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魔法少女は誰かを愛しちゃダメなんですか 作者:貞治 参

第1章

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Ep. 06 シズノート:ナツメの指導編

「サカキ先生、うちのクラス、どんな感じです?」

「ナツメ先生のクラスの生徒さんたちは、みんな良い子ですよ。落ち着きがありますし、基本的に課題は出してくる。授業中も静かなもんです」

「そうなんですか、良かったです。自分のクラスのことですけど、他の授業中のことはなかなかわからないもので」

「まあ、そうでしょうな。うちも、私の受け持っている生徒が何かやらかしていないかとヒヤヒヤですよ」

「サカキ先生のクラスって……」

「いえ、そんなに問題児と言えるほどの子はいないと思いますよ。ただ、一人、気になる生徒がいましてね……」

「あ、それって、もしかして」

「や、ナツメ先生がうちのクラスの社会の担当でしたな。そうです、シズですよ」



 職員室、机の隣り合っている二人の先生が話している。

 まだまだ教師としては新人のナツメは、年上のサカキに指導してもらうことが多い。

 ナツメは社会を担当しており、サカキは数学の先生である。

 今話題になっているのは、サカキが担任を務めているクラスに属する一人の女子生徒のことであった。サカキもナツメもどちらも中1クラスの担任だ。

「それで、どうですかな、うちのシズは。授業中、どんな様子ですか」

 サカキの問いに、ナツメは答える。

「うーん、なんて言ったら良いんでしょう。授業中は一見真面目にしているようなんですが、上の空に近いのかもしれません。黒板の方をじっと見つめて、でも私の話を聞いている、という感じでもなくて。前にノートの提出をしてもらったときも、所々、真っ白なページがあったりして、授業に身が入っていないように感じられました」

 サカキは腕を組んだ。

「そうですか……。や、私の担当の数学の授業のときもそうなんですよ」

「ああ、私のときだけじゃなかったんですね」

「ええ。他の先生も似たようなことを言っていまして……。この学年、特におとなしい生徒が集まったみたいなので、シズはちょっと目立っているんですよね」

「そうですね、まだ中1で慣れていないからかもしれませんが、騒がしくしている子たちもいないですし……。だからいっそう気になってしまうのかもしれないですね」

「それで、どうでしょう」

 サカキは組んでいた腕をほどき、自分の膝に両手を乗っけて言った。

「もし、ナツメ先生がよろしければ、一度お話を聞いてもらえませんか?」

 ナツメは驚いた。

「え、担任でも副担任でもない私が、ですか?」

「ええ、私ら、年が結構離れていますし。ナツメ先生のほうが、何かと話しやすいんじゃないかと思いまして……」

「はあ、それは構いませんが……」

「実のところ、私、シズには軽く無視されていましてですね」

「なるほど……。それで、私に、と」

「ええ、お願いします」

 やや考え、ナツメは頷いた。

「分かりました。どれだけお力になれるかわかりませんが、やってみたいと思います」


 …………
 ……


 放課後の職員室。その一角にある、普段はお客さんとの面談をするスペースにシズはやってきていた。ソファーに座って、ぼうっとしている。

「ごめんなさいね、待たせちゃって」

「いえ」

 ナツメは持ってきたお茶をシズに差し出した。

「何の用ですか」

 お茶に目もくれず、シズが尋ねる。

「私、呼び出されるようなことしましたか?」

 シズが疑問に思うのも無理もないだろう。取り立てて悪さをしているわけではないのだから。

「ううん、そうじゃないんだけど、ちょっとお話できたらなって」

「なんでナツメ先生なんですか」

「ちょっとシズさんの授業中の様子を見て気になったものだから」

 サカキから打診されたことは伏せておく。

「私、真面目に授業を受けています」

「うん、そうなんだけどね」

 ちゃんと考えておくべきだった。どう切り出したら良いものか。

「用がそれだけなら、私、帰ります。悪いことなんてしていませんから」

 シズが立ち上がる。

「ああ、待って待って」

 ナツメは慌ててシズをソファーに座らせた。



「シズさんは、」

 ナツメは必死に言葉を探し出して、話をつなぐ努力をした。

「最近、何か、楽しいことあった?」

 やっとのことで言葉にしたものの、それはこの場には不似合いのようにも思われた。

「なんでそんなこと聞くんですか」

 しかし、案外、何気ない言葉が突破口を開くものである。

「楽しいことなんて、あるわけないじゃないですか」

 ナツメは、取っ掛かりを見つけた、と思った。

「そうなんだ。学校生活、楽しくないの?」

「全然」

 表情は変わらない。

「なんでこんな無意味なことしているのか、全然わかりません」

「無意味?」

 シズが自分から話してくれている、そのことに少しだけ感動を覚えた。

「なんのために勉強するんですか? なんのために学校に来なきゃいけないんですか? なんのために」

 少しの間があった。

「生きていなきゃいけないんですか」



「……そう」

 ナツメ自身、学生だった頃、このような問いを覚えた記憶がある。しかし、どうやってそれを解消したのかは覚えていない。いや、解消などしていないのかもしれない。ただ単に、その問いを避けて生きてきた……。それだけなのかもしれない。

「なんのために、か」

 だから、ナツメは、その問いに直接答えることはできなかった。

 しかし、ナツメには、シズに伝えることのできるある想いがあった。

「シズさんは、どの教科が一番好き?」

 唐突な質問に多少戸惑った気配が見られた。それでも、答えてくれた。

「……国語、です」

「そうなんだ。私はね、社会が好きだった。その中でも特に歴史が好きだったの」

 シズが興味なさそうに頷いた。

「だから、大学まで進んで歴史の勉強をした。でもね、」

 ここで、わざと間を空ける。願わくば、少しでも興味を持ってくれることを祈って。

「私たちが教えている今の歴史には、足りない部分があるってことがわかったの」

「足りない?」

「はっきり言ってしまうと、私は、私の授業で教えている歴史は、ある程度しか正しくないと思っているの」

「間違っていることを教えているってことですか?」

「もしかしたら、そうかもしれない」



「教科書に載っている歴史には、故意に作られた部分があるみたいなの」

「作られた? 誰が作ったんですか」

「それが、わからないの。このことを知っている人は、大学でも一部の研究室の人たちだけみたい。しかもそれを公に公表することはしないみたいなの」

「なぜ、間違っていることを間違っていると指摘しないんですか」

「それも、私にはよくわからない。私は、シズさんの言う通り、指摘するべきだって思っているからこうやって話しているんだけどね」

 ふーん、シズは頷きかけて、止めた。

「それって、知っている人は消されるとか、そんなアブナイ話じゃないですよね」

 ナツメは、ここで少し、思わず笑ってしまった。

「ふふ。ゴメンゴメン。多分、そんな物騒なことじゃないよ。それにしても、そんなふうに考えるのは、そういう物語を読んだことがあるから?」

 シズは顔を赤くして頷いた。

「へえ」

 ゴホン、と咳払いをして、話を戻す。



「で、私はね、シズさん、その歴史を知りたいと思っているの。教科書には載らない、本当の歴史。私の勘によれば、1年前のルートと魔物の出現が鍵になると思ってる」

 シズは少し目を見開いた。

「なんで生きているか、なんて私には、実は答えられないんだけど……。でも、知りたいことがあるのに、死んじゃいたくないでしょ」

「……」

 シズは無言で無反応で、だが、確かにナツメの言葉を噛み締めているように見えた。

「だから、私は今も勉強中。本当の歴史をね。シズさんも私みたいに興味を持って、とは言えないけれど、何かシズさんを驚かせてくれるような、そんな体験や知識が得られるといいわね」

 シズはこっくりと頷いた。


 …………
 ……


「その後、どうですか、シズさんの様子」

 放課後の職員室、ナツメがサカキに問いかける。

「うーん、あんまり変わった様子ではないですね」

「そうですか……」

 ナツメは嘆息した。

「でも、授業中以外では、図書館に通うようになったみたいですよ」

「え!?」

 ナツメは少し驚いた。

「まあ、読んでるのは小説ばかりだと思いますが」

 それでも、私の言葉がシズの何かを変えるきっかけになったのなら、こんなに嬉しいことはない。今の変化は、とてもとても小さいものではあるが。

「や、ナツメ先生には感謝してますよ。未だに私は無視されていますからね」

「いえいえ。そんな、大したことできなくて」

「これからもシズのことをよろしくお願いしますよ」

「はい」

 ナツメは、少しの興奮とともに図書館に向かったのであった。
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