第16話サツキ編 芸術家支援計画
もうすぐ完成だなぁ……。
暖かな日差しが降り注ぐ中、私とダンは庭でお茶を飲んでいる。
この世界ってもしかして一年中春なのかな? 全然季節が変わる気配がないなぁ。過ごしやすくていいけど。
まあそれはともかく、今日はダン、お仕事お休みなんだって。
屋敷は大きい工事が終わって今は内装をやっている。だから屋敷の中より庭に出ている方がうるさくなくていいんだよね。
私は屋敷を見ながらお茶を口に運ぶ。
それにしても……、この屋敷って部屋数多いよね。元々必要以上に大きな屋敷を二つ繋げたんだから当たり前だけど。
日本で言うところのマンションとかアパートとかみたい。しかも『外国の貴族の別荘』ぽいお洒落な外観は、お金持ち若夫婦が住むような感じがする。
そういえば、屋敷の中も明るい雰囲気に変わってきてるなあ。
そしてお父様とお母様、ついでにマチルダとヤンもやたら明るい。みんな楽しみなんだね。
私はお茶をテーブルの上に置いて、再び屋敷を見る。
これだけ広い屋敷じゃ、この先使用人が増えたとしても絶対部屋余るよね。勿体ないなぁ。何かに使えないかなぁ。
うーんうーん。
その時、何だか視線を感じて私は正面に座っているダンを見た。
あ! そうだ、そうじゃない!
下宿人を増やせばいいんだ!
そうすれば部屋が埋まって家賃収入も……、でもなぁ。
うちはお金持ちだから、これ以上お金はいらないかな。
もっとこう、お金持ちならではの……あ!
もの凄い事思い付いた。私ってばこの世界に来てから冴えてる!
金持ちといえば、そう。あれがあった。
芸術家支援!
芸術家のタマゴが『お金はないけど夢がある』な状態なのはおそらくこの世界でも共通な筈。
絵や彫刻、音楽、ダンス等々、優れた才能を持ちながらも埋もれている人達を探して屋敷に住まわせて、有名になったら『私が育てましたの』とか言って自慢する。
芸術を志す人と私、双方にメリットがある素晴らしい考えだよね。
あ! 音楽団とか、あと劇団丸ごとって言うのもいいかも。
『天才子役』って日本でもちょっと話題になったよね。
そういう子を育てあげるってのもいいじゃない!
「サツキ」
今後の計画を頭の中で立てていると、ダンが話し掛けてきた。
「ん?」
「何を考えている?」
お? なんて良いタイミング。聞きたい聞きたい?
私はわくわくとして話し始めた。
「屋敷の空いている部屋に芸術家を住まわせるの!」
「芸術……?」
首を傾げるダンに私は頷く。
「絵描きとか音楽家とか踊り子や作家、劇団。そして天才子役もいっぱい!」
私の話を聞いたダンが目を見開いた。
フフッ、驚いてる。
「ね、いい考えでしょ?」
私が身を乗り出して言うと、ダンはハッとして何度も頷いた。
「あ、ああ。素晴らしいよサツキ」
おお! やっぱりそう思う?
余程私の素晴らしい考えに感動したのか、ダンの顔が興奮して赤くなってるよ。
ダンもたぶんお金持ちだから、こういう支援活動に共感出来るんだろうね。
「そうだ、俺が剣を教えよう」
「剣?」
そういえば日本にも殺陣ってのがあったし、役者なら剣も扱えた方がいいよね。あと派手なアクションとかも。
そしていずれは街のど真ん中辺りに劇場を建てて、国内は勿論、国外からも客が来るくらい有名な劇団になるの。
「うん。お願い。名前は何にしようか」
ここはやはりシンプルに『劇団サツキ』かな?
ダンは少し考えてから訊いてきた。
「『サツキ』は何て意味だ?」
ん? 私の名前の意味?
「えーと、『五番目の月』かな」
私、五月生まれなんだよね。
で、単純に『五月』と書いてサツキ。
本当は『皐月』って漢字にする予定だったんだけど、出生届け書く時に字が思い出せなくて『五月』にしたんだって。
じゃあ調べてから書けば良かったのに。
そこら辺のいい加減さが日本の両親の悪いところだったなぁ。
「素敵な名だ」
ダンが真面目な顔で言う。
え? そう?
そうかなぁ。でもそう言われるとちょっと嬉しいな。
「ありがとう」
ダンが私に手を差し出す。
「『サツキ』みたいに素敵な名前を一緒に考えよう」
一緒に考えてくれるんだ。
じゃあもっとかっこいい名でもいいな。
「楽しみだね!」
「楽しみだ」
まずは芸術家のタマゴを探さなきゃね!
私達はガッチリと握手をした。