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第三十九話
「バンチョウ! おかえりなさい。準備はほぼ整ってます。後は時間が来るのを待つだけですよ」
 木箱のような荷物を両手で抱え、運んでいた中年位の柔和そうな男性が、ヴァンに話しかけた。
「ただいま。忙しい時に悪かったな。ちゃんとタニアを連れて帰ってきた。怪我とかもないようだ」
「そうですか、それは良かった。彼女に何かあれば、今日の予定が大幅に変更になりますからね」
 安堵したような笑顔で、男性はタニアに「おかえり」と言った。タニアも少しだけすまなさそうな表情をした後、笑顔で「ただいま」と返していた。
「ところで、そちらの方は?」
 タニアの横に居た私に、男性は首を傾げた。
「あ、あの、こんにちは」
 私は頭を軽く下げる会釈をしながら、男性に向かって挨拶をした。
「ああ、彼女はタニアの恩人だ」
「タニアの……。そうですか。タニアを助けていただき、ありがとうございます。キャラバン一同、貴方を歓迎致します。どうぞ、ごゆっくり楽しんでいってください」
 男性は少しだけ驚いたような表情をした後、凄く優しそうな笑顔で歓迎すると言ってくれた。
 男性は荷物を持ったままだったため、握手などはしなかったが、気持ちはよく伝わってきた気がする。
「あの、宜しくお願いします」
 なんだかよく解らない返事をしたと、私は後で思った。
「さて、俺は部屋に戻る。何かあれば呼べ」
「わかりました。タニアは急いで衣装合わせをしてきてくれ」
 ヴァンはそう言うと、さっさとテントの方へと歩いて行った。
 荷物を持った男性も、タニアに支持を出すと、挨拶をしてどこかへ行ってしまった。


「それじゃあ、私も自分の仕事がありますので。アキネさん。もし、宜しければ私の仕事が終わった後になりますが、食事でもご一緒にいかがでしょうか?」
 美女に、ってかタニアに夜の食事のお誘いを受けました!
 美女からの食事のお誘い……。もし私が男性なら、小躍りするくらい嬉しいだろうな。でも私は女性、私はノーマル。でも、食事のお誘いは魅力的。
 とはいえども、まだ決定できる段階というわけじゃない。
 何故なら私は迷子だ!
「あ、えーっと……。その、嬉しいんだけど、はっきりとした返事ができないや。連れを探さないと」
「それなら大丈夫です。ちょっと公私混同してしまいますが、私たちの仕事が役に立ちます。下手に人混みで探すよりも、ここで待ってください。私たちが手伝いますから。どうか少しでも、恩返しををさせて下さい。貴方の力になりたいんです」
 こうまで言われては、断るすべもない。好意から言ってくれているようだし。
「その……じゃあ、お願いします」
「はい! 任せてください!」
 タニアは女性でも絆されそうな、とても綺麗な笑顔で嬉しそうに返事をした。
 別に、私はノーマルなんだけど、ちょっと……頬が、熱くなった気がする。


「でも、アキネさんにも見てもらいたいから、私と一緒に来るとバレちゃうし、他の場所も忙しいだろうし……」
 タニアは何かを考えながら、ぶつぶつと呟いていた。
「そうだ! バンチョウのところで待ってもらえば」
 何かを思いついたようだ。少し大きな声で、一人で納得したように言った。
 タニアは衣装合わせに行かなければいけないはず。男性に急いでとも、言われてた気がする。行かなくていいのかな……? タニアさーん……?
「アキネさん。バンチョウのところで、時間になるまで待って頂いても良いですか!」
 タニアは迫りながら言ってきた。その迫力は、聞いていながら拒否させない勢いがあった。
 迫力に負けました……。
 まあ、どうするか決まってないから別にいいのですけど。
「あ、は、はい。わかりました」
「じゃあ、バンチョウの部屋に案内します。こっちです」
 そう言いながら、タニアは私の手を引っ張りながら歩き始めた。
 タニアに引かれるまま歩いて行くと、広場の隅の方にある三階建ての木造の家に入った。




 三階建ての木造の家。TVなどで出てくるログハウスのような建物。広場から見える外見より奥行きがあるのか、中は思ったよりも広かった。
 どうやらこの建物は宿屋のようで、一階は酒場兼食堂のようになっていた。
 入口の正面に酒場のカウンターがあり、そこには髭を蓄えた五十くらいのがたいの良い男性が立っていた。男性は仕込みをしているのか、カウンターと奥の厨房を頻繁に行ったり来たりしていた。
 男性は宿に入ってきた私たちを見ると、にっこりと笑顔を作った。
「おかえり、タニアさん。時間に間に合ったようで、本当によかったよ」
「ただいま。ご心配をお掛けしました。バンチョウは部屋に?」
 にこやかにタニアは、男性と受け答えをする。
 なんだろう、今酒場のオヤジと世間話をする。みたいなコマンドを選択した気分だ。いや、RPGじゃないんだけどね。
 酒場のオヤジ、思ったより愛嬌のある笑顔だ。黙ってると厳つい感じがするんだけどねぇ。髭のせい?
「ああ。先程上がっていった。多分まで居るだろう」
「ありがとう」
 タニアと話していた男性、もとい酒場のオヤジと私の視線があった。
 私と視線があったオヤジは、再度にっこりと笑顔を振りまいた。
「お客さんかい?」
「え……っと、その……」
 酒場のオヤジのお客=泊まり客、ないしは食客。
 残念。私はどちらにも今は該当しない。用事もないのに入ってきたのかって、怒られたりしないよね?
「キャラバンのお客様よ。今からバンチョウのところに案内する予定なの。よかったら、何かお勧めの飲み物でも、後で持って行ってくれると助かるんだけど」
 美人さん(タニア)に微笑みながら言われたら、男なら誰でも言うことを聞きそうだなぁ。
「そうかい、キャラバンのお客様か。分かった、とっておきのを後で持って行こう。お嬢さん、ゆっくりしていってくれ」
「あ、はい。ありがとうございます」
 うーん。オヤジってば、愛嬌のある笑顔だ。
 しかし、私ってば……二十超えてるんだけど、お嬢さんって……。
「それじゃあ」
 そう言って、タニアは私を連れて三階へと階段を上がって行った。


 

 コンコンッ

「誰だ?」
「タニアです。アキネさんもご一緒です。入っても良いですか?」
 丁寧なノックをした後、部屋の中からヴァンの声が聞こえてきた。
 部屋の中で歩くような音がした後、ガチャリとヴァンが中からドアを開いた。
「どうしたんだ? まあ、立ち話もなんだ、入れ」
 そう言って、ヴァンはタニアと私を部屋へと招き入れた。


 部屋の中は八畳くらいありそうな部屋で、窓から広場を一望できた。また、広場のステージ台がとても良く見える位置だった。
「それで、どうしたんだ?」
 ヴァンは部屋の中央にある丸テーブルとセットの椅子に腰をかけ、私とタニアを見た。
 丸テーブルの上には事務処理でもしていたのか、書類のような紙が何枚かに羽ペンとインクボトル。ファイルのようなものまで、机の上に置いてあった。
「時間まで、ここでアキネさんに時間を潰して頂こうかと思って。他の人達は忙しいだろうし、私と一緒だったら、何をするか分かっちゃうから。驚いてもらいたくて」
「アキネに見て貰いたい、ということか?」
 ヴァンの質問にタニアはとても嬉しそうな笑顔で、「はい」と答えた。
「……わかった。まあ、見ての通り何も無い部屋だが、寛いでくれ」
 ヴァンがそう言って、私に笑いかけたような気がする。
 気がするというのは、ヴァンが部屋の中なのにまだサングラスをかけているからだ。
 サングラスかけたまま、事務処理とかできないでしょうに……。外したくない理由でもあるのかな?
「それじゃあ、アキネさん。また後で。楽しみにしていて下さいね」
 ヴァンと話がついたタニアは私に向き直り、挨拶をすると部屋から出ていってしまった。
 衣装合わせがあるんだっけ。
 遅くなったって、怒られなければいいんだけど……。

 
 タニアが部屋から出ていって、ヴァンと二人部屋に残された。
 気づけば、部屋にヴァンと二人っきりか。
 よくよく考えると、男性と部屋に二人っきりって、あまりないシチュエーションです。
 私たちの居た世界じゃ、私は男友達とは大体三人ないしは四人などで居て、二人っきりで居るということはなかったし。ましてや、部屋に男性と二人っきりって……何気に私、そんなの初めてじゃない!?
 ってか、何話せばいいんだろうか。さっぱりです。
 私たちの居た世界じゃ、友達の話やゲームの話、世情の話など色々共通の話題があったけど、私この世界のこと何も知らないから、共通の話題とか思い浮かばないや……。
「……二人っきりだな」
 ヴァンが椅子に座ったまま、ポツリと呟いた。
 部屋には私とヴァンの二人だけだから、よく聞こえた。
「まあ、座れ。タニアの恩人に何もしやしない。安心しろ」
 立ったままで近づかない私に、ヴァンは苦笑いをするかのように言った。
「あ、はい」
 私は言われるまま、ヴァンと対面の椅子に腰掛けた。

 
 サングラスをかけたままのヴァン。
 手には先程まで見ていただろう書類を持っているが、目を通すような仕草はなく、じっと正面に座った私を見ている。
 って、何で私をじっと見るんですか?!
「あの、何か……?」
 自分から真正面に座っておきながら、自分はヴァンをジロジロ観察していながら、自分が観察されているようなのは落ち着かない。なんとも理不尽です。私。
 落ち着かないので、つい言葉に出しちゃいました。
 ヴァンはそれがわかったのか、口の端を少し上げて、笑ったような気がする。
「いや、実は少し楽しみだったんだ」
 楽しそうな声音のヴァン。機嫌が良さそうですね。
「何がですか?」
「アキネ、あんたと話をするのがだ」
「……はぁ? 私と話をするのが……ですか?」
「そうだ」
 ヴァンの言葉が理解できずに、私は呆けた返事しか返せなかった。
 私の呆けたような返事に、ヴァンは楽しそうに答えた。


 ヴァンは答えた後、会ってからずっとかけていたサングラスを外した。
ヴァンとタニアちゃんが出ずっぱりです。そのくせヒロインだろうかなちゃんがずっと出てません……。主人公はヒーローの予定。多分。
ところで、白い生き物は何処で出てくるんだろう。出てから、あまり目立ってないぜ。


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