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たまには、こういうものもいいものです。

されどゆかしき、恋せよ乙女
作:天地 袋



一話:春風にほいし


春。
今年は開花が遅れたせいか、入学式にもまだ桜は散らずに残っていた。
僕の街では、桜は卒業シーズンの花だという印象が強かったから、入学式に咲いている桜は少しだけど珍しいと思ったんだ。

僕が今日、入学したこの高校へは、僕の中学校から他の入学者は居ない。
だから、入学式のあと、戯れてる他の生徒を尻目に学校の中を散策することにした。

午後はクラブ紹介といって、様々なクラブが新入部員獲得のために動き出すようだ。
僕は、苦笑いを浮かべながら、何件か誘いを断り、できるだけ静かな方へと逃げるように歩いた。

気づけば、図書館の前に来たようだ。
丁度良い、ここで少し時間を潰そう。

キィ…。
古臭いドアを開けると、冷たい空気と、本独特の匂いの空間が開けた。
僕は適当に、1冊本を手にすると窓際の席に腰を下ろした。

僕は図書館に人がいると言う可能性を微塵も考えていなかったから、前の席に女の子がいることに気づいた時は驚いてしまった。

紺のカーディガンを、セーラー服の上に掛けた彼女は僕が入って来たことに気づかないのか、顔を本からずらさない。

どこか少し窓が開いているのだろうか、緩やかに波打つ年季の入った白いカーテンに、散る桜の花びらが影絵のようにヒラリヒラと舞い落ちていった。

パラパラと、ページをめくって、適当に眺めては目を閉じる。
典型的な暇というヤツだ。

軽いため息をついてカーテンを少し捲ると、どうやら外は中庭のようだ。
僕はカーテンを戻すと、また視界を部屋に戻した。

相変わらず、女の子は本を食い入るように眺め、たまに顔をしかめたり、微笑んだり、コロコロ表情を変えている。

僕は、散る桜の花びらの枚数を意味もなく数えてはあくびをしていた。

※※※

カクンと、急に下に落ちる感覚で目を開けると、日はどっぷり暮れてしまっていた。

「あれ?寝ちゃったのか?」
独り言で目を擦りながら、腕時計を確認すると19時半過ぎを指している。

こんな時間だというのに、女の子もまだ残って本を読み続けている。
さらに驚くのが、遅いのだ。

時間もさることながら、この子の本を読むペースが遅いのだ。
牛歩、亀の歩みいや、この遅さは筆舌に尽くしがたい。

とにかく、素晴らしい勢いで遅いのだ。

それは、大きなお世話かもしれないが、さすがに学校に残れる時間帯ではないから一言、声を掛けておこう。

「あの…。」
全く、反応が無い。驚異的な集中力だ。

「あの!もしもし!!少しいいですか!?」

そこでやっと、声に気づいたのか女の子が顔を上げた。

「え?」

こういう声を鈴の音のような声というのだろうか。
元来、図書館で本を読む女性はおとなしい、超日本的な女性と相場は決まっているのだ。

「もう、ずいぶん遅いけど、こんな時間でも図書室にいていいんですか?」

女の子は、周りを見渡すと頭をかきながら、クソーとか、畜生またかーとかブツブツ言ったあと、僕の顔を見て不適に微笑んだ。

「ねぇ、君。新入生君?」

「え?はい、そうです。」
「ふむふむ、んじゃ、特権発動だ。図書室の鍵を職員室まで持って行きたまえ。」

前言撤回。

「え??僕がですか?」
「ん?じゃぁ、私に持っていけって言うのかな?」

そういう言われ方をしては、辛い。
確かに、同じ時間まで残ってるし…。声を掛けなければ良かったな…。

「はいはい、分かりましたよ。先輩…。」
「素直でよろしい。ほんじゃま、さいなら〜!!」

言うが早いか、彼女もとい先輩は風の如く去っていった。



〜されどゆかしき、恋せよ乙女〜


はい、こんにちは。天地袋です。
もう少し、もう少しまってください。
必ず、払いますから。











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