続ー23ダン編 認定式と祝賀会
城に着くとすぐに、俺達は謁見の間へと連れていかれた。謁見の間に集まっていた沢山の人が、ドラゴンを見て驚き、歓声を上げる。もはや伝説と思われていた生物が目の前に居るのだから、驚くのも無理はない。そして――、
「ダン! 無事だったのか!」
「心配したぞ、コノヤロー!」
騎士や魔法師が、涙を拭いながら口々に言う。みんな、心配かけてすまなかった。魔法師団長と隊長も、無事の帰還を喜んでくれているようだ。
殿下に促されて、豪奢な椅子に座り、正式な王の衣装を身に纏った陛下の前に行く。すると驚いたことに、サツキが陛下を指さして叫んだ。
「レムじじぃ! ダン! レムじじぃ!」
サ、サツキ!? 陛下を呼び捨てどころか、じじぃ呼ばわりとは!
先程まで盛り上がっていた人々が、ざわざわと騒ぎだす。うーむ、どうすべきか。サツキに悪気はないだろうが、これはさすがに良くない状況だ。
困っていると、陛下が立ち上がり、俺達の前に立って優しく話し始めた。
「サツキちゃん、ダンが帰ってきて良かったな」
「レムじじぃ……、えーと?」
俺は慌てて、まだ陛下をじじぃ呼ばわりする、サツキの肩に手を置いて囁く。
「サツキ、違う」
じじいではなくて、『陛下』だと教えようとする俺に、陛下が緩く首を振って微笑んだ。
「『レムじじぃ』で良い」
そしてサツキの頭を撫でる。その言葉と行動で、周囲のざわつきも収まる。うむ、陛下が心の広い方で良かった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、陛下が殿下から紙を一枚受け取り、読み上げ始めた。
「ダン・ワーガルを、愛の魔法師及び愛の魔法騎士及び愛のリュウ騎士と認定する」
ああ、さっそく認定式なのか。準備が早いな。しかも、しっかり『愛の』を付けてくださっている。
陛下から認定書を受け取って敬礼する。と、その時、俺の腕をサツキが掴んだ。
「ダン……」
ん? どうした? 見上げてくる瞳は、何かを訴えているが……。ああ、そうか。俺だけ認定されて不満なのか。では後で、サツキにも何か称号を下さるようにお願いしてみようか。それまで……そうだ、これで我慢してもらおう。
俺は、ポケットに入っていた、タマゴを手に入れた者の証である指輪を取り出した。そしてサツキの左手を取り、指輪を薬指にはめる。うむ、まるでサツキの為に誂えたようにぴったりだ。サツキも驚いたようで、ポカンと口を開けて指輪と俺を交互に見ている。
ついでに自分の指にもはめようとしたら、サツキが俺から少々乱暴に指輪を取り上げて、左手の薬指にはめてくれた。
「ダン……!」
サツキが俺に抱きつく。指輪が嬉しかったのだな。更にサツキは、目を瞑って唇を突き出してきた。
うーむ、口付けをして欲しいのか。こんな場所で、しかも陛下や皆の前で……。だが自分は愛の騎士であるし、皆に俺達の愛を見てもらうのも良いだろう。一応視線で陛下に許可を求めると、微笑んで頷かれた。やはり陛下は心が広い。
屈んで、大胆な妻、サツキの唇に口付ける。顔を上げると、殿下が実に愉快そうに笑いながら手を叩き、皆がそれに続く。暫くして拍手が止むと、俺とサツキの前に、小さな机が用意された。机の上には、紙とペンが用意されている。
「ダン、それに署名を」
ああ、リュウの所有許可証か。トーラでは、聖獣を飼うのに許可証が必要だ。聖獣ではないが、リュウを飼うのにも一応許可証があった方が良いと考えられたのだな。
ざっと文面を読み、一番下に署名し、サツキにペンを渡す。二人で飼うのだから、サツキの署名もあった方が良いだろう。
「サツキ、名前を」
サツキは頷き、緊張でもしているのか、少し震える手で署名をした。そうして二人が署名した書類を確認し、陛下が皆に告げる。
「さあ、お祝いをしよう!」
なんと、祝賀会まで用意してくださっていたのか。
大広間に移動すると、既に準備は整っていて、謁見の間以上に沢山の人が待って居た。カタヤ夫妻もマチルダとヤンも来てくれている。
テーブルには料理が並び、天井まで届きそうなくらい大きなケーキもあった。
「ケーキだ……!」
思わず叫ぶと、サツキが俺の手を引いてケーキの傍まで連れて行ってくれる。そしてケーキを切り分けようとしていた料理人からナイフを奪い取った。
「ダン!」
ん? どういうことだ? サツキは俺の手にナイフを握らせ、自分の手を添えてゆっくりとそれを巨大ケーキに刺した。うーむ、いったい何がしたいのか。疑問に思いつつサツキを見ると――、
「サツキ……!?」
サツキの目から大粒の涙がボロボロと零れていた。
どうしたというのか。戸惑う俺に、サツキが告げる。
「愛してるよねぇ?」
「ああ、勿論だ」
サツキは泣きながら笑い、ナイフを料理人に押し付けるようにして返すと、俺に強く抱きついた。
周りから大きな歓声が上がる。陛下、殿下、カタヤ夫妻、騎士、魔法師、貴族、以前恋愛成就の御守りとして俺の髪を持って行った女官達も居て、皆が口々に「おめでとう」と言ってくれる。
そうして沢山の人に祝福され、おいしいケーキも食べて、大満足で俺達は屋敷へと帰った。