第8章 女神のお告げ
クラリスは一人乗りの小型ヨットを一艘借りました。
「一人でだいじょうぶ?」
サファイアが心配しました。
「平気平気。もうバッチリよ。ヴァイオレット、行くわよ!」
クラリスはセーラー服に半ズボンという男の子みたいなかっこうをして、ヴァイオレットを胸のポケットに入れました。
「ゴー!」
黒雲のジェットで小型ヨットは風のように走り出しました。
「ちょっと行ってくるわねー」
沖で遊んでいる大ダコとイルカたちに手を振りました。
「おいこらー、どこ行くんだー!」
というイルカの精の声もあっと言う間に後ろに消えていきました。
「なあ、ポリスの海って今軍艦がうじゃうじゃ出てるんだろう? だいじょうぶか?」
ヴァイオレットが心配そうに訊きましたが、
「平気平気。わたしを誰だと思ってるの? それにうじゃうじゃいるのはあっちの海。こっちはガラガラよ」
とクラリスは言いましたが、ちょっとハズレ、こちらの海も先の大ダコ騒動で警戒の船舶が、大型の軍艦こそいませんでしたが、何艘も浮かんでいました。
「見つかるぞ?」
「忍法霧隠れの術!」
クラリスは魔法で周囲に霧を起こすと鏡の反射で周囲の景色に溶け込んで易々と船たちの間を抜けて砂浜に到着しました。
意識したわけではありませんがちょうど王女たちをカザリンに送り出した浜でした。霊廟が王女たちの故郷を望む位置に建てられていたからでしょう。
クラリスはヨットを岩陰に隠すと丘の向こうに意識を広げました。
「首都はあっちの方ね。だいぶありそうね。あーあ、ナージャがいれば楽に一っ飛びなのになー。しょうがない。その前にいー」
クラリスはテレパシーを送りました。しばらくして、二人の人物がおっかなびっくりやってきました。
「ハアーイ」
「で、出たあ〜〜っ」
腰を抜かしそうに驚いたのはグスターとルネのカップル・・キャンディー王女たちを目覚めさせるとき手伝わせてさんざん恐い思いをさせた4人の悪ガキのうちの2人です。
「あ、あ、あ、あんた、本当にあの時のお化けなのか?」
「お化けじゃあないけど、そうよ、わたしがあの時のお茶目な魔女よ」
ヒイ〜と二人とも恐れおののきました。クラリスは実に心外です。
「祟りに出てきたんじゃないから。あのね、ちょっと訊きたいんだけど」
クラリスはその後彼らが王女たちのことを誰かに話したのか訊きました。
「別に怒らないから正直に話してちょうだい」
二人は顔を見合わせ、おずおずと話しました。
「黙ってたんだけど・・、墓が空っぽになっているのが見つかって大騒ぎになって、俺たちがあそこに肝試しに行くのを知っていた奴がいて、俺たちが疑われたんだ。それで・・、船もなくしてしまってたし・・、しょうがなく正直に話したんだ・・」
「やっぱり話しちゃったんだ。でも、信じた?」
「最初は全然。でも俺たちが嘘をついているんじゃないっていうのは信じてくれて、じゃあ本当にそういうことがあったんだろうってことになったんだ」
「へえー、信じたの? で、どうなったの?」
クラリスは得意な気持ちでワクワクして訊きました。
「不思議なこともあるもんだあ・・ってなったよ」
「それから?」
「だから不思議だなあ・・って」
「・・・・・」
「・・・・・」
クラリスはため息をつきました。もっと感動しなさいよ!と。
「でもその後がたいへんなのよ」とルネが言ったのでクラリスは期待しました。
「街の方に噂が伝わって、政府の調査団が来たの。それで霊廟を調べて、あたしたちも話を訊かれて。それが失礼なのよ、ミイラが甦るなんて馬鹿なことがあるわけない、君たちは悪い魔女に催眠術をかけられて操られて、まんまと窃盗団の手伝いをさせられたのだ、ってことになっちゃったの」
「なんですってええ〜〜」
もうクラリスは完全に頭に来てしまいました。
「誰が悪い魔女ですってええ〜〜。決めた。ポリスに呪いを掛けてやる!」
ヒイ〜〜とまた二人は恐れおののきました。クラリスはプンプンして言いました。
「ほんとに呪ってやる。ま、それでポリスが助かるんならいいでしょう。ねえあなたたち、今自分たちがどういう状況にあるか分かってる?」
「何でも言うこと聞きますから命ばかりはお助けを」
「違ーう! 海峡の状況よ。戦争が起ころうとしているのよ?」
二人は今度は深刻な顔で見つめ合いました。
「うん、知ってるよ。でも俺たちにはどうにもできない。命令されたことをやるだけだ。ヴァルは18歳だから軍隊に志願して、今、軍艦に乗ってるんじゃないかなあ・・。俺も親父に行ってこいって言われてるんだけど、まだ17歳だから志願しなければ猶予があるんだ。でも俺もそのうち・・」
「だいじょうぶよ」
クラリスは言いました。
「戦争なんか起こらない。わたしたちが止めてあげる」
二人は顔を見合わせて訊きました。
「本当か?」
「任せなさい!」
クラリスはエッヘンと胸を張りました。
「わたしは史上最高の魔女の娘なんだから!」
胸を張ったので胸のポケットに隠れていたヴァイオレットが押し出されました。
「わっ、小人!?」
「妖精だ、バーカ!」
「わあっ、ごめんなさい!」
ヴァイオレットはクラリスに「臆病な奴らだなあ」と自分のことは棚に上げて言いました。二人が臆病なのは前回クラリスがさんざん脅かしたせいです。
「あ、そーだ。あなたたちこの沖で軍艦が沈められたの知ってる?」
「ああ、知ってる!」
グスターは興奮して言いました。
「クラーケンが出たって大騒ぎだ! 丘からも軍艦が沈められるのは見えたからな」
「船員たちはだいじょうぶだった?」
「ああ、生き残った船に救助されたようだよ」
クラリスはほっとして、ニンマリしました。
「そう、大騒ぎなんだ。好都合。
あ、じゃああなたたちはもういいわよ。このお礼はまた今度きっとするから」
「いいえ、けっこうですっ!!」
二人は逃げるように早足で立ち去りました。
空が赤く染まってきました。
クラリスはヴァイオレットに島の向こうに飛んでもらいました。テレパシーで彼女の見ている景色を見ます。
山の向こうに海が見えてきて、その海には点々とたくさんの帆船が無数のボートを率いて展開しています。その向こうにはぼんやり陸の影が見え、その前にもこちらに倍する数の白い帆船の影が展開しています。
クラリスは実際目の当たりにして戦争の時が刻一刻近づいている現実に緊張しました。
ヴァイオレットが戻ってきて、
「お、クラリス」
と海を指さしました。真っ赤な空を背に大きな夕日が水平線に沈んでいくところです。クラリスは手をかざしてまぶしそうに目を細め、嬉しそうに言いました。
「さあて、魔女の時間が始まるわ」
ローゼさんはポリス島の中央にある首都アクロポリスに軟禁状態にありました。宮殿の一室に留め置かれ、待遇は悪くないようですが、もちろんそこから出ることはできません。
クラリスは山を越えてアクアポリスに行くのはたいへんだし、あまり意味もないのでやめて、代わりにヴァイオレットに会いに行かせることにしました。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
と、人見知りして臆病なヴァイオレットは不満を言いましたが、
「何のためにあんたを連れてきたと思ってるのよ!」
と、クラリスに叱られて泣く泣く行く羽目になりました。まったく勝手なものです。
クラリスは独り静かに目をつむり、アンテナを張り巡らせ、人々の会話や思考から情報収集を始めました。
全体的にポリスの人々は戦争を支持しているようです。かつての大海洋帝国の復活、とまではさすがに思っていませんが、海峡の支配は当然自分たちがするべきだと思っています。根拠は、シヴィリとテュークメンは大陸に土地を持っているが、自分たちには海しかないという思いです。その思いはポリス国民の胸に並々ならぬものがあります。
一方で戦闘への不安も当然あります。自分が死ぬかも知れないという恐怖はもちろん、夫や恋人、息子が死ぬかもしれないという女たちの恐怖もありました。戦争に敗れれば島が占領され、虐殺されたり、奴隷にされたりといった恐怖もあります。
恐怖を押して海峡支配の夢を実現せんと強力にリーダーシップを発揮しているのが国王です。アレクサンドラ37世。50歳で王としてもっとも力強い年頃です。国王の後ろに何人か知恵を授けている者たちが伺えますが、皆、王を恐れています。この戦争は国王が決断したものです。
ということは国王が決断すれば戦争はやめるということです。
しかしそうすれば国王の権威は失墜するでしょう。それだけ国民の戦意は高まってしまっています。
『フムフムやっかいね』と思いながらクラリスは別方面に意識を向けます。
軍艦が3隻沈められたことは大きな衝撃になっています。謎の巨大海中生物の仕業ということで監視は厳しくするようにと、残念ながら戦争に向かう状況に特に決定的な影響は与えていないようです。
『今のところはねー』とクラリスは魔女の笑いを浮かべます。
目指す相手を捜します。ロヴィークのお城でいう司祭や式典長のような存在です。ポリスはどちらかというと宗教色の薄い国家のようです。それというのもポリスの人々にとって神話は文化であり、アルマのアーやサークレのサインのような唯一無二の絶対神がいません。しかし文化の中に神々が溶け込んでいるので、きっと戦争を始めるときにも神を味方に付けるような儀式を行うはずです。それを執り行う宗教家を捜しているのです。
いました。アクアポリスの丘の神殿で夕餉の祈りを捧げています。
これまた好都合です。
「これ、そなた」
クラリスの声に60代の司祭はハッと天を仰ぎました。
「そうそう、おまえだ。戦を始めるというのにわたしへの挨拶がないというのはどういうことだ?」
あなた様は、いったいどなた様です?
「戦の神といったらミネーヴァに決まっておろうが!」
おお我が女神さま!、と司祭は恐れおののきました。ミネーヴァは数多いポリスの神々の中でも最高位の女神であり、特にポリス国家を守護する女神とされ、さらに戦の神でもあります。
しかし司祭は不審に思って尋ねてきました。
ミネーヴァ様には真っ先に王族列席の上この神殿で祈りを捧げましたが?
クラリスは『うっ』と思いながらしゃーしゃーと言いました。
「えーい、まだ足らん! だいたい上っ面ばっかりで貴様らまるで信心が足りない!」
司祭は困りながら、それはまことにもって申し訳ございません、と謝りました。
クラリスは言いました。
「この戦、ポリスは負けるぞ」
司祭はギョッとして、女神さまはお力沿いくださいませんのか!?と問いました。
「わたしの助力が欲しければもっとわたしを立てよ! 敵はポルセデューンを味方に付けてしまったぞ!」
海神を!!??
「そうだ。密かにポリスの儀式に通じた者を雇い、海神に生け贄を捧げたのだ。ほれ、きゃつの遣いがそなたらの船を沈めたであろうが?」
あれは、まさか、クラーケンの仕業!?
「他になにが巨大な軍艦を沈められる? 明日にはもっと深刻な事態が起こるぞ」
いったい何が?
クラリスはニンマリ笑って言いました。
「海が凍って船が固まるぞ」
海が凍り、船が固まる・・。司祭は女神のその恐るべき予言を反芻し心に刻みました。
夏の暑さがまだまだ残るこの時期に海が凍るなど、実際起こったらそれは奇跡以外の何ものでもありません。
しかし海が凍れば敵も動きが取れないのでは?
司祭の疑問にクラリスは答えました。
「ポリスの船は海上に孤立し、いずれ、海に食われるであろう」
これまた恐ろしい予言です。司祭の心は恐怖が轟き、不安に胸が潰れる思いがしました。
クラリスはこれ以上この老司祭をいじめるのは気の毒に思って切り上げることにしました。
「よいな? 戦に勝ちたくば我を前面に立てるのだ。我が分身となる美しい乙女に金銀の鎧かぶとを身につけさせ、皆に我への信仰を徹底させるのだ。さすればポルセデューンとの話は我が付けてやる。よいな?美しい乙女だぞ、忘れるでないぞ!」
司祭は「ははあーー」とかしこまり、クラリスはテレパシー通信を切りました。
クラリスは波打ち際に行くと海の水に手を付けて海の精と会話しました。
「海の精さん。すみませんがまたお手伝いしてください」
『やれやれ、何ですか?』
「えへへ。ポリスの軍艦に・・」
クラリスは海の精に自分の作戦を話しました。
『分かりました。やってあげましょう』
海の精は引き受けてくれました。
お腹が空いたなーと思っているとヴァイオレットの声がしました。テレパシーです。どうやらローゼさんのところに着いたようです。ヴァイオレットの視界に同調すると床に絨毯が敷かれ、白い壁にも綺麗な模様の織物が掛けられ、ポリスの名産である赤茶と黒の絵の壺が飾られた、なかなか居心地の良さそうな部屋が見えました。灯りは壺のタンクのランプです。細い樹皮で編んだついたての向こうに椅子に座って投げ出された足が見えます。
「こら」とクラリスは言いました。
「さっさとローゼさんに挨拶しなさいよ」
『え〜、だってええ〜〜』
「子どもみたいに恥ずかしがってんじゃないの! ほら、さっさと行きなさい!」
『わあ〜〜』
クラリスはヴァイオレットをリモコン操作してついたての向こうへ飛ばしました。
「あら」と黒髪、褐色の肌の女性が言いました。
「こんばんは。かわいいお客さんね?」
「ええーと、こんばんは。あんた、ローゼさん?」
「そうよ。あなたは?」
「あたい、ヴァイオレット。クラリスの友だち」
「ああー、あの高名な魔女さん」
ローゼはニッコリ笑いました。
「彼女もこっちに来てるの?」
『はあーい。そっちまで行くのはたいへんなので浜辺から失礼します』
「あらびっくり。ふうーん、これがテレパシーってもの? 便利ねえ」
『はい、便利です。ローゼさんは、お元気そうですね。ほっとしました』
「ええ。待遇は悪くないわよ。大事な人質ですからね。傷を付けたら、後々たいへんだものねえ」
『見張りは?』
「部屋の外にいるわ。中にいるとわたしがあれこれうるさいからみんな外に逃げちゃった」
『うるさいんですか?』
「ええ。うるさいなんて心外だけど。今のポリスのやり方がいかに馬鹿か、どうやったら経済が安定して平和でいられるか、具体的に提案してあげているのに、まったく、まるで魔女の誘惑みたいに嫌がられるのよ? あら、ごめんなさい」
『いえいえ』
クラリスは笑いました。なかなかチャーミングで、噂通り頭のよい人のようです。
「わたしをここから連れ出すつもりじゃないんでしょう?」
『すみません。今奪還作戦の準備中ですからもうしばらく我慢してください』
「我慢なんてしなくてもバカンス気分でのんびりしているけど、ちょっとたいくつね」
『休暇ももう明日までです。その後で一働きしてもらいますから楽しみにしていてください』
「ええ。魔女のお手並みを拝見させてもらうわ」
『ルピネーさんもカザリンで工作中です。あっちも忙しくしているはずですよ』
「あの人は忙しいのが趣味なのよ」
二人はいっしょに笑いました。
『それじゃあ、もうちょっと頑張ってください』
「ええ。わたしはだいじょうぶってあの人に伝えて」
『はい。必ず』
クラリスが魚を釣ってたき火であぶっているとヴァイオレットがごきげんで帰ってきました。
「えへへー、ローゼにトロピカルジュースご馳走してもらっちゃった」
「あらあらうらやましい。いる?」
「いらなーい」
クラリスは一人で焼き魚にかじり付きました。
「ローゼさん、なかなか美人だったわね?」
「そうだねー」
ローゼ・ガドゥはルピネーより5歳年上の姉さん女房で、35歳です。背がカザリンの女性としては高く、スラリとして、腰の位置が高いです。元々漁師の娘で精悍な顔つきをしていますが、目は優しそうで、気が強いだけではない知性の高さが感じられました。彼女がカザリンに流れてきたルピネーと結ばれて今こういう場所にいるというのも彼女にとっての幸運な巡り合わせだったのでしょう。
「直接会ってお話しするのが楽しみだわ」
「なあ、あたいがわざわざ会いに行く必要があったのか?」
「あら、あなたルピネーおじさまの奥さんに会いたくなかった?」
「いやあ、そりゃあ、いい人だったけどさ」
「じゃいいじゃない。頭の中のイメージだけじゃ像がはっきりしないのよ」
クラリスのテレパシーは人の考えを見るのが主です。物も、それ特有の「感じ」で見ることもできますが、やはり実際目で見るのとは微妙に違います。人を見ようとする場合、不必要に内面に入り込んでしまう嫌いがあります。
たき火の煙を見つけてまた恐る恐るグスターとルネの二人が様子を見に来ました。クラリスはちょうどいいので宿を頼みました。またカザリンに戻るのも疲れるなと、王女の霊廟にでも泊まろうかと思ったのですが、柔らかい寝床の方がありがたいです。二人は相談してクラリスにルネの家に泊まってもらうことにしました。
ルネは両親と妹と弟の5人家族で暮らしています。ルネは家族になんと言ってごまかそうかと心配しましたが、クラリスが自分で「キャンディー王女の友人の魔女」と名乗ってしまいました。両親は自分たちの娘の体験を信じていましたし、今回の戦争にも反対でしたのでクラリスを歓迎してくれました。そういえばクラリスはルネにひどいことをしたのでしたが、それはないしょです。
クラリスはルネの一家に海神ポルセデューンがポリスの敵になっているという噂をまき散らすよう頼みました。今夜の夢でクラリスはポリス中の人間にそのことを報せるつもりでしたが、実際誰かが口にしなければみんななかなか夢の中のお告げなど言い出しづらいものです。父親たちは、昼間の軍艦沈没騒ぎを目撃しているだけに、ほんとうにポルセデューンがポリスを滅ぼすのではないかと心配しましたが、クラリスは軽く言いました。
「ああ、わたし、クラーケンともポルセデューンの息子ともお友だちだから全然平気よ」
灯りが消され、お姉ちゃんのベッドにいっしょに眠る妹のベッドを借りて寝転んだクラリスは、途端に「くかあ〜」と眠りに入りました。
夢の世界のトンネルを抜けてまずサファイアに会いに行きます。
サファイアも忙しいルピネーは放っといて、暗くなるとすぐに眠っていました。
サファイアの夢にお邪魔します。
「こんばんは。そっちの方はどうですか?」
「うん。ルピネーが一生懸命悪巧みの仕掛けを作っているわよ」
ルピネーはさっそく商売仲間のつてを頼ってクレオの考古学者にロンババの鎧かぶとを発見したという情報を大至急流してもらいました。
「ロンババの鎧かぶとって、ポリスの?」
「違う違う。リオナが受け取った方の鎧かぶとよ」
「見つかったの?」
「見つかるわけないじゃない」
サファイアは悪戯っぽく笑いました。
「だから、仕掛けよ。キャンディー王女たちに訊いて、似た鎧かぶとを捜し出して、いろいろと細工をしているのよ、これぞ本物に間違いない!っていう」
「ははあ〜ん、偽物を作ってるんだ? おじさまはそういう商売してるの?」
「してないわよ。でもそういう物を売りつけようとする輩が多いから自然とやり口を覚えちゃったのよ。でね、かぶとの裏側に王女様に一筆書いてもらって。偽物だけど、本物よねえ? 学者に見せたら大喜びするわよ?」
「それでロンババ様の真実の姿を教えてやるわけね? うん、さすがおじさま! そうそう、わたしはローゼさんに会いましたよ。本当に会ったのはヴァイオレットだけど」
「無事だった?」
「ええ。元気そうでした。ルピネーおじさまに伝えてください、ローゼさんが自分はだいじょうぶだって言っていたと。確かにだいじょうぶでしたから安心するようにわたしからも」
「了解。ほんとはね、あいつも内心じゃ心配でたまらないのよ。もうー、ベタ惚れしてるから。ウフフフフ」
クラリスもウフフと笑いました。
「それじゃあそっちの仕掛けも急いでください。わたしも海の精と明日からさっそく作戦を開始しますから」
「オッケー。頑張ってね」
「はい」
サファイアの夢から帰ってくるとクラリスはポリスの人々の夢に強力なテレパシーを送信しました。内容は「ポリスの守護女神ミネーヴァが怒っている。海神ポルセデューンは生け贄を捧げられて敵側に付いてしまっている。明日には海で海神の恐ろしい奇跡が起こるぞ!」という予言(脅し)です。
ポリスの人々をさんざん脅しつけたクラリスはやれやれとようやくぐっすり眠り込みました。
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