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です。
今回は地理的政治的にごちゃごちゃめんどくさい話ですので特に前半はさらっと読み流してください。
第1話を読んでないとさっぱり分からない話なので先に読んでくださいますことをお願いいたします。
第1章 命名式
前回のあらすじ。
伝説の黒魔女の娘クラリスは9歳。今はオーロラ姫の妹分としてロヴィーク国のエメラルド城でいっしょに暮らしている。
空から降ってきた星が妖精の国に落ちて妖精が大量発生した事件もクラリスの活躍(余計なお節介?)で一件落着。・・・海にいろいろお荷物を残してきたようだけど・・だいじょうぶ?
2ヶ月後。
オーロラ姫に待望の赤ちゃんが産まれました。
男の子です。王子様です。
国中に喜びが報せられ、国民は皆お祭り騒ぎです。
さっそく妖精の国にも報されました。・・まあ、勝手に聞きに来るのですが。
王子のお披露目である1ヶ月後の命名式、妖精の国から女王様の使者として一人の妖精がやってきました。それは・・・
前の日。
「やっほー、クラリス。おひさ〜」
勝手に窓から入ってきて気軽に挨拶したのはサファイアの精です。
「こんにちは、サファイアさん。お久しぶりです。で、今日はどちらから?」
「妖精の国からよ」
「あら、やっぱり帰ってたんですか?」
「ラピスは嫌いなんだってば」
「ルピネーさんはずっとラピスなんですか?」
「うん。そうみたい。あいつもすっかり忙しくなっちゃって、つまんない」
「立派になってサファイアさんも鼻が高いでしょう?」
「ああいう立派ななり方はね、興味ないの」
肩をすくめるサファイアの精にクラリスはフフッと笑いました。呑気で遊び好きで飽きっぽい、いかにも妖精らしい妖精です。
サファイアの精はラピスの政治家ルピネーの名付け親で・・というのは前回もチラッとお話ししましたが、今回はこのルピネーが重要な役割を担うことになりますのでおいおい紹介していきます。
さて前回の事件でオーロラ姫の護衛に着いていたサファイアの精は、事件解決後、エメラルド城のあるエメラルドタウンとロヴィーク国の首都カンパニアで遊んでいましたが、その後妖精の国に帰っていたようです。
「王子には会ったの?」
「両方とも会ってきたわよ」
生まれた王子様と父親のシルバー王子です。
「姫さんもすっかりお母さんの顔になってたねー」
「そうね」
クラリスは王子が来たので親子三人水入らずになるよう遠慮して城内を散歩をしていたのでした。
「シルバー王子もデレデレね」
クラリスも思い出して微笑みました。王子もずいぶん苦悩を味わった末の今の幸せですから関係者の一人であるクラリスにも感慨深いことです。
「国もお祭り騒ぎね! あたしああいうのだ〜い好き!」
オーロラ姫が目覚めてからお祝い続きで、これまたけっこうなことです。
「妖精たちもいっぱい遊びに来ているわよ」
「またこの間みたいな騒ぎにはならないでしょうね?」
「ないない」
サファイアの精は笑顔で手を振りました。
「あ、ところでさ、知ってた?妖精の木のこと?」
クラリスはうなずきました。
「リラさんから聞いたわ。またいっぱい妖精を生むようになったんですって?」
サファイアの精はうなずきましたが、深刻な様子はありません。
「いっぱいったって、あんなにい〜っぱいじゃないけどね」
星の光とクラリスのせいでしょう、妖精の木は複数の妖精を生み出すようになりました。つまり、これまでサファイアの精ならこのサファイアの精が一人いるきりでしたが、それが2人も3人も生まれるようになったのです。
「そうそう、あなたにいい報せがあるのよ」
サファイアの精はニコッと笑いました。
「写し鏡の精が生まれたのよ」
「まあっ!」とクラリスは嬉しそうに手を合わせました。
「今度はどんな子? またひねくれ者?」
「正反対」
「すごくいい子ってこと?」
「いいえ。やたらハイテンションな明るい子と、物静かな暗い子。双子なの」
「まあっ!」とまたクラリスは手を叩きました。
「早く会いたいわね!」
サファイアの精は意地悪にニタッと笑って言いました。
「さあ〜? いつ会えるのかしらね〜? なにしろあなた、当分妖精の国に出入り禁止だものねえ〜?」
クラリスは途端にむっつり不機嫌になりました。
「どうせわたしは鏡の精の協力なしでは妖精の国に行けませんもの。フンッ」
前回の事件で女王様の勧告を無視して勝手なことをして大迷惑をかけたので、お仕置きに当分出入り禁止処分になったのです。
「なによなによ、頼ってきたのはそっちじゃない。押し付けといてひどいわよ」
「最後は助けてやったんだからおあいこでしょう?」
「分かってるわよー」
クラリスだってちょっとは反省しているのです。それというのも・・
「あ、サファイアだあ」
「ハロー、おチビさん」
「チビじゃないやーい!」
飛んできたのは火花の精ヴァイオレットです。
「はいはい、ごめんなさい。元気そうね、相変わらず」
「うん!あたいはね。あ、知ってる?こいつさあー」
ヴァイオレットがクラリスを見てニヤ〜ッと笑ったのでクラリスはまたむっつりしました。なになに?と好奇心旺盛に訊くサファイアにヴァイオレットは目を笑わせて言いました。
「あれから1ヶ月寝たっきりでさ、そろそろお姫様に赤ちゃんが産まれるって気が気でなくってさ、無理やり馬車で帰ってきて、それからもずーっと寝たきりでお姫様の方がお見舞いに来てたんだぜ。お姫様が産気づいてからようやく起き出したんだ。なあ〜?」
「はいはい、その通りです」
あんな無茶をしたせいです。体がまったく動かなくなって、まるっきり病人でした。今もまだ本調子でなくリハビリ中です。
「それはたいへんだったわね」
サファイアは笑わずに心配してくれました。
「だいじょうぶなの?」
「はい。もうだいじょうぶです」
クラリスは元気な笑顔を見せました。
「ところで、名付け親には誰が来るんです? もしかして、サファイアさん?」
一人の妖精はその人間が生きている限り一人の人間の名付け親にしかなれない決まりでしたが、今のダイヤ女王様になってからその決まりは撤廃され、妖精は自分の責任で何人でも人間の名付け親になっていいことになっていました。
「違う違う。ちょっとねー、ヤな奴が来るわよ〜」
サファイアは「イ〜〜」という口をしました。
「誰です?」
「金よ」
唇を突き出して言いました。
「あ〜、まったく、ヤな奴う〜〜」
クラリスは小首を傾げました。金の精にはまだ会ったことがありません。どちらかというとおっとりした、性格のいいサファイアがこう言うのですから相当なキャラクターなのでしょう。
「わたしの方からもあなたにお知らせがあるわ。ラズベリー大伯爵ご夫妻が来ていらっしゃるわよ」
サファイアは「ゲッ」と飛び退きました。
「あのじいさん!?」
「こらこら」
クラリスは苦笑しながらサファイアを睨みました。まあ、クラリスも同じような気持ちですが。
「天下の大伯爵様に向かってなんですか」
「いるの?ここに?」
サファイアはクラリスの背中に隠れるようにキョロキョロして言いました。
「今はカンパニアよ。明日王様ご夫妻といらっしゃるわ」
ここはエメラルドタウン。今回の王子の命名式はエメラルド城のシルバー王子のスタッフがメインになって取り仕切ることになっています。お城のみんなは大張り切りです。
ここエメラルドタウンは2年前に突然エメラルド城が丘の上に越してきて、それから何もない原っぱに建設が始まった町です。ですからまだまだ未完成で、シルバー王子とオーロラ姫の結婚式はカンパニアで行われましたから、今回の命名式がこの町初めての大きな行事で、国の次の時代を担う新しいスタッフと共にこの町自体も国中に、さらに外国に、お披露目になるのです。
エメラルドタウンは何もなかったところに作るだけに全体がよく計画された美しい町になる予定で着々工事が進んでいます。
サファイアは苦手そうに笑いながら訊きました。
「アナトリーは?」
「ラズベリーアールでお留守番よ」
「そっかー・・。じゃ当然ママさんも?」
「当然ね」
「ふうー・・ん・・。ま、しょうがないわね・・」
サファイアはまた苦手そうにため息をつきました。アナトリーについてはまた後で。
翌日、命名式当日。
エメラルドタウンは町始まって以来の大勢のお客さんを迎えました。しかしそもそもエメラルド城そのものが可愛らしい宮殿で、大勢のお客さんを内部に呼べるほど広いホールもありません。そこで命名式は中央の広場にステージを特設して行われます。お天気とオーロラ姫母子の体調が心配ですが、そこは妖精たちが味方してくれていますからだいじょうぶです。リラの精が付きっきりで、この実に人間くさい妖精はかわいい赤ちゃんの誕生が嬉しくてたまらないようです。・・またまた王妃様が張り合って周りの者たちはとばっちりを受けて迷惑この上ないですが。
オーロラ姫とフランシー王子・・妖精の女王様から賜る名前と別に両親からこの立派な名前が与えられていました。もっともオーロラ姫にもイリーナという名前があったのですが、みんなにオーロラと呼ばれるので本人さえその名前をすっかり忘れてしまっているくらいでした。姫と王子はステージの後ろのテントで出番を待って休んでいました。外のウキウキした雰囲気に揺りかごの中のまだまだ首のすわらぬ赤ちゃん王子は早くも興味津々のようで大きな目をキョロキョロさせています。「お猿さんみたい」とオーロラ姫は自分の赤ちゃんをからかいます。たしかに目ばかり大きく貧相に見えなくもないですが、
「あなただって生まれたばかりの頃はもっと目玉がギョロギョロして、それはそれは可愛くない赤ちゃんだったのよ」
とリラの精はからかい、
「この子はきっととってもハンサムな青年に成長するわよ!」
と自信満々に請け負いました。それを聞いてオーロラ姫も一安心です。もっとも何を言われようと自分の子どもの愛しさに変わりありませんが。
パパパラパーン、と広場の入り口でラッパのファンファーレが吹かれました。
「ロヴィーク国国王リカルド8世陛下、王妃クララ陛下、ご到着〜。
ラピス国伯爵イーゴル・ラズベリー閣下、伯爵夫人マリアンヌ・ラズベリー様、ご到着〜」
4頭立ての豪華な馬車から国王夫妻と伯爵夫妻が降り立ち、広場に集まった人々は大きな拍手で迎えました。きらびやかな制服に身を固めた男女の衛士たちに守られて広場前方の貴賓席に案内されていきます。その間も通路の両脇のお客たちは熱狂的な拍手と歓声を送りました。広場は3層に仕切られています。前方のステージに向かって1番前が特に高貴な特別の招待客。2番目が国にとって重要な招待客で、ここまでで広場の半分くらい。残りの第3層目は一般向けの自由席。ですが、混乱を避けるために事前に抽選を行って、抽選に当たった人々は大いに盛装してこの栄誉に胸を張っています。ちなみにオーロラ姫の命名式はお城の中の聖堂で選ばれた特別の人々のみの出席の下行われましたから、この度の王子の命名式がいかに国民に開かれたものであるか伺えます。
国王夫妻、伯爵夫妻は先に到着して着席している高貴な方々に挨拶して自分の席につきました。
ステージ・・階段3段分の高さの舞台に立ってシルバー王子が晴れやかに挨拶しました。形式張った退屈な式次第はなしです。
「お集まりの皆さま、ご紹介いたします、我が妻イリーナ・オーロラ・ルービッシュ・ロヴィーナと、我々の愛息フランシー・ルービッシュ・ロヴィーナです。介添えは妖精リラと我らが友人クラリスです」
人間サイズのリラの精とクラリスに挟まれて王子を胸に抱いたオーロラ姫が満面の笑みで金の飾り門から登場し、広場はひときわ大きな歓声に包まれました。王子がびっくりして泣き出さないかと心配しましたが、色とりどりの妖精たちが飛んできて、王子は興味深そうに目で追いました。
妖精たちはひとしきり王子の周りを飛ぶと、空に向かって順々に2列に並び、天から王子の前に道を作りました。
妖精たちの合図でシルバー王子がアナウンスしました。
「妖精の国より妖精の女王の下された名前を携えて息子の名付け親になってくださる妖精が来てくださいます。金の精です」
シルバー王子が手で指し示すと、ピカリと、青空に金色の輝きがして、金の光が妖精たちの作った道を下りてきました。クラリスの肩にはヴァイオレットがとまってクラリスのお相伴でぼ〜っと大観衆(そんなに大きな広場ではないのでそんなに大観衆でもないのですが)の歓迎の栄誉に浸っていましたが、反対の肩にサファイアが下りてきてむっつりと言いました。
「見てごらんなさいよ、あの偉そーな、演出。何様のつもりよ」
クラリスはおかしそうにクスッと笑いました。きっと宝石系の妖精と貴金属系の妖精とは仲が悪いのです。でも、
近づいてくると金の光が人の形に見えてきました。金色の金の精は背中に金色の光の三角形の羽根を生やし、さらに腰からずーーっと長く、金色の帯というかスカートというか、とにかくあまり意味のなさそうな飾りの布を伸ばしていました。髪の毛も、人間だったら明らかにカツラだろうという、豊かすぎる金色の髪を高々と顔の3倍くらいの高さに結い上げています。なるほど、見るからに偉そうな妖精です。
王子がリラの精に譲られてオーロラ姫のとなりに立ちました。親子の前に下りてきた金の精は、人間サイズのリラの精にツンとあごを反らせると、王子と姫に向かって深々と大仰に腰を折って挨拶しました。
「王子様のお誕生、おめでとうございます。妖精の女王より王子の名付け親の名誉を承った金の精ゴルディーヌでございます」
クラリスは小声で「ゴルディーヌ?」とサファイアに訊きました。サファイアはクラリスの耳に口をつけて囁きました。
「何人も同じ種類の妖精が生まれるようになったでしょ? それで妖精たちの間で自分に人間みたいな名前を付けるのが流行っているのよ。あんたの先生が先駆けね。ま、たしかに同じ妖精同士、名前がなくちゃ不便だからいいんだけど、最初の妖精は、わざわざ、名前なんて付ける必要ないわよ、ねえ〜〜?」
金の精ゴルディーヌはジロリとクラリスとサファイアを睨みました。耳がいいようです。クラリスは微笑んで軽く挨拶しましたが、無視されました。嫌な感じです。
「妖精の女王より預かった名前をお贈りします。
この子の名は、オーロル」
オーロル王子。オーロラ姫と一字違いです。素敵な名前にオーロラ姫とシルバー王子は顔を見合わせてニッコリしました。シルバー王子がお客さんに宣言しました。
「名付け親金の精ゴルディーヌさんより素晴らしい名前を賜りました。オーロル。我が子は名をフランシー・オーロル・ルービッシュ・ロヴィーナと決まりました」
長い名前です。王子はこれからオーロル王子と呼ばれることになるでしょう。
広場からまた盛大な拍手がわき起こりました。皆新しい王子の誕生を心からお祝いしてくれています。
「それでは」
ゴルディーヌが偉そうに身を反りかえらせて言います。
「名付け親のわたくしからこの子の成長の手助けとなる贈り物をいたしましょう。ああ、念のため申しておきますが、名付け親がわたくし一人なのは、わたくしが金の精で、力がとても強いため、他の妖精が必要ないからです。わたくし一人を遣わした女王に他意はございませんので念のため。それどころか、わたくしが名付け親に選ばれたのは女王からの最大級の好意と友好の証です」
サファイアの精がクラリスの耳に言いました。
「ねー? 嫌な奴でしょう?」
クラリスは苦笑するしかありません。ゴルディーヌはどうせ聞こえているのでしょうがツンと澄ましたまま言いました。
「ではわたくしからの贈り物を。わたくしの贈り物は『成功者の栄光』です」
ゴルディーヌは赤ちゃんの顔の上にかがんで額に祝福の口づけをしました。オーロル王子の額に金色のキスマークが記され、すぐに消えました。目には見えませんが、このキスマークは一生涯残って彼を守ってくれるのです。
ゴルディーヌは自分の役割を終えて満足そうに身を起こしましたが、オーロル王子が唇に触れたゴルディーヌの金の尾をパクッとくわえるとチューチュー吸いました。
赤ん坊のオッパイを吸う力はあなどれません。
ゴルディーヌはズルッとお尻を引き込まれて「キャーッ」と悲鳴を上げました。オーロラ姫もびっくりして王子を揺すってあやしました。
「こらこらわたしの赤ちゃん、ちゃんとオッパイをあげるから変な物を吸い込むんじゃありません」
ゴルディーヌがキーッ!と怒りました。
「変な物って何よーっ! こら、ガキ! 放せ! わっ、こら、吸うんじゃない! わたしは食べ物じゃない! わたしは金だぞ! おまえ、わたしの価値が分かっているのか!? 分かってないだろう? こら、吸うな、・・イヤ〜ん!」
サファイアはおかしくて大笑いしました。クスクス笑っていたヴァイオレットもたまりません。アーハハハ、と腹を抱えて大笑いして、金の精の道を作っていた妖精たちもいっしょに大笑いしました。
ゴルディーヌが真っ赤になって目が三角に吊り上がってきたので、クラリスはえい、とオーロル赤ちゃんにオーロラ姫の笑顔と美味しいオッパイのイメージを与えてやりました。オーロル赤ちゃんは不思議そうに自分を覗き込む母親の顔を見て、物欲しそうに口を開きました。
「きゃっ」
ゴルディーヌは突然解放されてクルクル回りながらピューンと空に飛んでいきました。それを目で追ったオーロル赤ちゃんは・・
「きゃははははははは」
突然けたたましく声を上げて笑いました。
「まあ! 笑ったわ!」
「笑ったね!」
両親はまた顔を見合わせて笑い合い、リラもニッコリ微笑みました。お客さんたちも赤ちゃんの初笑いの元気な声にニコニコしました。
空から戻ってきたゴルディーヌは、
「このクソガキが!・・・コホン。ホ、ホ、ホ。ど、どう? 赤ちゃんを笑わせてさしあげたわ。この子は将来大物になるわよ! わたくしの力の大きさが分かったでしょう?」
と大威張りしました。金色の尻尾はだらりと垂れてぽたぽたオーロル赤ちゃんの唾液を滴らせています。
まあたしかに大物になりそうね、とクラリスも赤ちゃんの笑い声を聞きながら思いました。
面倒な式典は終わり。高貴なる方々と特別のお客様方はお城の中に案内され、ご馳走が振る舞われます。
広場では引き続きお祭り騒ぎです。楽団が演奏をはじめ、楽しい音楽に合わせて男女がペアになってみんなで輪を作って踊り出しました。
オーロラ姫の子どもの頃とは妖精たちの数が全然違います。妖精の国のうるさい規則もなくなって、このお祭り騒ぎに多くの妖精たちが遊びに来ています。彼女らはシルバー王子とオーロラ姫のお願いで子どもたちの名付け親・・名前はともかく、誕生のお祝いの口づけを希望者たちにして上げています。あらかじめお触れが出してあり、首都カンパニアはもちろん他の町や村でも王子誕生を祝うお祭りの会場で妖精たちが子どもたちやお父さんお母さんに抱かれた赤ちゃんたちに祝福を授けています。
オーロル赤ちゃんはお母さんのオッパイを飲んで満足してお昼寝に入りました。赤ちゃんはお世話係に任せてオーロラ姫もシルバー王子といっしょにお客様方への挨拶に忙しく歩き回りました。お城はあまり広くないのでホールと、奥の二つの間が立食パーティーの会場に充てられています。宿泊施設もまだまだ整っていないのでお城主催のお祭りは昼間だけです。この昼食会で一応お開きで、国内のお客様はそれぞれお好きにしていただいて、国外のお客様方は王様夫妻と首都カンパニアに戻ってご宿泊してもらいます。シルバー王子の主催とはいえまだまだ王様夫妻とカンパニアの後援を受けています。
お客様の中におとなりルービッシュ国のシルバー王子のご両親閣下と弟殿下の夫妻とお子さまもお見えになっていました。23歳の若い王子に対してちょっと老けたご両親と中年の弟さんですが、この事情は「眠れる森の美女」の物語を参照のこと。中身も見た目通りの若さのオーロラ姫に対し、シルバー王子は見た目の若さより実はずっと大人なのです。
クラリスもお城の会場にいましたが、ちょっとここにはいたたまれません。事情は同じく「眠れる森」を参考のほどに。み〜〜んな、お母さんのせいです。ここにいるシルバー王子のご家族やラズベリー伯爵夫妻にはどれほどの迷惑をかけているか知れません。
「クラリス。いらっしゃい」
王妃様にニコニコと手招きされてしまいました。クラリスは内心、う〜〜・・と胃が痛くなっています。せめて王妃様にはお味方いただこうと王妃様が贈ってくださったふりふりフリルのピンクドレスを着ています。
王妃様がお相手しているのは、なんと、ラズベリー大伯爵夫妻でした。・・あー・・・、よりにもよって、いっちばん、お母さんが迷惑をかけた人たちです。
「こちらがそのクラリスですわ。母親に似ずとても素直な良い子で。オホホホホ。クラリス、こちらラズベリー伯爵夫妻様よ」
王妃様に紹介されてクラリスはニコッとぎこちない笑顔を作って挨拶しました。
「はじめまして、伯爵様、奥様。・・・・母がたいへんご迷惑おかけいたしまして・・」
伯爵は・・とても怖い顔の人です。例えるなら大鷲がぴったりでしょう。高いかぎ鼻が鋭いくちばしそっくりですし、何より、鋭い大きな目! 空の王者の威厳と威圧と、そのものです。肩幅が広くがっしり筋肉質で、御年71歳!でありながら癖の強い黒髪がふさふさしてエネルギーに満ちあふれています。
人は賞賛と畏怖を込めて大伯爵と呼びますが、その名に恥じない堂々たるたたずまいです。
ギョロリと鋭い目に見下ろされて、クラリスは空から狙われる野ウサギのように震える思いがしました。
「よいのおー」
大伯爵が口ひげの下で言って、クラリスは『えーと、それはラピスのお言葉でしょうか?』と考えました。
「のお?」と言われてお隣の奥様が「ええ」とニッコリなさいました。伯爵様よりずいぶんお若い綺麗な、彫りの深い典型的なラピス美人のご婦人です。
「いいわねえー、女の子は。うちは男の子ばっかりでつまらないわ。あーあ、本当だったらわたしにもこんな可愛らしい孫がいたはずなのよねえー・・。あーあ、それがあんな、熊、で・・」
奥様は額に手をやって大げさに嘆きました。クラリスを見てまたニッコリして、
「うちに連れて帰りたいわあ」
と言いました。
「オホホ、奥様、それはいけませんわ。この子はもうわたくしがもらい受けました」
クラリスは王妃様に腕を引っ張られて後ろから抱きかかえられました。
「あのにくにくにくったらしい魔女から、わたくしが奪ってやりましたの。おほほほ、最高の復讐ですわ」
「それならわたくしどもにも復讐させていただかなくてはいけませんわ」
今度は伯爵の奥様に腕を引っ張られました。
「わたくしだって復讐にうん〜〜っと、かわいがらせていただきたいわ。ねえー?」
ニコニコ笑顔で顔を覗き込まれました。クラリスはほっとしながら苦笑しました。どうやらこの奥様も王妃様の同類らしいです。伯爵様はどうなのでしょう?
「お嬢ちゃんはペガサスに乗っておるそうじゃな? わしの国にも野生の馬がたくさん駆けめぐっておるぞ。白い体に額に銀のマークをつけた奴がおっての。どうじゃ?わしといっしょに捕まえんか?」
「あなた」と奥さんに叱られました。
「女の子にそんなやんちゃな誘いがありますか。ねえクラリスちゃん、劇はどーお? 町に大きな劇場があって、とっても面白くて人気の劇があるのよ? ね?観にいらっしゃいよ?」
ね?ね?と奥様は迫ってきて、伯爵様も遠慮がちに微笑んでいます。どうやら本気でクラリスをラピス、伯爵の領国ラズベリーアールに連れていきたいようです。う〜〜む、どうしましょう?
青い光が飛んできてクラリスの頭の上にちょこんと乗っかりました。
「ほらね、こういう人たちなのよ」
サファイアです。
「人なつっこいっていうか、猫っかわいがりっていうか・・、たいへんなのよ」
肩をすくめました。
「サファイアちゃん。お久しぶりじゃないのお〜。ひどいわあ、あの熊のところにいないなら、ちゃんと家に帰っていらっしゃいよお」
「あのねえ、奥様」
サファイアも苦笑して言いました。
「わたしの家は妖精の国にちゃーんとあるんです。こっちには遊びに来ているだけで・・」
「こら、サファイア!」
大伯爵が怒ったのでサファイアもクラリスも周りのお客さんたちもビックリです。
「なんと悲しいことを言うのだ! あの熊の名付け親ならわしらにとっては家族と同じ。おまえの我が家は我がラズベリーアールであろうが?」
「そのお気持ちはとっても嬉しいんですけど」
サファイアは苦笑しながら、そうだ!、と手を打ちました。
「じゃあこのクラリスを差し出します。いえいえ、レンタルですよ。オーロラ姫に、こちらの王妃様に、妖精たちに、この子は人気者ですからね。一人で独占は出来ません。だからレンタル。ね?」
まあそういうことならば、と大人たちは納得して、どうやらクラリスのラズベリーアール行きは決定してしまったようです。
「それにしてもあの熊はけしからん!」
と大伯爵が怒って言いました。クラリスはあれって?とサファイアに訊いて、サファイアは「そっ」とまた肩をすくめました。
「ルピネーのことよ」
大陸の東半分を占める大国ラピス。その実力は国王さえ凌ぐと噂されるラズベリー大伯爵。ルピネーはその息子です。生まれて間もなく何者かに誘拐され(これがクラリスの母親の仕業だったのですね)、筏に乗せられて川に流されて、何をどうやったらそんなところに行ってしまうのか、なんと内海ノール海を渡った向こうの国、カザリンの漁師に拾われ(だからこれもクラリスの母親の仕業だったんでしょうねえ・・)、17歳でようやくサファイアに見つけられて両親との再会を果たしたのでしたが、その感動の再会もクラリスの母親のせいで滅茶苦茶にされてしまったのでした。ですからクラリスが伯爵夫妻に会うのにこんなに胃を痛くしているのです。
大伯爵は自分の息子を「熊」呼ばわりして怒ってます。
「ローゼ殿を連れてくると言うから楽しみにしておったのに、なんじゃ、いまだにこんではないか! えい、あんな熊はどうでもよいが、わしはローゼ殿に用があるんじゃ!」
ローゼというのはカザリン国のルピネーの奥さんですが・・これもちょっと事情を説明する必要があるのですが・・、事態の方が急を告げました。
カンパニアから至急の使者がやってきました。
国王とラズベリー伯爵に緊急の用件と言います。
国王様と大伯爵は別室で使者の用件を聞きました。
1時間ほど前、ユークリナ国よりの伝書鳩が到着しました。鳩を飛ばしたのはルピネーでした。鳩の携えた手紙には次のようなことが書いてありました。
ユリアナ・ローゼ貿易会社のカザリン支社長ローゼ・ガドゥがポリス国に逮捕、監禁された、と。
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