僕は、劇的な再会を果たした。
――とは言っても、三年前に引っ越した同級生がたまたま休みを利用して、引っ越す前のこの町に帰ってきただけ。
それでも、僕には劇的に思えた。
何しろ、僕は彼女に恋をしていたのだから……。
それはさて置き、再会した場所が小さい頃から菓子類を買っていた駄菓子屋だった。
“平凡”――その二文字に、三年の時が一気に逆流したのでは?と思うほどであった。
中学の頃引っ越した彼女は美しくなり、それでもまだあの頃の幼さを残していた。
「……宮口さん?」
違ったらとんだ間抜けだ。彼女が僕の声に気付きこっちを向く。
「あ、……誰だっけ?」
お約束だった。最早、僕のことなど忘れているのであろう……。
「中学の頃同じクラスだった……」
「カラス君でしょ? 憶えてるよ」
ちょっと安心。彼女のちょっとした冗談だったようだ。
それにしても、中学の頃のあだ名で呼ばれるとは……。
「何であだ名?」
一応聞いてみる。
「中学の頃みんな言ってたから、そっちの方が印象強くて」
「あははは」
笑うしかない。
あだ名の由来は、放課後餌付けして手懐けさせた烏を、友人の一人に見せたのがきっかけだったような……ま、それが瞬く間に広がり、あだ名定着完了という訳である。
……口コミって怖いね。
「みんな、元気?」
「うん、まぁ……。連絡取り合ってる奴は大体……」
「そっかぁ。私ね、中学の頃からずっと好きな人がいるんだ」
突然の告白。
いや、少なくとも僕に対しての言葉ではない。そうでなければ、僕に打ち明けたりしないだろう……普通は。
「そうなんだ?」
深追いは避けたいところだ。
「うん。でね、その人に想いを伝えに帰ってきたの」
それは凄い。関東に引っ越した彼女が、わざわざ東北のこの地まで想いを伝えにくるとは……。
普通できない。気持ち的にも財力的にも。後者は特に高校生には厳しいところだ。
「そうなんだ」
深追いはしない。
「さっきからそればっかだよ?」
「ごめん」
お手軽な返答をしていたら、あっさり指摘を喰らってしまった。
「そうだ! ねぇ、カラス君は彼女いるの?」
……いない。
いないから、心がイタい。クリティカルヒット、痛恨の一撃、効果抜群、僕大ダメージ。
「…………」
HPが九割ほど削れた。瀕死間近を知らせるあの機械音(ポケ○ン)が脳内に響く。カラータイマーでもオッケー。
「ごめん。いないんだ?」
謝る彼女が何処か嬉しそうに見えた。
多分、こういうのを“微かな希望を抱く人が見る幻想”と言うのだろう。
「あ、あははは……」
――場所を移して、ここは地元の公園。
「懐かしいなぁ〜、何も変わってないんだなぁ〜」
彼女は天真爛漫の笑みでそう言った。
「まぁ、三年振りだしね」
「あの頃が懐かしいなぁ〜」
「やりたい放題だったしね、みんな」
授業中の私語を始め……色々、良いとは言えない行いを散々やっていたからなぁ。
無論、僕自身もそんな感じであった。
「あははは」
彼女は苦笑して、ベンチに腰掛けた。
僕もその隣に座る。
心拍数が上がる。
「宮口さんは、いつまでこっちにいるの?」
「それなんだけどねぇ……明日、帰らないといけないんだ」
彼女の顔が曇る。
「じゃあ、早く想いを伝えにいかないと」
「いいの。会えただけで嬉しかったから」
彼女はそう言い、笑みを見せる。
「でも………」
言葉が詰まった。結局は彼女が決めることだ。僕が口出しし
ても意味はない。逆に大きなお節介である。
「優しいんだね」
その言葉の後、彼女の唇が僕の頬に触れた。
「!?」
「お礼」
小悪魔的な笑みを浮かべて彼女が言った。
天真爛漫とは良く言えたものだ。
「私、もう帰らないと」
そう言い、彼女は手を出す。
「何?」
「携帯よ、携帯。メールアドレス、せっかくだから交換しましょ?」
「え……あ、うん……」
携帯を取り出し、アドレスを交換した。
「じゃ、私帰るね」
携帯を閉じて、彼女は立ち上がった。
「送ろうか?」
「いいよ、大丈夫だから。じゃあね」
彼女は小さく手を振って歩いていった。
――その晩、彼女からメールが来ることはなかった。
結局、向こうに帰る電車の時間も聞けず、見送りにも行けなかった。
それから、数週間が経って一通のメールが来た。
宮口さんからだった。
“ありがとう。好きでした”
その二言が僕には凄く痛かった。
あの時、何故自分から言えなかったのだろう。
どうしてこう、間が悪いのだろう……と。
それがきっかけでアルバイトを始めた。
土日だけだけど、一日、土木工事現場の周辺で警備員をやっている。
「新人! 熱心だな。寒い中、良く頑張ってるな!」
バイト先の棟梁がコーヒーをくれた。
「夏に、会いに行かないといけない人がいるので」
「熱々だねぇ!」
棟梁は「がははは」と笑いながら僕の背中をバシバシ叩く。
僕はただ、あの時のことが忘れられないだけで。
だから、夏に会いに行くんだ。
彼女に……。
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