが無い。


「導力火炎弾がついてくる!!」


 ムーラは魔通信具に向かって叫ぶ


「ち・・・ちくしょう」


 顔に叩きつけられる合成風、死の予感、脳の中を様々な思考が廻る。


(「いってらっしゃい」妻は、戦に行く時、笑顔で送り出してくれた。「ほら、お父さんにいってらっしゃいは?」「あっ、あっ」1歳になったばかりの娘が笑顔で抱きついてくる。「これ・・・お守り、持っていって」良く解らない軽い金属性の物体を渡された。いつもお守りとして腰に着けている。)


「死んで・・・たまるかぁぁあ!!!!」


 急上昇、導力火炎弾は、やはり軌道修正し、自分に向かってくる。急降下・・・。

 腰に着けた妻からもらった大切なお守りが外れる。

 火炎弾が迫る。


 ダーーーン!!!!!!!!


 ムーラの後ろで火炎弾が何故か爆発した。

 彼とワイバーンは西の空に向かって帰って行った。



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― 新着の感想 ―
[一言] この世界にも月はあるんですね。お月見ができる。
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