続ー24サツキ編 蹴散らすと誓う
城から帰ってきた時には、すっかり夜になっていた。ドラゴンも部屋の隅で丸くなって寝ちゃったよ。ダンも疲れているだろうし、今夜は大人しく寝ようかな?
お風呂に入って、それからベッドに……と、その時、ダンが突然立ち上がって衣裳部屋へと行った。
ん? どうしたのかな、と思っていたら、ダンは衣裳部屋から鞄を持って帰ってきた。
「サツキ」
「ん?」
「これを見てくれ」
そう言って鞄から取り出したのは――、ええ!?
「知っているのか?」
知ってるも何も、これは私が好きな炭酸ジュースじゃない!
「うわぁ! 久し振りに見た! これどうしたの!?」
なんでダンが、日本で売られているジュースを持ってるの?
驚く私に、ダンは真剣な表情で説明した。
「四角の大きな箱が出たところを、押して出た」
「……んん?」
四角の大きな箱? 箱が出たところを押して?
どういう意味だろうと悩んでいると、ダンは机の上から紙とペンを持ってきて、それに何かを書き始めた。
「これだ」
え? これって……。
「自販機……だよね」
「サツキと同じ言葉を話していた。『いらっしゃーい、ありがとー』」
それ、『いらっしゃいませ、ありがとうございました』だよね。やっぱりそうだよ。日本の家の近くにあったのと同じやつだ。
「自販機だよ……」
まさか、自販機が異世界トリップしてきたの? 確かにそうだったらいいな、と妄想してたけど、本当に自販機が異世界トリップしてたなんて……。私が天に祈ったからとか? それとももしかして、異世界トリップってよくあることの?
じゃあ、自販機だけじゃなくて……。
「私と同じ、日本人がどこかにいるかもしれないとか?」
もしそうなら、どこかで会えるかもしれない? 自販機があるなら……あれ? 自販機って、電気が無いのにどうやって動いてたんだろ? 電気も異世界トリップ? ああー分からなくなってきた! でも電気があったら携帯電話だって……ん? ケイタイ?
「あ、そうだ!」
私は立ち上がり、衣装部屋に駆け込んで、携帯電話を持ってきた。それをダンに見せる。
「これ、ケイタイって言うの。写真撮るね」
「ケイタイ……?」
結婚記念写真撮らなきゃ!
「ここ見て」
私は携帯電話のカメラのレンズを見るように言って、それを少し上に構える。カシャッ、と音がして写真が撮れた。
「ほら」
携帯電話の画面を見せると、ダンが目を見開く。
「これは……いったい……?」
あ、驚いてる。そりゃそうだよね。
「写真だよ。でも、これで終わり」
「終わり?」
「もう使えないの」
今の撮影でついに充電が切れちゃった。でもデータは残るだろうから、トリップしてきてるかもしれない自販機だか電気だかを見つけるか、いつかこの世界の科学が発展したら、充電できるよね。ダン、どこで自販機を見つけたんだろう? 教えてもらわなきゃ!
「片付けておこう」
充電できる可能性がみつかったんだから、大事に保管しておこう。
「どうしてだ?」
ん? どうしてって、えーと、……『充電切れ』ってどう言おうかな?
「残念だけど、力が無くなったから使えないの。でも大丈夫。――あ、これのことは秘密にしてね。こんなの見たらみんな驚くし、あちこち触られて壊れちゃうかもしれないから」
さて、じゃあ携帯電話を元の場所に片付けて寝ようかな。あ、その前にジュースを飲みたいな。でも冷やした方がいいかな? うん、ジュースは明日のお楽しみにしよう。
とりあえず、携帯電話を衣裳部屋に片付けに行こうとした私の腕を、ダンが掴む。
「サツキ!」
うわ、な、何!? 痛い痛い痛い! 強く抱きしめすぎ!
「サツキ……」
私の顔をグイッと持ち上げるダン。だから痛いってば!
「ずっと守ると約束だ。愛してる」
「……う、うん」
それより痛くて苦しい。
呻く私の唇を、ダンが求める。え? そういうこと? もう、ダンったら元気なんだから。
私は携帯電話とジュースを枕元に置いた。
ああ、ダンは私の元に帰ってきたんだ。たくさんの恋人の中から、私を選んだんだ……。
もう絶対離さない。近づいてくる女は、みんな蹴散らすんだから!
私は強く誓って、ダンの背中に手を回した。