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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
59/101

続ー4サツキ編     餡と武士

 醤油らしきものの有力情報が入って元気が出た私は、スープをぺろりと平らげた。

 うん。美味しかった。

 満足して大きな枕に背中を預けていると、空になったお皿をサイドテーブルに置いて、ダンのお母さんが訊いてくる。


「サツキちゃんの国はどこかしら?」


 ん? あ、そうか、言ってなかったっけ。

「日本です」

「ニホン?」

 首を傾げるダンのお母さんに私は頷く。

「凄く遠い国です」

 遠いっていうか、異世界だよ。

「そう。どうしてトーラに?」

「えーと、両親が別れて――」


「え!?」


 あれ? 凄くびっくりしてるけど、私変なこと言ったっけ?

「まあ、ごめんなさい」

 ん? 何が?

「辛かったわね。これからは私がお母様よ」

 ダンのお母さんが私を抱きしめる。

 『お母様』……って、『お義母様』ってこと? 早くも嫁と認められた!?

 うわ! なんだか良く分からないけどヤッター!

 あ、お義母様もいい匂い。お母様の癒し系の香りと違って爽やかな香りがする。

 それにしても、お母様とお義母様、日本のお母さんまで合わせたら母親が三人か。

 お義母様は若くて綺麗だから、『ママ』って感じがするなぁ。ダンのママだから『ダンママ』とか?


「ママ」


 試しに呼んでみると、ダンママは「え?」と言って私の目を覗き込んだ。

「『ママ』は私の国の言葉でお母さんという意味です」

「まあ、そうなの。可愛い子、じゃあ今日から私がママよ」

 おお、凄い。ダンママったら違和感なく受け止めた。

「他に困っていることは無い?」

「うん」

 醤油以外は、今のところ無いなぁ。

「ねえ、ニホンはどんな国か聞いていい?」

「うん。えーと……」

 えーと……、あれ? 改めて説明するとなると難しいなぁ。

 どう言えばいいのかな? 外国の人に分かりやすくて興味のある話題かぁ。じゃあやっぱりあれかな?

「日本は小さい国で、『着物』って服があって――」

「キモノ?」

「着物はえーと……そうだ! 紙とペンを用意してください」

 描いたほうが絶対分かりやすいよね。

 ダンママが部屋の外に行って、すぐに紙とペンを持って戻ってきた。

「こんな感じの服」

 サラサラと簡単に着物らしきものを描いてみせる。

「まあ。変わっているわね」

 ダンママはじっと私の絵を見つめた。

「騎士はいないけど武士がいて――」

「ブシ?」

「うん。侍とも言うよ。頭のここを剃って残った毛を結い上げて――」

 私は続けてちょんまげの絵を描く。あ、結構上手く描けた。大御所芸人さんが演じる殿みたい。

「えーと、こんな感じ」

「……凄い髪の形ね」

 そうだよね。何でこんな髪型にしてたんだろ?

「で、この武士のなかでも将軍様が――えっと王様? 一番偉かった。トーラとは全然違う、こんな感じの城に住んで……」

 城は描くのが難しいなあ。五重塔みたいになっちゃった。

「城は女だらけで、別名『大奥』と呼ばれています。将軍様は毎日その日の気分に合わせて好きな女を選んで……」

 あれ、そうだっけ? うーん、私、日本に住んでいた頃は全然勉強してなかったから知識が微妙だなぁ。まあでもいいや、このまま続けよ――ん?

 んん? ダンママの表情が険しい。何で?

「好きな女を選ぶ?」

「はい。そして将軍様を取り合って、女達の闘いが始まります」

 御台所と側室のお世継ぎ争い。足を引っ掛けたり池に落としたり毒を盛ったり将軍様が板挟みになったり……とか? たぶんそんな感じだったと思う。


「まあ! なんてこと!」


 ダンママが叫んだ。

 あれれ、怒ってる? おかしいなあ。外国の人はこういう日本独特の文化が好きかと思ったんだけど違ったかな。

「駄目よ、サツキちゃん! そんなことは許してはいけないわ!」

 え? そんなこと言われても昔の話だし……この話はお気に召さなかったみたいだね。残念。

 やめて別の――えーと、そうだ! ダンも大好きなスイーツの話にしよう。


「豆は甘く煮て餡子を作ると美味しいよ!」


 急に話題を変えたから、ダンママがキョトンとした。

「アンコ?」

「うん! 豆を砂糖で煮るの」

「砂糖で? 豆を?」

 私は大きく頷く。

「うんうん! 日本のお菓子でとっても美味しいんだよ」

 ダンママが頬に手を当てて目を見開いた。

「まあ! 豆がお菓子?」

 お! スイーツには飛びついた。さすが親子だね。武士や将軍や大奥の愛憎劇より餡子の話のほうがいいみたい。

「餡子は美味しいです。ケーキにも出来るし、クリームと合わせても美味しいです」

「豆をケーキに?」

「和菓子って言うのがあって、餡子でお花を作ったりするんですよ。そうだ!今からヤンに作ってもらおう!」

 ヤンは立派な和菓子職人になれそうなくらい上手に作るんだよ。

「ママ、一緒に食べよう!」

 ダンママはもうすっかり頭の中が餡子でいっぱいになったみたい。微笑んで私に頷いた。

「ええ、楽しみだわ」

 あー良かった、機嫌が良くなって。未来の義母とは仲良くしておきたいもんね。


 こうして私は醤油に関する有力情報を聞き、餡子でダンママのハートを鷲掴みにして味方につけ、後に醤油と味噌を手に入れたのだった。


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