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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
続・サツキとダンの新しい世界
55/101

続ー2サツキ編     封印されし呪われた料理

「こんにちは、奥様」


 ダンを送り出した後、さて、これからどうやって結婚に向けてアピールしていこうか……なんて庭の花を見つめながら考えていたら、後ろから声がした。

 あ、この声は――。

 振り向くとやっぱり郵便屋さんだった。

「こんにちは」

 この郵便屋さんのおじさんって、声が低くて渋いんだよね。顔もダンほどではないけど、まあまあかっこいいし。

 そういえば最近気付いたんだけど、トーラって美男美女が多い気がする。美男はともかく美女が多いって不安だな。ダンが誘惑されなきゃいいけど。

 ってそれより今は郵便屋さんだ。紐が巻かれたダンボールっぽい箱を抱えているけど何かな?

「奥様にお届けものです」

 ん? 私に届けもの?

 郵便屋さんが荷物に貼られたメモを見る。

「ええっと、ミラ・ワーガル様からですね」

 ミラ・ワーガル……ってダンのお母さんの名前だよね。とゆうことは……。

 あ! 分かった、あれだ!

「重いので中まで運びますよ」

「ありがとう」

 郵便屋さん好意に甘えて屋敷の中に荷物を運んでもらう。

「あ、そこに置いてください」

 玄関ホールに箱を置いてもらい、郵便屋さんが差し出した紙にサラサラっと『サツキ・ワーガル』と書いた。

 難しいトーラの文字だけど、名前だけは最近練習して書けるようになった。

 しかも『カタヤ』じゃなくて『ワーガル』だよ。いつ結婚しても大丈夫なように、ダンの苗字で練習したんだ。

 郵便屋さんを見送って、私は荷物を持ちあげてみようとしたけど、本当に重くて無理。仕方ないからヤンを呼びに厨房に行った。

「ヤン、玄関に置いてある荷物をここに運んで」

 お願いすると、ヤンは「分かりました」と濡れた手を布で拭いて、荷物を取りに行く。

 ああ! 楽しみ。

 ワクワクしながら待っていると、ヤンが荷物を抱えて戻ってきた。

「ミラ様からサツキ様に、ですか?」

「うん。開けて」

「はい」

 しっかり結んである紐をヤンがハサミで切り、箱を開ける。

「あ……」

 プンと匂う懐かしい香り。これはもしかして期待してもいいかも。

 中に入っていたのは丸い木箱と黒い液体が入った瓶、それに手紙。手紙には『遅くなりましたが約束の物を送ります』と書かれていた。

「何ですか? これは」

 興味深げに見つめるヤンの前で、私は瓶の中身を小皿に少しだけ垂らして人差し指に付けて舐める。


「…………!」


 これは!

 小皿をヤンに押し付けて続けて木箱を開けると、中に入っていたのは茶色の塊。

 ん? もしや……。

 こちらは直接指で掬って舐めてみる。


「…………!」


 間違いない。

 うぅ……。涙がでちゃうよ。今まで数々の失敗をしてきたけど、それも今日で終わり。長かった闘いの日々よ、さようなら。今、新たな扉が開かれた。


 ついに、ついに私は手に入れたのだ――醤油と味噌を!


「これは調味料ですか。初めての味ですね」

 許可なく味見していたヤンを人差し指でビシッと指して命じる。


「うどんの準備を!」


 そう、今この瞬間、うどんの封印は解かれた。

 偉大なる調味料、醤油。その醤油がないゆえに食すことが出来なかった『かけうどん』。

 食べられないと余計食べたくなり、ヤンに協力してもらってありとあらゆる調味料で挑戦していたが、試食係のダンが『もう無理だ……』と遠い目をしたので仕方なく封印していたのだ。

 しかし私は醤油を手に入れた。ついでに味噌も。

 ありがとう、ダンのお母さん!

「うどん? 久し振りですね。ダン様があまりの過酷さに壊れてから、作っていませんでしたから」

 んん!? 壊れたなんて大袈裟な。

 まあちょっぴり言動がおかしくなって、肌の色がまるで呪いにでもかけられたように紫色に変色して、慌ててお医者様を呼ぶ騒ぎにはなったけど。

「大丈夫! これで美味しいのが作れるよ!」

「はい」

 ヤンが小麦粉などを準備して、慣れた手つきでこね始める。その姿はまるでうどん職人のようだ。

「サツキ様、うどん、こね終わりました。寝かしに入ります」

「では、だし汁の準備を!」

「はい」

 煮干しっぽいのを数種類混ぜて使うと立派な和風だしが出来ることは今までの実験であきらかとなっている。

 楽しみだな、うどん。

 それにしても本当にラッキー! あの時何気なく言った一言で醤油と味噌が手に入るとは!

 そう、あれはダンと迎えた最初の朝のこと――。


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