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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第18話サツキ編   気付いた気持ち

 あー、なんかムカつく。


 朝っぱらからニナが来ている。

 まあ別にダンの彼女だから来てもいいけど、ちょっと早すぎない? さっき朝食が終わったばかりなんだけど。

 今日ダンは仕事昼からだから、その前に会っておこうと思ったのかな。

 でも人ん家の居間でイチャイチャするのは止めてほしいな。普通少しは遠慮しない?

 まあ……彼女だから仕方ないけど。


「それでダンがね……」


 二人の思い出いちいち私に語るのもやめてくれない?

 小さい頃から笑わない? へー、二人は幼馴染なんだ。

 三段重ねの特大ケーキを一人で食べた? ……別に今と変わらないじゃない。

 そんな事くらい私だって知ってるわよ。

 なんなの? 幸せいっぱいだって自慢したいの?

 へー。それは良かったね。


「サツキ、ダンの何処がいいと思う?」


 ……はあ?

 知らないよ、そんなの。

 なんで私に訊くわけ? 勝手にやってれば?

 あぁー! なんかもう、もう――ダンを殴り飛ばしたい!!


「サツキ?」


 立ち上がった私の手をダンが握る。

「何処へ行く」

 うるさいなぁ。何処へ行こうと私の勝手でしょ!

 だいたい彼女と二人で楽しくお喋りしてるところに、何で私が参加しなきゃならないの?

 手を振り払おうとしたけど、ガッチリ握って離してくれない。

 あーもう! イライラする!

 私は思いっきりダンの足を蹴った。

「サツキ?」

「トイレ!」

 やっと手を離したので私はドアに向かって歩きだす。

 すると驚く事に、ダンが立ち上がって付いてきた。

 え! この男本気!? 乙女が『トイレ』って言ってるのに?

「付いて来るな!」

「サツキ……」

 何? その『置いてかないで』って顔は。

 ママが居ないと不安になる子供か!

 確かに普段は仕方なくあれこれやってあげてるけど、今はニナがいるんだからニナに面倒見てもらえばいいでしょ!

 私はダンを睨み付けて部屋から出た。


 ああ、ムカつく。


 長い廊下を私は足音高く歩く。

 どうして今日はこんなにイライラするんだろ、おかしいなぁ。

 特にニナを見てると凄く嫌な気分になる。

 うーん……、やっぱりあの胸が原因かな?

 私は自分の胸を見る。

 う……、小さい。

 決してペッタンコではない。でも小さい。

 そりゃ私だってニナみたいな爆乳に生まれたかったけど、こればっかりはどうしようも無いじゃない。

 豊胸手術でも出来れば別だけど、トーラじゃ無理だよね。

 お金は腐る程あるのに残念だな。


 …………。


 もう自分の部屋に戻ろう。

 良く考えたら二人の話に付き合う必要ないもんね。何やってたんだろ、私。

 うん。部屋に帰って久し振りに本でも読も。

 そう思って部屋に向かおうとした時、丁度目の前のドアが開いてマチルダが現れた。

「サツキ様」

「あ……、マチ」

 働き者のマチルダは、お掃除中だったみたい。手にホウキや雑巾を持っている。

 さすがにこれだけ大きな屋敷だと一人じゃ出来ないみたいで、今は数日に一度の割合で通いの使用人さんが来ているけどね。

「何をしているのですか?」

 マチルダが首を傾げる。

「え……と、部屋に戻ろうかなって」

「ダン様は?」

「…………」

「サツキ様?」

 う、何かめんどくさい。根掘り葉掘り訊かれそうな雰囲気。

 仕方ない、居間に戻るか。

「やっぱり居間に行く」

 何か言われる前に私はサッと身を翻して小走りに居間へと戻る。

 はあ、追い掛けては来ないな。良かった。

 さて、気は進まないけど部屋の中に入ろうかな。

 ドアノブを掴んで薄くドアを開けてみる。


「結婚――」


 ……え?

 聞こえた声に体が強ばる。

 結婚? 何それ?


「いつにするの?」

「なるべく早くしたい」

「そうね。場所は?」

「カタヤ夫妻に相談しようと思う」

「ドレスはどうしようかしら」

「何を着ても可愛いよ」


 …………!

 な……に? もしかしてこれって結婚式の相談……?

 へ……え、結婚するんだ。

 そうだよね、二人共結婚しててもおかしくない感じだもんね。

 そうなんだ、じゃあダンはここを出て行くの? それとも……まさかこの屋敷に一緒に住むとか?


「あ……」


 あれ? 何でだろ。足に力が入らない。

 ヘナヘナになって床に座っちゃった。

 声に気付いたダンとニナが振り向く。


「サツキ!」


 ダンがびっくりした顔で走って来る。

 逃げたいのに足が動かない。

「サツキ、どうした?」

 ダンは私を優しく抱き上げてソファーへと戻り、膝の上に乗せて髪や頬を撫でた。

 なんで……こんなふうにするの?

「サツキ? ――サツキ!」

 あ、そうか。

 そこで不意に私は気付いた。


 私……ダンが好きなんだ。


 なんで気付かなかったんだろ。

「う……」

 途端に涙が溢れてくる。

「サツキ、どうした? 気持ち悪いのか?」

 おろおろとするダンに首を横に振る。

 自分の気持ちに気付かないなんて、間抜けな私。

 胸に顔を埋めると、ダンが私をギュッと抱き締めて背中を撫でた。

 どうして彼女がいるのにこんな事するの?

 酷いよ馬鹿、優しくしないでよ。勘違いしちゃうじゃない。

 ニナともうすぐ結婚するんでしょ、それなのに、それなのに!

 胸を叩くとダンが更に力を込めて抱きしめる。

 ……苦しいよ。絞め殺す気? 馬鹿。

「サツキ」

 気遣う声はまるで自分が愛されているみたいで・・・涙が止まらない。

 もっと早く気付いていれば、ううん、どちらにしてもダンにはニナが居て、私が割り込む隙なんて――割り込む?

「サツキ……」


 …………。


 いや、でも、そんな。それは人として最低?

 でもでも、誰かを好きになるって決して綺麗ごとだけじゃないよね。


 …………。


 うん。そう。そうだよ。きっとそう!

 だったら……。

 私はダンの服を握りしめる。


 ……略奪ってありかな?


 顔を上げると心配そうなダンの瞳。

 私は少しだけ笑った。

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