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第四十九話
 騎士の詰所は城の外にあるらしく(城の城壁内だけど)、外庭のような場所に出た。
 厩に行く時の道に似てる気がするので、多分厩の近くなんだろう。
 リディルに先導されるまま、城の外を私とかなは歩く。


 厩にさしかかると、人の声が聞こえてきた。
 それも、聞き覚えのある声。
 この声は、昨日聞いた。
 慣れない、男性と接近して聞いていた声。
 フィンマクヴェル・ラシーヌ。
 サティの息子で、昨日城下街に出るときに護衛についてもらった。
 昨日のお礼を言いたいなと思い、リディルに少しだけ時間を貰えるか聞いた。
 リディルは振り向いて私の話を聞いた後、少し優しそうに微笑んでならば一緒にと言った。
 なんだか、恥ずかしくて「一人で行けます」と言って、その場を後にした。
 後で思えば、私もかなと同様護衛対象だったんだ。
 勝手に行くと困るのはリディルだったのにね。
 私はそれをうっかり忘れていた。
 後で聞いた話だと、私を追いかけるようにリディルがかなの手を引いて私の後を追ったらしい。


「ここかな……?」
 厩の扉が片側だけ開いてたので、そこからを覗くと丁度そこには昨日お世話になったフィンが居た。
 フィンは誰かに話しかけながら、馬の世話をしていた。
 フィンと誰か居たのか、私の所からは見えなかった。
「……だよ。笑えたぜ」
「不謹慎じゃないか?」
「そうか? しかしよ『神銀の乙女』が異世界から来るのは知っているが、あの女はなんなんだ? 『神銀の乙女』でもないのに異世界から来たって。カナエ様を謀ってるわけじゃないよな?」
 フィンが誰かと話している内容は、私のことらしい。
 盗み聴きをするわけじゃなかったが、出て行きにくい雰囲気なのは確かで、私の足は動かなかった。
「まあ、確かに怪しいよな。以前も『神銀の乙女』を謀って亡き者にしようとする輩も居たらしいからな。何故、救世主である異世界の『神銀の乙女』を殺そうとしたのか」
「さあな。大方、邪神信奉者じゃないのか? 世界の滅亡を企んでとか?」
「ありえねえ。そんなの女神様にバレるだろって」
「そうだよなぁ」
「「 ははははは 」」
「じゃあ、お前。あの女は何だと思う?」
「さあなぁ」
「まあ、怪しいんだよなぁ」
 私の足は自然と後退りしていた。
「それで、あの女の監視をしてて、どうだった?」
「監視し難かったぜ。いきなり人混みで走り出すし、人の話は上の空で聞いてないし----」
 私、疑われていたんだ……。
 ……そうだったんだ。
 まあ、考えれば解ったかもしれない事か……。
 それに、フィンには迷惑をかけたね……。
 でも、護衛じゃなくて、監視か……。
 私はあんな会話を聞いた後で、出て行ってお礼を言えるほど人間が出来てない。 
 私の足は厩から離れて行った。
 歩く速度は最初はゆっくりと、でも徐々に走るような速度で厩を離れた。
 視線は、どうしても地面を向いてしまった。
 だから、前をしっかり見ていなかった。
 前を見ずに歩けは何処に着くか、広大な城で迷子になるのが解っていたはずなのに。

 


「何処に?」
「え?」
 腕を掴まれ、声を掛けられた。
 声の主は、フーガだった。
 落ち着いた感じの低く渋い声。
 どちらかと言えば、耳心地の良い声じゃないかと私は思う。
 声の好き好きは人それぞれだけど、私はフーガの声は好きだと思う。
 かなの声は可愛くて好きだし、サティの声は元気を分けてもらえるように明るくて好きだな。
 って、声とかそんな事じゃなし、なんでフーガがここに居るのだろうか?
「あの……腕を……」
「……何処に行こうと?」
 あくまで離すつもりはないらしい。
 さっきフィンたちが話していた、私の存在が怪しいからなのかな?
 そう思うと、なんだか掴まれているのが嫌になる。
「えっと……。何処にって……。あの、ここ何処ですか?」
 そういえば、適当に歩いてしまった事実に今気づいた。
 お礼を言ったら、直ぐにリディルとかなの所に戻るつもりだったのに。
 リディルに怒られそうだな。
 相変わらずフーガは無表情に見える。
 若干目を開いてるような、気のせいのような?
「その、フィンさんが居たので、昨日のお礼を言おうと思って……その……」
 そんなこと思わなければ良かったのに。
 そうしたら、自分が疑われているなんて知らずに護衛されていられたのに……。
 護衛じゃなく、監視をされていたと知らなくて済んだのに。
 護衛対象じゃなく、『神銀の乙女』に危害を加えない人物なのかを監視されていたんだ、私。
 だから、フーガが私の腕を離さないのだろう。
 まだ、私はきっと監視の対象だから。
 そう思うと、自然と俯いてしまった。
 なんだか惨めだ、私。
 こんな世界に巻き込まれて来て、疑われて、迷惑をかけて。
 駄目だなぁ、私ってば。
 帰りたいな……。
 家に帰りたい……。
 つい、そんなことを鬱々と考えてしまた。
 フーガは以前私の腕をつかんだままだった。けれども、掴む力は少しだけ緩んだ気がする。
「迷子か?」
 厩であったことを素直に言える程、私はまだ彼を信用していないんだと思う。
 というか、フーガもきっと私を疑っているんだと思う。
 でも……そうだとすると、遠乗りの時の馬上での会話はおかしい気がする。
 彼は私がかなと一緒にこの世界に来た、と言うことを信じた前提で話していた気がする。
 もっとも、私がそう思いたいだけなのかもしれないけど。
 やっぱり人に疑われるのは、寂しい。
 それはそうと、現状迷子なのは確かなので、私はフーガの問いに頷いた。
「そうか」
 フーガはそれだけ言うと、私の腕を掴んでいた手を離し、今度は手を掴んできた。
 いや、握ってきたというべきか?
「……あの……?」
 何故、フーガに手を握られているのだろうか?
 まあ、察しはつくのですが……。
 でも、これは痛いでしょ?
 もう二十歳も超えて、そろそろ恋人の一人くらい居ないのとか親に聞かれ始めた年頃ですよ?
 そんな大人な年頃で、子供のようにお手て繋いで歩きましょうって……。
 恋人同士が好き好き~♪ で手を繋ぐとかじゃなし、迷子予防に手を繋ぐって……痛すぎる。
 そして、凄く、もの凄く恥ずかしい。
 とてつもなく恥ずかしい。
 今直ぐにでも、この手を振り払いたい。
「手……離してもいいでしょうか? 勝手に行動したりしませんから……」
 恥ずかしさのあまり、出た声はとても小さかった。
 フーガは聞こえなかったのか、何も答えず「こっちだ」とだけ言って、ぐいぐい引っ張っていった。

 
 なんですかこの、公開処刑のような辱めは!
 無視ですか? 私の言ったことは無視ですか?!
 手を離してくれーーー!!

 
 口に出してるわけじゃないから、フーガには伝わるはずもなく。
 救いなのは、余り人が通らなかったこと。
 真面目に、ここはドコなんだろうか? 
 厩からそう、遠くへ来たつもりはないのだが……?
 周りはどうやら庭園のようで、背の高い名前の分からない植物の垣根で囲われているようだった。
 垣根は私の身長より少し高く、垣根の向こうに建物があるかないかが良く見えなかった。
 垣根の植物には所々に白い花が咲いていた。
 豪華すぎず、控えめすぎず。とても好印象を持てるような花。
 そんな花の垣根が続く。




 フーガはどんどんと奥へと進んでいるような、そんな錯覚に襲われる。
 私はフーガに引かれるままに、後を歩いて行く。
「あの……何処へ?」
 庭園の外れなのか、少しずつ周りを囲む植物が鬱蒼としてきた気がする。
 というか、なんだか先に見えるのは……竹ですか?
 竹林に……なってるのかな?
 しかし、ここは城壁内のどの部分なんだろうか?
 かな、心配してるだろうし、リディルは怒っていそうな気がするから、早く合流したいけどなぁ……。
 五分か十分くらいは歩いたよね?
 城壁内だとは思うけど、広すぎない?
 私、厩からはそんなに歩いてないはずなんだけど……。
 フーガは何処に向かっているのだろうか?
 

 竹林を進んだところに、一軒の家屋があった。
 ……何処の古い昔の日本の家屋ですか?
 そんな古びているがしっかりとした、一階建ての茅葺屋根の木造家屋が竹林の拓けた場所に建っていた。
「ここだ」
 フーガはそう言って、家屋へと入るよう促した。
 私はそれに従い、家屋へと入った。


 中は時代劇とかに出てきそうな土間に、囲炉裏のある部屋。
 続き奥の部屋には、壁に掛け軸のようなものが飾ってあった。
 なんだか、社会科見学の時を思い出す。こんな古い作りの建物も見学したなぁ。
 普段TVの中でしか見れない物を、生で見れた事に感動したのを覚えている。


 私が建物に夢中になっている間に、フーガは靴を脱がずに上がろうとしていた。
「ちょ、ちょっとフーガさん。 靴を脱いで上がらないと……」
 いや、まあ西洋文化に靴を脱いで上がる習慣がないって、聞いたことあるけど。 
 絶対これ、靴を脱いで上がらないと泥だらけになるから、怒られるでしょ……。
 フーガはその言葉を聞くと、上がろうとしていた足の動きをピタリと止めた。
 フーガのぎこちない動きに、私は首を傾げ、言っちゃいけないことだったのかと不安になった。
 足を土間の土の上へ降ろし、フーガはゆっくりを振り向いた。
「話をしよう」
 フーガはそう言うと、床に腰を掛けた。
よく迷子になる主人公です。更新大分遅れました、申し訳ないです。


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