母親の味というのは、なかなか忘れないものだ。
誰かがそんなことを言ってた。
自分にとって母親の味は、マヨネーズ。
気付いたら何にでもマヨネーズをかける子だった。
マイマヨは、2日に1本のペースでなくなっている。
一人暮らしをはじめた今でも変わらない。
そんなわけでいつも母に言われていた。
「あんたは、母さんのご飯が少々味変わってもわかんないんでしょうね」
うん、そうだね。
私はそう答えた。
だって事実だもの。
ご飯食べるより、マヨネーズを吸うほうが好き。
そういったら、母さんはちょっと悲しそうな顔をした。
「あっそう」
そういった母の顔が、なんだか今でも忘れられない。
それでもこれは止められない。
いわゆるマヨラーってやつだ。
銀○の土方さんも最遊○の三蔵もマヨラー。
マヨラーはカッコイイ。
自分でそう思っている。
止められないものはしょうがない。
そう思いながら、今日の夕食―コンビニ弁当にマヨネーズをたっぷりかけたものを食べようとした時だった。
電話が鳴った。
箸をおいて、電話を取る。
誰だ、こんな時間に。
「もしも…」
「大変だっ!!!!!
大変なんだよぉっ!」
電話の向こうで慌ててるのは、弟だった。
4つ下の、今高校2年生の弟。
「なによ?
彼女と喧嘩でもしたの?」
私がそういっておちょくると、弟は狂ったように呶鳴った。
「そんなんじゃねぇんだよ!!!!
母さんが、母さんが!!!」
そういう弟に私はいやな予感がした。
まさか、まさか…
「まさか、死んだとか言わないよね?」
私は震える声で聞いた。
手も足もがたがたと震えていた
目からは熱いものが伝い、口はあえぐように空気を求めた。
電話の向こうでもすすり泣く様な声が聞こえる。
いやな緊張感。
早く嘘だといって。
今日はエイプリルフールだよ。って。
「その、まさかだ……………」
そういった途端、弟は堰を切ったように泣き始めた。
嘘でしょ。
嘘だ嘘だ嘘だ。
こんなの悪い夢だ。
悪い夢に決まってる。
そうだ、目が覚めたら電話しよう。
母さんのご飯が食べたいな、って。
マヨネーズなんかかけないから。
お願いよ、夢でしょ?
気付いた時は、実家だった。
弟と親戚が居間に集まっていた。
みんな黒い服を着てすすり泣いている。
私もそれを見た途端、また涙が溢れた。
母が死んだという実感が溢れた。
ぼたぼたと床に涙がはじく。
葬式が終わった。
父がいないこの家では、母がいつも中心だった。
この家は売り払い、弟は私の家に来ることになっていた。
だから、家具を片付けていた。
何時までもめそめそしている訳にはいかない。
弟は自分の部屋を、私は台所を片付けている時だった。
何気なく冷蔵庫を開けた。
中にはタッパーや、牛乳やらと一緒にお皿が入っていた。
私は首をかしげて、そのお皿を取り出した。
カレーライスの上にラップがかかっていて、その横には手紙が添えてあった。
そして、それを見て涙を流した。
『理恵子へ
何時帰るか分からないから冷蔵庫に入れておくよ。
帰ったらちゃんと電話しなさいよ。
母より』
そう、母が死んだあの日私は実家に帰る予定だった。
だが、急な仕事で帰れずに母にも電話が出来なかった。
母は私のためにご飯を作って待っててくれたのだ。
私の大好きなカレーライスを作ってずっとずっと待っててくれたのだ。
そう思うと、涙がこみ上げた。
ぼたぼたと、お皿の上に落ちる。
ラップの上には涙の小さな水溜りが出来ていた。
涙を手でぬぐい、カレーを暖めて食べた。
カレーは、マヨネーズの代わりに塩味のしょっぱい涙がかかってまた母の味が分からなかった。
|