〜特別編〜ある家族とゆかいな狐と縦書き表示RDF


この作品を投稿するに当たって…宮座頭数騎様のご協力と善意によってこのコラボ作品が生まれました。前書きに変わりここに感謝いたします。
〜特別編〜ある家族とゆかいな狐と
作:サイレンス


春麗…まだ、ムサシ達が中学二年生の頃、簡単に言えば三年前のある春の日の出来事でありました。

春の陽気に誘われて、いつものように日当たりの良い居間に寝転がる銀髪の女性、武蔵たけくら零は大きな欠伸をしながら、すぐそこの台所で食器を洗う…零曰く、史上最強の家政夫であるナオキの名前を呼んだ。
「ナオキ〜!私、甘いものが食べたい」
「戸棚の奥に角砂糖があるぞ」
「嫌よ、この前、角砂糖舐めたけどおいしくないんだもん」
「…実行済みだったか」
洗物を終えたナオキは濡れた手をタオルで拭きながらやる気なさそうに寝転がる零を見る。
「とりあえずだな…俺の条件を二つ叶えたら昨日作ったイチゴタルトをおやつに出してやろう」
「二つの条件?あまりハードなものは嫌よ」
「何、簡単だ。まず一つ、玄関先に置いてある洗濯物を干してきてほしい。そして二つ目…とりあえず服を着ろ」
昼間から下着で寝転がる零を見下げたナオキはため息を吐くしかなかった。これでも伝統ある武蔵家の当主だというのに…
「え〜と…まずは洗濯物干してから服着ればいいのね」
「無理にとは言わないが…出来れば順序を逆にしろ。明日の三面記事に『下着姿の女性、人目はばからずに洗濯干し』なんぞというものに載りたくはないだろ?」
「…そういうリアルで生々しい事を言わないでよ。私はいつまでもうら若い乙女でいたいのよ」
「とりあえず乙女はそんな下着姿で昼間っから居間で寝転がっちゃいないよ」
「…それもそうね。とりあえず洗濯物干してくるわ」
「だ・か・ら!服を着ろというのにっ!!」
「あ〜、すっかり忘れてたわ」
平然と一番重要な点を忘れ、アハハと笑う武蔵家当主。そして、呆れる事を通り過ぎ、沸々と怒りが沸いてくるのを覚える家政夫であった。

「洗濯物といってもねぇ…」
ようやく『服を着る』という大人としての第一関門を突破した零は、青いプラスチック製のカゴに入っている洗濯物の山を見た。
「半分近くは私の服なのよねぇ…」
零はボヤキながら、よいしょとカゴを持ち上げた。四人分の服とはいえ、ある人物のおかげで普通の家庭の洗濯物の2倍の重量のある洗濯カゴを持ち上げるには苦労がいる。
「うぅ…か弱い乙女には重過ぎるわ…」
そんな独り言を呟きながら、零はよろよろと十メーターくらい離れた物干し竿がある場所へと歩いてゆく。

目の前の障害物なぞ知らずに。

ドンッガジャシャーーーーシャン!!

「ん…ベタな効果音だな」
イチゴタルトを冷蔵庫から出していたナオキは外の騒音に思わず手を止めた。たかが洗濯物を干すことに、なぜあんな音が出るのだろうか。
「な、な、ナオキぃ!!」
「どうした零?そんな見ちゃいけないものを見てしまったけどそれがとても可愛かった…みたいな顔をして」
「外に…耳の生えた変な生き物踏んじゃった!」
「…新手の『萌』か?」
「ホントよ!!尻尾も生えてた!」
「…ネコミミか?」
「ちょっと違うような…もうちょっと茶色い…」
「あぁ、イヌミミか」
「まだ遠いわ…とりあえず外に見に来てよ!まだ転がってるから!」
「…死体遺棄だな」
「うるさいっ!!」
取り乱す零に、やれやれ…とナオキは重い腰を上げた。今の世の中、ネコミミ付けたコスプレイヤーなぞいてもおかしくない。ただ、こんな田舎までコスプレイヤーがわざわざ来るだろうか?
「どれどれ、ネコミミ付けたコスプレイヤーは…っと」
外履きのサンダルに履き変えながら、ナオキは一足先に飛び出した零の後を追う。
「ほらっ!耳と尻尾が生えてるじゃない!」
零は玄関と物干し竿の間にぐったりと倒れている耳と尻尾付きの子供…だろうか、小さな人…すらも怪しいが、倒れていた。
「お〜、確かにコスプレイヤーだな」
「冗談言ってる場合じゃないわよッ!ちゃんとここから耳が生えてるじゃないの!」
「お〜、最近のコスプレ技術は凄いもんだなぁ」
「…ナオキ、ぶん殴るわよ」
冗談だよ、とナオキは、拳を今にも振りかざしそうな零に苦笑いを返す。
「とりあえず、耳と尻尾付きのこの子を空いてる和室に運ぼう。話はそれからだ」
「まだ生きてるの?この子?」
「死んでたら一大事だよ。下手すりゃ戦争もんだ」
ナオキはその子をひょい、と抱え上げると、慌てふためる零と共に武蔵家へと踵を返した。

「……あれ、ここはどこっすか?」
「ん…目が覚めたかな?」
数時間後、ようやく目を覚ましたコスプレっ子に気が付き、ナオキは読んでいた洋書を閉じた。
「オイラは一体…」
「それはこちらが聞きたいね。ところで、その耳と尻尾は本物かい?」
ナオキは時折、大きな耳を動かす子供に笑い掛けた。
「…なんて。いや、しかし参ったな。まさかこんな所に狐が現われるとはな」
「…オイラの正体に気付いたんすっか」
「ハハッ、かく言う俺も正確にはヒト科の人間類ではないんでね。寿命が長いのはお互い様さ、玉藻烈狐丸クン」
ナオキが、そういうと、『玉藻烈狐丸』と呼ばれた小さな狐は少し驚いた表情を見せた。
「オイラ、そんなに有名だったんすね」
「まぁね。しかし何故、こんな所に。ましてや、何故ウチの零に踏まれるなんて」
「いや、それはオイラだって避けようとはしたっすよ…」
「全く、済まない事をした。…起き上がれるかい?」
「大丈夫っす」
ぴょん、と布団の中から烈孤丸は飛び上がった。
「零、よかったな、大丈夫だってよ」
「…ごめんなさい」
一部始終を襖の隙間から申し訳なさそうに見ていた零は烈狐丸と目が会うと、頭を下げた。
「いや、いいっすよ!そんなに謝らなくてもッ!ビックリしただけっすから!」
「ホント…ごめんなさい…だから…戦争だけは勘弁してください!妖怪大戦争だけはッ!」
「あの…この子は何を言っているんすか?」
「…気にするな、武蔵家の人間ってはみんなそんなもんだ」
必死に謝り続ける零にナオキは苦笑いを烈狐丸に見せた。
「とりあえず…俺はナオキだ。そしてそこで今だに謝り続けるのが武蔵たけくら零」
「オイラは玉藻烈狐丸っす!よろしくっす!」
「…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「…零、そうお経みたいなごめんなさいを唱えるのは止めてくれ。なんだか非常に怖いから」
「だって…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」
「確かに…烈狐丸は『善狐』の最上位の『天狐』であってとてーーも偉い訳だが、本人ももう謝らなくてもいいと言っているわけだし…」
「そうっすよ!もう顔を上げてくださいっす!」
「…じゃあ…お言葉に甘えて」
と、零はごめんなさい経を止め、ようやく顔を上げた。
「で…烈狐丸クン。君は何故こんな人里…しかもこんな田舎に来たんだい?まさか自然が恋しくなったというのは無しだよ」
「それは…多分、力に引かれたんだと思うっす」
と、烈狐丸はナオキを見上げる。
「力?…確かに強大な力があるものはもう一方の力に引かれやすいとはいうが…」
「…気付いたらここにいたっすよ。どうやってきたとかは憶えが無いっす…」
「ふむ…もしかしたら烈狐丸クンはこの武蔵の土地に引かれたのかもな。元々ここは霊力が強いことだし、妖怪の君が引かれるのも無理はない話だ。それに…俺のチカラや、零の潜在能力にも引かれるものがあったのかも知れないし」
なるほど〜、と零は一人頷く。
「とりあえず、私とナオキとついでにここの土地の力が強いからこの烈狐丸ちゃんがここに呼びよせられたわけね」
「零、今から今の発言の間違いを指摘するぞ。まず一つ目。烈狐丸クンが呼び寄せられたのはここの土地の力とついでに俺とそのまたついでにお前の潜在能力だ。その次に…なんだその烈狐丸ちゃんという呼び方は!?」
あら、問題ある?と、先程とは打って変わって強気な姿勢の零にナオキはため息を吐く。そういうポジティブな姿勢は認めるが、あまりにもポジティブすぎるというのも問題だ。
「オイラは構わないっスけど…」
「ま、まぁ、烈狐丸クンが言うなら…。で、話を戻すとだな、烈狐丸クン、君はこれからどうするつもりだい?」
「とりあえず、町に戻るつもりっす」
「そうか。零の詫びもある、昼飯くらい食べていってくれ。色々と話も聞きたいからな」
「いやいや、お構いなくっす!」
「いいじゃないの、烈狐丸ちゃん!私もお話したいし…決定ね!」
零は烈狐丸を抱き締めながら嬉しそうに笑った。ぬいぐるみのつもりだろうか、とナオキ、そして烈狐丸はお互い目を合わせると苦笑いを浮かべた。


「うわっ〜!ホントにフサフサしてるよ!」
先程から烈狐丸を抱き締めて離さない零は、よほど耳が気になるのか、優しく撫でていると思えば引っ張ったりと悪戯を繰り返している。
「ち、ちょっと!くすぐったいっすよ!」
「だって可愛いんだもん」
「ところで…ナオキさんはどこに行ったっすか?」
「ナオキ?多分キッチンで包丁振り回してるわよ」
「ここの家はナオキさんが家事担当なんすか?」
「まぁ、大体ね。ナオキはウチの家政夫だから」
「家政婦っすか…」
ヒトは見掛けによらないっす…と烈狐丸は内心思った。そんな事を進んでする感じには見えなかった気がする。
「零さん…率直に聞くと、ナオキさんは何者っすか?」
「難しい質問ね。ん〜あえて言えば、烈狐丸ちゃんと同じ…かもね」
「同じ…狐っすか?」
「ナオキは狐じゃないわよ!ナオキ自身がいうには昔は偉かったんだって。神ってまで呼ばれてたみたい」
「神…っすか」
まぁ、私には関係ないけど、と零は烈狐丸の尻尾に軽くキスした。
「あぁ、この尻尾!いいわぁ〜♪食べちゃいたい」
「止めんか!エセ乙女がっ!」
「ちっ!邪魔が入ったわ」
大きなお盆を持ちながら客間に三人分の食事を持ってきたナオキを零は睨んだ。
「もうちょっとで烈狐丸ちゃんを私のモノに出来たものを…」
「まったく…一応烈狐丸クンは神に近い存在なんだけどな。遠慮はないのか!少しは敬ってみたらどうだ?」
「フッ…私が信じるのは己の拳だけよ」
「…お盆でひっぱたくぞ」
「いやよ、案外痛いんだからソレ」
と言い合いながら手は料理を手際よく並べてゆく二人。
「こんなパスタで申し訳ない。お口にあえばいいのだが」
「いやいや、とんでもないっす!いただきますっす」
と言いながら、烈狐丸は目の前の和風パスタを口に運ぶ。
「美味しいっす!こんな美味しいパスタ食べたの初めてっすよ!」
「烈狐丸ちゃん、こいつの料理にお世辞言っても良い事ないわよ」
「…嫌なら食べなくても良いんだが、零クンよ」
「…ありがたくいただきます」
といいながらおとなしくパスタを食べ始める零を尻目に、ナオキは烈狐丸に、そういえば…と話しかける。
「そういえば烈狐丸クン、キミは何故こんなところでこんな格好をしているんだい?キミのような位の高い狐はそうそう外には出れないだろ?」
「あぁ、それはっすね…ある理由があるっす」
ある理由?とナオキは聞き返す。
「ある人の生まれ変わりを探しているっす」
「生まれかわり?それは大変だな」
「ナオキ、生まれ変わりって人よね?それって探せるもんなの?」
「正直、難しい。なんせ前世の記憶が無い人間が殆どだからな。零だって自分の前世の事なんて覚えてないだろ?」
「確かに…烈狐丸ちゃん、探す宛はあるの?」
零が心配そうに列狐丸を見る。しかし烈狐丸の表情は明るい。
「大丈夫っすよ!必ず見つかるって信じてるっすから」
[私も信じてるわよ。必ず烈狐丸ちゃんの大事な人の生まれ変わりとも会えるわよ!]
うん、会えるわ!と笑顔を浮かべる零。それに同調するように笑みを浮かべる烈狐丸とナオキ。本当は何の宛もない、根拠もない理屈だが、そんなことは関係なかった。


「烈狐丸ちゃん、もうちょっとゆっくりしていけばいいのに〜」
「いや、そろそろ行かないと彩にどやされるっすから」
そうか、と玄関先でナオキと零はお土産にナオキお手製のアップルパイを持たせた烈狐丸を見る。
「また、いつでも遊びにくるがいい。歓迎するぞ」
「また知らないうちにここに引かれた時は頼むっす。けど次はもうちょっとお手柔らかに出迎えてほしいっす」
「わかってるわよ、今度は踏んすけたりしないからさ」
「頼むっすよ、零さん」
と、目を合わせて笑う二人。
「では行くっす」
「ああ。帰り道はここを真っ直ぐいけば町に出るからな」
「わかったっす」
またね〜と零は武蔵家を後にする烈狐丸に手を振りながら見送ると烈狐丸も手と尻尾を振り返す。
「…行っちゃたね。烈狐丸ちゃん」
「ああ。…探している人物が見つかるといいな」
とナオキは小さくなっていく烈狐丸の背中を眺めながら、零に呟いた。


「ただいま〜!零ねーちゃん!ナオキ!」
「同じくただいま〜」
帰ってきたか…と洗濯物を畳んでいたナオキは同じく、洗濯物を畳んでいる零と顔を見合わせた。
「零ねーちゃん聞いてよ!オレたち今すごいもの見ちゃったんだよ!」
「凄いもの?何よ?」
「それが零おねー様!なんと可愛い尻尾と耳が生えてる男の子!」
どう、すごいでしょ?と自慢したげな顔ぶりの二人にナオキと零は顔を見合わせ笑った。
「まだこの町で迷ってるみたいね」
「…そのようだな。迎えにいってやるか」
と、クスクス笑う様子の二人を、ムサシと蘭は不思議そうに眺めていた。

〜終〜














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