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奴隷解放剣客譚 作者:蒼奈

第4章 メイド喫茶

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第69話 開店

「おい・・・新しくできた店の話、聞いたか?」

大工仕事が終わり帰ろうとしていた所で、同僚のクレマンが神妙な面持ちで話を振ってきた。

「新しくできた店?いや、聞いていないが・・・。」

「凄いらしいんだよ!今から一緒に飯食いに行こうぜ!」

「いや・・・どんな店なんだよ・・・。」

俺は何一つ情報を持っていないのですぐに行こうと返事する気にはなれなかった。
もしかしたら酷い店かもしれない。
とりあえずはどんな店なのかを聞いてから決める事にした。

「貴族様の気分を味わえるらしい。」

「はあ?どういう意味だそりゃ。」

「給仕が全てメイドで、客は主人という設定の店らしいんだ!」

意味がわからない。
何のためにそんな設定にする必要があるのだろうか。
飯屋なんて美味い飯が食えればそれで良いと思うのだが。

「頭おかしいのかその店。でも高いんだろ?」

「普通の店と同じくらいだ。」

「・・・なんで普通の食堂じゃないんだよ・・・とにかく行ってみるか・・・。」

普通の店と同じくらいの値段なら、まあ、行ってもいいかな。
この時の俺はそんな軽い気持ちでクレマンに付いて行ってしまったのであった。





店に入った俺達は店長と名乗る男に店の説明を受ける。
はじめに店の入り口で給仕は全てメイドであること、メイドというのは設定なので無茶な命令はしないこと。

「それではお客様、お愉しみください。」

そう言って店長は下がり、代わりにメイドが俺達の前でお辞儀をした。

「お帰りなさいませご主人様。こちらへどうぞ。」

そう言って店内へ歩き出す。
一瞬自分が『ご主人様』と呼ばれたという事が理解できなかった。
しかもいらっしゃいませではなく、お帰りなさいませと言われたのにも驚いた。

「おい、行くぞ!」

「なあクレマン、メイドのスカートの丈、短くないか?」

メイド服と言えばロングスカートが当たり前なのだが、この店のメイド服はミニスカートである。

「・・・俺は短い方が好きだなあ・・・。」

鼻の下を伸ばしている同僚の後を、俺は溜息交じりに付いて行く。
席に着いてメニューを眺めるが、どれも聞いた事の無い名前の料理ばかりだった。

「料理のイメージがさっぱりつかない。何かおすすめはあるのかい?」

「ご主人様は卵とご飯とトマトはお好きでしょうか?」

「ああ、好きだ。」

「それではオムライスなど如何でしょうか?」

おすすめされても良く解らないし、とりあえず任せる事にした。
メイドは「失礼いたします。」と丁寧にお辞儀をして下がっていく。

「使用人がいるとこんな感じなのかねえ?いやあいいモンだ。」

クレマンは上機嫌である。
俺達平民にとって使用人を雇うなんて金は無い。
使用人なんて雇うのは貴族か、儲けている商人ぐらいだ。
それ故、金持ち気分を味わえて気分が良いのだろうが・・・。

(・・・落ち着かん・・・。)

俺には何が良いのかさっぱり解らない。
俺には普通の食堂でおばちゃんが料理を運んでくる方がいつも通りな感じがして落ち着く。
仕事帰りの薄汚れた格好で、綺麗な店で使用人に食事を出されるこの状況はどうにも落ち着かないのだ。
さっさと食って帰ろうと考えていると、メイドが料理を運んできた。

「ご主人様、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「クレマンでーす!」

「・・・マルクだ。」

「かしこまりました。」

何の為に名前を聞いたのか不思議に思っていると、メイドは赤いソースを料理にかけだす。
出された料理を見ると、湯気を出している黄色く丸い料理に、ソースで俺の名前が書いてあった。
何故か名前の後にハートマークがついている。
ますます良くわからない。

「そ、それではご主人様・・・。」

「ん?」

「おいしくなーれ!おいしくなーれ!」

メイドは手でハートの形を作り、これまでの真顔とは打って変わった笑顔で料理に念を込めた後、

「で、では失礼します!」

そう言って顔を赤らめ、そそくさと下がって行った。
本当に意味がわからない。
今のはなんだったのだろうか。
顔を赤らめるくらいだから少し恥ずかしかったのだろうか。
なら何故そんな事をするのだろうか。
しかし、何故か彼女の笑顔が頭から離れない。

「うめえ!おい、マルク食わねえのか?」

「あ、ああ・・・・。」

クレマンの声で意識を戻される。
料理を食べ事も忘れていたので一口食べてみると、これまで味わった事の無い美味が口の中に広がる。

「・・・美味い・・・。」

さっきまでは居心地が悪く帰りたかったのに、今では全くそうは思わない。
俺は不思議な気持ちで、見たことも無い卵ご飯を食べながら、彼女の笑顔を思い出していた。





「行ってらっしゃいませご主人様、お帰りを心よりお待ちしております。」

「いやー良かった!また来ようぜ!」

会計後、お辞儀をするメイドと上機嫌なクレマン。
かたや俺は、どうしても自分の身なりが気になっていた。

「・・・次は仕事帰りじゃなく着替えてから来ないか?」

「え?なんで?」

「いや、仕事帰りの汚れた服じゃ恥ずかしいからさ。」

「そうかー?」

クレマンは特に気にならないらしいが、俺は凄く気になっていた。
店も綺麗だし、メイドの礼儀正しく笑顔も可愛いし、そんな場所に小汚い自分は場違いではと不安になるのだ。
そう考えているとメイドから声を掛けられる。

「あの・・・ご主人様・・・。
出過ぎた言葉かも知れませんが、私はそうは思いません。
それはご主人様が一生懸命頑張った証であり、決して恥ずべきものではないと思います。
だから気になさらないでいつでもまたお帰りください。」

「ほら気にすんなってよ!・・・マルク?」

放心していまった俺をクレマンが現実に引き戻す。
彼女が笑顔で俺の頑張りを認めてくれた事がとても意外で、とても嬉しくて、何故か少し泣きそうになっていた。


こうしてマルクは、この店の常連となっていくのだが、それはまた別のお話。











「なあナオキ。あのおいしくなーれ!って何なのだ?
なんであんな事させるのだ?
それにスカートもなんで短いのだ?」

客足が落ち着いた後、ルナは不思議そうな顔でナオキに尋ねる。
ナオキは店の窓から夜空を見上げ、満足そうな笑顔でこう答えるのであった。

「それが『萌え』さ・・・。」
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