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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
92/101

続ー21ダン編      帰ってきた喜び

 口から溢れる鮮血、腹にぽっかりと空いた穴、右肩に食い込むリュウの牙、そして――。

 オオオ……、とリュウが小さく吠えて倒れ、その上に俺も倒れこんだ。

 相討ちか。自分の鼓動が不自然に大きく聞こえ、足が痙攣する。最悪の状況だ。一歩も歩けそうにない。だが――俺はサツキの元へ帰らなくてはならない。

 指先に力を入れると動いた。まだだ、まだ俺は生きている。待っていてくれサツキ。這ってでも、今すぐお前の元に帰るから。


 タマゴは何処だ?


 ボンヤリとしか見えない目を動かすと、少し先に白い塊が見えた。あった。タマゴ……サツキへの愛の証。三ヶ月目の贈り物。

 腕に力を込めてタマゴへ向かって少しだけ動く、と、その時。

「…………!」

 俺とタマゴの間に、眩く光る塊が現れた。

 なんだ、これは。あまりの眩しさに顔を顰めて瞬きを繰り返していると、次第に光が弱くなってきた。そして――俺は驚愕する。


「サツキ!?」


 目の前に現れたのは、結婚式の時の衣装を身に纏ったサツキだった。

「サツキ!」

 どうしてこんなところに!

 俺が手を伸ばすと、その指先をサツキが握る。

「…………!」

 その瞬間、俺はハッとした。

 違う、これはサツキではない。サツキの手はもっと小さく華奢だ。ならばこれは……誰だ?

 指先から広がる温もり。体の痛みが引いていき、霞んでいた目がはっきりと見えるようになった。そして俺は、またしても驚愕した。まさか、そんな。

「もしや、あなたは……」

 金の長い髪と、少しだけサツキに似ている勝気な瞳、明るい笑顔。それは……神殿にあった像と同じ姿。


「相討ちとはいえ、よく頑張りました」


 頭の中に声が響く。

「メ……ィイ……?」

 目の前の人物――女神メィイは、肯定するように俺の手を強く握る。

「久し振りによい戦いを見ました。ダン、あなたにならサツキを安心して任せられます」

「サツキを? それは――」

 どういうことだ? 何故サツキの名が出てくる。

「これをあげましょう。リュウを倒し、タマゴを手に入れた者の証です。タマゴより生まれし命は、あなたの忠実なる僕となるでしょう」

 戸惑う俺の頭上から、キラキラと何かが舞い落ちてきて、掌の上に落ちる。よく見ると、それは指輪だった。

「末永く仲良く。二人に祝……」


「待ってくれ!」


 メィイの手が、存在が、離れて行くのを感じ、俺は慌てて叫ぶ。

「……何ですか?」

 ああ、何から訊けばいい? サツキのこと、メィイのこと、リュウのこと、頭の中が酷く混乱している。この中で一番大切なのは……そうだ!

 俺は、掌をメィイに差し出した。

「リュウを倒せたのは俺一人の力ではない、サツキがいたからだ。だからもう一つ、サツキの分の指輪もくれ!」

 うむ、そうだ。サツキがいたからこそ俺は頑張れた。だからこれは、俺とサツキが二人で掴んだ勝利だ。

 メィイの目を真っ直ぐ見つめ、俺は当然発生するサツキの権利を主張した。すると何故か、メィイが肩を落として溜息のような長い息を吐く。

「あなたといいサツキといい……。二人に祝福を!」

 そして――、

「…………!」

 ハッと気付くと、俺は屋敷の前に立っていた。

 空は青く、爽やかな風が吹き、鳥が楽しげに歌っている。

「これは……」

 メィイの力か。腹に触れると、傷など始めから無かったかのように、滑らかな肌の感触がした。

 まるですべてが夢か幻。しかし、夢ではないことを俺は知っている。その証拠に――握っていた手を開くと、指輪が二つ。そして足元に転がるのは、巨大なタマゴと剣と、無くした筈の荷物。


「サツキ……!」


 剣を背負い、鞄のポケットに指輪を入れて背負い、タマゴを抱えて俺は玄関ドアを開け――鍵が掛かっていたのでドアを破壊する。

「サツキ! サツキ!」

 どこだサツキ! 早く会いたい!

 二階へと駆け上がり、サツキと俺の寝室のドアを開ける。

「サツキ!」

 部屋の中に飛び込むと、ベッドで眠る愛しいサツキの姿があった。

「サツキ!」

 タマゴを床に置き、荷物と剣を放り投げてまだ眠るサツキを抱きしめる。

「サツキ、サツキ、会いたかった」

 髪を撫でて頬ずりをすると、サツキが「う?」と小さな声を上げて、眉を顰めて目を開けた。そして、俺の姿を見た瞬間、ヒュッと息を吸う。

「サツキ!」

「……ダン?」

「サツキ!」

 ああ、サツキ。やっと会えた。

「ダン? ダン!」

 確かめるように何度も俺の名を呼んで、サツキが縋り付いてくる。

「サツキ、ただいま」

「馬鹿ね! 長いの何処行くか!」

「ああ、すまなかった」

 大声を上げて泣くサツキを強く抱きしめる。俺がいなくて寂しかったか。俺もサツキに会えなくて辛かった。

 サツキの頬に口付け、俺は三か月目の贈り物であるタマゴをベッドの上に置く。

「これ……?」

 目を見開くサツキに俺は頷いた。

「ああ、サツキが欲しがっていたタマゴだ」

「タマゴ……」

 サツキが震える手を伸ばし、そっとタマゴに触れる。その瞬間、

「…………!」

 タマゴが光り始め、パリパリという音と共に殻が破れる。

 生まれるのか、新たなる命が。

 サツキと一緒に見守っていると、


「キシャー!」


 元気な鳴き声と共に、リュウの赤ん坊が殻を突き破って出てきた。リュウの子が、ゴオォオオ、と口から炎を吐き出す。なんと! 生まれたばかりだというのにもうそんなことができるのか。うむ、素晴らしい。

「ダン、あれ……」

 サツキが俺の腕を掴む。俺を見つめる瞳は、感動の涙で濡れていた。

「ああ」

 そうだ。サツキのリュウだ。

「どらごん……」

 ん? なんだ? 何と言った?

 首を傾げる俺に、サツキはもう一度言う。

「ドラゴンね!」

 あぁ、早速名前を付けたのか。『ドラゴン』か。うむ、強そうで実に良い。

 サツキの髪を撫でてもう一度口付けようとした、その時、ドタドタという音が廊下から聞こえ、ドアが勢いよく開く。

「ダン!」

「ダン様!?」

 そして、カタヤ夫妻とマチルダとヤンが、叫びながら部屋に飛び込んできた。

 おじ様がベッドの傍らに立ち、俺の目をじっと見つめる。

「ダン、よく無事で……。それに手に入れたのだな」

「はい」

 城へ連絡を、とおじ様がヤンに命じ、ヤンが部屋から走って出ていく。マチルダも「湯浴みの準備を致します」と言って、軽く頭を下げて部屋から出た。

「まさか手に入れるなんて……。良かったわね、サツキ」

 おば様が、涙を拭いながら微笑む。

「うん」

 サツキは頷き、リュウを――ドラゴンを見つめる。

「サツキ」

 俺はサツキをもう一度抱きしめ、帰ってきた喜びを噛み締めた。



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