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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第18話ダン編    サツキが泣いた・・・!

 朝っぱらからニナが来ている。

 まだ朝食が終わったばかりだと言うのに、来るのが早すぎるだろう。

 だいたい呼んでもいないのに勝手に来るな。先程からサツキの機嫌が急下降しているではないか。


「それでダンがね……」


 子供の頃の話を一々サツキに話すな、恥ずかしい。大事なのは現在であって過去ではない。

 この勢いでサツキの過去についてニナが質問するのではないかと俺はヒヤヒヤしていた。

 サツキが犯罪集団の一員だった事はニナにも両親にも話していない。

 俺は今のサツキが好きなのだ。過去は関係ない。

 だからこれからも話す気はないし、過去の事でサツキが傷付かないように守っていく。

 うむ。愛する妻を守るのは夫の役目だ。


「サツキはダンの何処がいいの?」


 ……大きなお世話だ。

 ちなみに俺はサツキのすべてが良いと思うが。

 サツキも不愉快に思ったようで、ムッとした表情で立ち上がった。

「サツキ?」

 すまなかった、ニナには良く言って聞かせるから機嫌を直してくれ。

 しかしそのままドアに向かおうとするサツキの手を俺は慌てて握った。

「何処へ行くのだ」

 するとサツキは振り向いて睨み付け、軽く俺の脛を蹴る。

「サツキ?」

「トイレね!」

 トイレ……? ニナが来る前に行ったばかりではないか。

 怒っているのだな? トイレと言いつつ部屋に帰るのかもしれない。

 よし、別室で話し合おう。そうすれば怒りもおさまるだろう。

 俺は立ち上がり、サツキの後を付いていく。

「付いて来るしない!」

「サツキ……」

 怒られてしまった。

 そうか、少し一人にして気持ちが落ち着いた頃迎えに行った方が良いか。

 そうだな、サツキだって一人になりたい事がある筈だ。

 サツキは俺を睨み付けて部屋から出て行った。


「はぁ……」


 思わず溜息を吐いた俺をニナが笑う。

「トイレにまで付いて行くなんて!」

 違うだろう、ニブい女だ。

「サツキは怒って出て行ったのだ」

「あら? どうして?」

 驚くニナに俺はしっかりと説教をした。

「駄目だろう、自分ばかり話すのはお前の悪い癖だ。特にサツキはトーラ語にまだ慣れていないので、お前の早口を聞くのは辛いのだぞ。しかも昔の話や答えにくい質問までして。少しはサツキの気持ちを考えろ。そして俺達の時間を邪魔するな。帰れ」

「まあ! こんなに饒舌なダンは初めてよ」

 ……俺の話を聞いているのか?

 打たれ強いニナを帰すのは、ちょっとやそっとの言い方では無理か。

「サツキと出会ってから変わったわね。いい男になってきたじゃない」

 なんだそれは。

 まるで以前の俺が、どうしようもない男だったみたいに聞こえるではないか。

「良かったわね」

 うむ。サツキと出会えたのは、そして結婚出来るのは本当に幸運だ。

「ところで結婚式は?」

 式か……。まだまったく決めていないのだが。

「いつにするの?」

「なるべく早くしたい」

 一応貴族であるので、数ヶ月から一年間の婚約期間を経て結婚となるのが慣わしだが、俺は早くサツキと結婚したいと思っている。

 それはカタヤ夫妻も了承してむしろ喜んでくれていた。

「そうね。場所は?」

「カタヤ夫妻に相談しようと思う」

 最近は神官を自宅に招き簡略化された式を執り行うのが主流で、それどころか式を行わない者も大勢いる。

 しかし俺は神殿での式を希望している。

 二人の新しい旅立ちはやはりしっかりとしたものが良いし、何より他国から来たサツキにトーラの古き良き伝統の結婚式を体験してもらいたいと思っているのだ。

「ドレスはどうするの?」

 何故ニナがワクワクしている? 余計な手出しはするなよ。

「何を着ても可愛いから問題ない」

「あら駄目よ! 女にとっては一生に一度の――」


「あ……」


 不意に聞こえた声に驚き、俺とニナはドアの方を見た。

 …………!

 サツキが虚ろな瞳で床に座り込んでいるではないか!

「サツキ!」

 俺はサツキに駆け寄り肩に手を置いた。

「どうしたのだ、サツキ」

 反応を返さないサツキを抱き上げソファーに戻る。

 ニナも心配そうにサツキを見ていた。

「サツキ?」

 サラサラとこぼれる髪を手で梳き頬を撫でると、サツキが俺を見上げる。

「――サツキ!」

 俺はその瞳に驚愕した。

 潤んでいるではないか!


「う……」


 ポロポロと大粒の涙を零し始めたサツキ。

「どうしたサツキ。気分が悪いのか?」

 痛いのか? 病気なのか? 医者を呼ぶか、いや病院に連れて行こうか。

 しかしサツキは首を横に振る。

 病気ではないのか? では……。

 サツキが俺の胸に縋り付く。

 俺はサツキを軽く抱きしめると、出来るだけ優しく背中を撫でた。

 何がこれ程までにサツキを苦しめているのだろうか。

 サツキが俺の胸を拳で叩く。抱く腕に少しだけ力を籠めた。

「サツキ」

 泣かないでくれ、愛しい人。

「サツキ……」

 サツキは俺に縋り付いて弱々しく泣き続ける。

 ニナが静かに部屋を出て行った。


 サツキ……俺の可愛いサツキ……。


 涙が枯れ果て再び笑顔を見せてくれるまで、俺はサツキを抱きしめ続けた。


samon様が素敵なイラストを描いてくださいました!


サツキに触らせないぞというダン。17話のあのシーンでございます。

隊長とニナも素晴らしい。

皆様是非見に行ってみてください。

(URL http://www.usamimi.info/~desertbug/index.html

サイトトップからブログに入ると見れます。)

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