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サツキとダンの新しい世界  作者: 手絞り薬味
サツキとダンの新しい世界
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第5話ダン編     衝撃の過去

 サツキの好意に甘え、俺は今日もカタヤに来ている。

 テーブルに並ぶ沢山のケーキは、毎日食べても飽きない美味しさだ。

 サツキは甘い物があまり好きではないのか、食べても精々二・三個だ。

 残りが全て俺の物になるのがまた嬉しい。

 手前のケーキから順番に手に取り食べていると、サツキがフウっと溜息を吐いた。

 ん? どうした?

 俺が顔を上げると、サツキは真剣な表情で言った。

「体、破壊するね」

 ……破壊?

「沢山食べる体、悪いなる」

 体が悪い……?

 少し考えて、気付いた。

 ああ、成る程。

 『病気』と言いたいのか。

 しかし、病気とは……。

 沢山食べると良くない?

 そうか。サツキの故郷では、まだそんな事を言うのだな。

「大丈夫だ。体は悪くならない」

 するとサツキは驚いて、眉を寄せた。

「これから、悪いなる」

 いや、俺は丈夫だから病気になどならない。

 それにたとえ病気になったとしても問題無いだろう?

「すぐに治る」

 俺の言葉に、サツキはポカンと口を開けた。

 ん? まさか、知らないのか?

 トーラが医療大国だと。

 トーラの医師に治せない病気など無いというのは、世界中で有名な筈なのだがな。

 そういえば、サツキの故郷『ニホン』という国を先日地図で探してみたのだが、見つからなかった。

 地図に載らない余程の小国か、『ニホン』と言うのが現地の呼び名、あるいは国ですら無いのかもしれないな。

 『ニホン』はとんでもない秘境にでもあるのだろうか。

 どうもサツキはトーラの事を詳しく知らないようだな。

 それならば何故、『密入国』などという危険を冒してまでトーラに来たのだろうか?

 人の過去を探るのは良くないのかもしれないが、俺は好奇心に負けてサツキに訊いてしまった。

「サツキは何故、トーラに来たのだ?」

 そして次の瞬間、俺は後悔した。

 サツキが目を見開き、それから俺を睨み付けたのだ。

 しまった……。

 誰にだって消し去りたい過去の一つや二つ、あるものだ。

 それをただの好奇心で、ほじくり返してしまった。

「サツキ……」

 すまなかったと謝ろうとした時、不意にサツキが口を開いた。

「分からーんね」

 え……?

「分からない……?」

 なにがだ?

 サツキは少々投げ遣りな感じで頬杖をついている。

 これはもしかして……。

「分からないのにトーラに来た?」

 という意味か?

 戸惑う俺に、サツキは自らの過去を語り始めた。

「おとさま、おかさま、リコン、んーと、別れ。誰も引き取るいない、一人生きるしかない」

 な……、なんだって?

 サツキの実の両親は亡くなっているのか!

 しかも引き取ってくれる親族もいないとは、天涯孤独の身になったという事か。

 可哀想に……。

「一人で住む無い。悪い仲間、色々彷徨う。ある日、コンビニ―――店から走って外出る。雨降る。急ぐ仲間の家。この屋敷庭に居る、カタヤおとさまおかさまに気付かれ、捕まった」


 …………!!


 サ、サツキ……。

 ……いや、そうだな。

 サツキのような華奢な女が住む家さえ無いのだから、悪い人間に声を掛けられ仲間になったとしても仕方がないのかもしれない。

 色々彷徨うという事は、世界を股にかけるような窃盗団だったのだろう。

 それでトーラに密入国か……。

 しかし、店に盗みに入ったところを警備隊にでも見つかり雨の中逃げた。

 アジトまで急ぐが追っ手が迫り、目の前のカタヤの屋敷に逃げ込んだが見付かって逮捕されたのか。

 なんという激しい過去なのだろう。

 まさかサツキが犯罪集団の一員だったとは……。

「ご飯、美味しい。綺麗なドレスいっぱい着る嬉しい。幸せ」

 ああ……、満足に食べられないような生活をしていたのか。

 だから、サツキはこんなに痩せて華奢なのだな。

 ドレスなど着た事も無かったのか。

 う……! なんて不憫なんだ、サツキ!

 俺の目からは涙がポロポロと零れた。

「う、ううううう……」

 俺は声を押し殺して泣いた。

「う、うう……、サツキ、可哀想に……」

 涙が、拭っても拭っても溢れてくる。

「幸せになって、良かったな」

 偶然とはいえ、カタヤの屋敷に逃げたのは幸運だったな。

 優しいカタヤ夫妻がサツキの事情に同情して保護を申し出てくれたのだろう。

 サツキが俺にハンカチを差し出した。

 これで涙を拭けというのか。

 ありがとう。

 俺が涙をハンカチで拭っていると、サツキがテーブルに突っ伏してしまった。

 ああ……。

「泣かないでくれ、サツキ。辛い過去を思い出させてすまなかった」

 いつも明るいサツキに、まさか犯罪者という暗い過去があるとは思いもしなかった。

 そして、そんな過去を話してくれたのは、それだけ俺を信用してくれているからなのだろう。

 俺はサツキの頭をそっと撫でた。

 大丈夫。サツキはもう一人ではない。

 サツキが困った時や悲しい時は、その信用に応え、必ず力になろう。

 涙が止まるまでずっとこうしていてあげるから、安心して思い切り泣けばいい。

 俺は自らも嗚咽しながら、サツキの頭を撫で続けた。


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