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サツキとダンの新しい世界
第4話サツキ編    ワイルド両親
「……なんと言うか、もう元気だしなよ」
 ものすごーく沈んだ顔で肩を落としているダンが、目の前に座っている。
 わざわざグルグルバットの結果報告をしに来てくれたのだけど……。
「ごめん……。折角教えてもらったのに……」
 どうやらウケなかったらしい。
 笑いのツボが、日本人とトーラ人では違うのかな?
 残念だったね、ダン。はりきって練習までしたのに。
 でも、そこまで落ち込まなくてもいいんじゃないの?
 教えたこっちが罪悪感抱いちゃうよ、ウジウジ男め!
 デカイ図体してるくせに、しっかりしてよ!
 ほんのちょーっとだけ私が苛ついた時、マチルダがワゴンを押しながら部屋に入って来た。
「ちょうど今、焼けました。ワーガル様もどうぞ」
 テーブルに並べられるケーキや焼き菓子。
 うーん! 今日も美味しそう。
 イライラもぶっ飛んじゃったよ。
 カタヤの料理人が作るケーキはメチャクチャ美味しいのだ。
 日本に居た時はケーキとかの甘い物があまり好きでは無かったんだけど、トーラに来てからは、すっかり好きになった。
 ついつい二個も三個も食べてしまうので太らないかちょっと心配。
「いただきまーす」
 フォークを手に持って、どれにしようかなーって迷っていると……。
「え……!?」
 な、なにこれ?
 大きな手が次々に皿を攫っていく!?
 いや、別にダジャレって訳じゃないよ。
 ダンが猛烈な勢いで、ケーキや焼き菓子を次々に口に入れているのだ。
 なんともう既に、ほぼ完食状態。

「…………」

 な、なんか、昔テレビで観た霊に取り憑かれた人が生肉食べてる映像に似てる。
「キモ……」
 思わず呟いた時、ダンの動きがピタリと止まった。
 焼き菓子をくわえたまま、ゆっくりと顔を上げる。
 目が合った瞬間ダンは真っ赤になって、くわえていた菓子をテーブルの上にポトリと落とした。
「…………」
「…………」
 気まずい空気の中、まだ傍に居たマチルダが、「あー!ケーキのおかわり持って来ます!」と言いながらワゴンを押して部屋を出て行った。
 逃げたな……!
 どうすりゃいいの、この雰囲気。
 取り敢えず、ダンの口から落ちた焼き菓子を拾い渡してみる。
「あ、ありがとう」
 で、その焼き菓子をダンは口に入れた。
 この状況で、まだ食べるんだ……。
「お菓子、好きなの?」
 私が訊くと、ダンは俯いて小さな声でポツリと言った。
「昔……、母が何度か作ってくれた」
「昔?」
 そういえば、ダンって一人暮らしだよね。
「ダンは、お父さんとお母さん居ないの?」
 ダンが頷く。
「両親は×××に憧れて、古い使用人を連れて旅に出てしまった」
 ……え?
「何? 何処に?」
 よく分からなかったので訊くと、ダンはゆっくりとした口調で詳しく教えてくれた。
「店も無い、人も居ない場所。食べ物は自分達で作るか木の実を採る。動物が沢山居る」
 店も人も無くて、でも木と動物は居る?
 え? 何それ。
 頭の中で想像してみる。
 うーん……。
 木が茂って動物が居る辺鄙な場所――って、それはジャングルってやつ?
 まさかねぇ……。
「大きな動物に襲われて、戦ったりする……?」
 よくそういうところで芸人が巨大蛇と戦っていたりするけど。
「それは、時にはある」
 うわぁ。本当に?
 それってやっぱ、ジャングル……しかないよね。
 でもジャングルに旅立つ、しかも使用人連れてって、探検隊?
「嘘ぉ……」
「本当だ」
 えー……。本当に? どんだけワイルドな両親なの?
 もしかしてご両親も、ダンみたいにムキムキマッチョなのかな?
 いやもう、凄い話だね。
「俺は……、大好きなのだ、甘いお菓子が。でも今は、作ってくれる人が居ない」
 うーん。そうなんだ。
「買いに行かないの?」
 ケーキ屋さんとか、トーラにだってあるんじゃない?
「……恥ずかしい」
 なんでだろ?
 別に男の人がケーキ買っても食べてもいいと思うけどな。
 首を傾げつつ、なんとなくドアの方に視線を向けると……。
「――――!」
 マチルダがドアの隙間から、中の様子をじっと見ていた。
 え? なんで? ちょっと怖いよその視線!
 家政婦が色々見ちゃうドラマみたい……!
 マチルダは私と目が合うと、まるで何事も無かったかのようにワゴンを押して部屋に入って来た。
「おかわり持って来ました」
 そして笑顔で次々と皿を並べていく。
 ……マチルダっていい人なんだけど、時々変なんだよね。まあ害は無いからいいんだけど。
 さて、食べよ。
 手前に置かれた皿を手に取り、ケーキを一口食べる。
「美味しー!」
 幸せー!!
 続けて食べようとフォークを刺したのだが、何故かマチルダが私の腕をツンツンと突いてくる。
 え? なに?
 マチルダが目配せするので正面を向いてみる。
「…………」
 ダンが、おあずけされた犬のように私の食べかけのケーキをじっと見ていた。
「……もしかして、これが食べたいの?」
 私が訊くと、ダンはハッとして視線を彷徨わせた。
 はいはい。分かりました。
「あげる」
 皿を差し出すと、ダンはちょっと迷いながらもそれを受け取った。
「ありがとう」
 そして三口で平らげる。
 折角あげたんだから、もっと味わって食べなよ。
「ゆっくり食べていいんだよ。沢山あるんだから」
「う……、うむ」
 ダンは頷いて、別のケーキをまた三口で食べた。
 聞きなよ、人の話!
 まったく、親の顔が見てみたいよ。
 って、あーそうか。ジャングルを探検中で居ないんだったね。
 きっと今頃、大蛇や熊やライオンみたいなやつと戦ってるんだろうなー。
 ボーっとダンを見ながら想像していたら、あ、しまった。ケーキ全部食べられてしまった。
 ちょっとは遠慮しないか? 普通。
 しかもまだ物欲しそうに皿を見ている。
 仕方ないなぁ。
「またいつでも食べに来ていいよ」
「…………!」
 私の言葉にダンが目を見開く。

「あ、ありがとう!!」

「…………」
 声、大きすぎ。
 耳がキーンってなったよ。
 もうホント、ちゃんと息子の躾してからジャングルに行きなよ、ダンの両親!!



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